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メイドたち

崖を降り切った俺たちは、暗くなっていく中

がけ下の平野を西側に歩いていく。

馬に乗ったルーナムに先導されて、

ライオネルに乗ったミーシャ、徒歩の俺と元盗賊団たち、

そして未だにライガスが寝かされている馬車をパナスが御者をして進ませる。

薄暗闇の目前に城を中心にした巨大都市が見える。

「うむ。いい感じに暗くなってきました」

馬上のルーナムが、前を見ながら頷く。

「多少、北東側に逸れましょう。

 そのまま街に入り歩けば、城の裏門側につくはずです」

「了解ですぜ。ルーナムさんに俺たちはついてくぜぇ」

徒歩のザルガスが調子を合わせて、俺の顔を見て頷く。

そのまま俺たち十七人とルーナムは進み続け。

日が西の空へと完全に沈み、辺りが暗くなると思いきや

巨大都市ホワイトリールの街の灯が周囲を照らした。


「昼間みたいに明るいね」

ミーシャとライオネルが不思議そうな顔をして

「ローレシアンの主要都市は皆こんな感じですよ」

とルーナムが馬上から微笑む。

俺たちは、麦や野菜が生い茂る、穀倉地帯をぬけて

ホワイトリールの裏街へと入っていく。


「ここが裏街なのか……」

元盗賊団の面々が口々に驚きを口にする。

綺麗なレンガや、石壁で造られた家々はどれも汚れておらず

道行く人々も小奇麗で皆幸せそうな顔をしている。

数々の戦闘や旅で薄汚れている俺たちがかなり浮いている感じだ。

「一ダール(時間)くらい歩けば城門にたどり着きます。

 迎えの者も待たせておりますよ」

ルーナムは自らの旅装の埃を掃い、手ぐしで髪を整える。

「兄さん、世界って広いんだねぇ……」

ミーシャは煌々とした街灯に

照らされた店や家々を物珍しげにキョロキョロと見回す。

「妹様は、ドレスなど着られますか?」

ルーナムが馬を寄せて、不意にミーシャに訊く。

「わっ、わたし!?きっきっ着たことないよ!」

ミーシャが被っているバンダナをずらしながら

両腕を必死に振って否定する。

「ふーむ。王への謁見の時のためにこの城で慣れてもらいますか……」

ルーナムは馬上で考え込んでいる。

裏町の中心部を通り過ぎるときに

巨大な鎧を着て、長槍を槍投げの態勢で持った

精悍な石像が建っていた。

それに通り過ぎる人々が次々に手を合わせて頭を下たり、花を捧げたりしているのを

見かけた俺は妙に気になってルーナムに

「あれは?神様の像?それとも英雄か?」

と尋ねる。ルーナムは一瞬慌てた顔をすぐに消して

「……英雄様ですね。数十年前に我が国の危機を救ったお方です」

と咳払いをしながら俺に答えた。

そのやりとりを目ざとく見ていたらしいザルガスが

「知識のモーラ!!あの像は何だ!!」

と後方の元盗賊団たちに叫ぶ。

すぐに猫背で頭巾のモーラが前方に出てきて

「ううむ……」

と唸ると、素早く石像の方へと走っていく。

そして立ち止まった俺たちのところへとすぐに帰ってくると

「御頭、少しお話があります」

とザルガスと何やら歩きながら話し込みだした。

「わかった。戻っていい。助かった」

モーラは一礼してから後方へと戻っていく。

「ルーナムさん……あとで旦那と三人で、ちょっといいか?」

ザルガスが馬上のルーナムを見上げながら声をかけ。

「わかりました。城内でゆっくりとお話しましょう」

とルーナムは仕方無さそうに頷く。


さらに歩き続けると、水の張られたお掘りに囲まれた巨大な城門が見えてくる。

「うむ。皆来ておるな」

ルーナムは城門前のお堀にかかった大きなつり橋に

、かがり火に照らされて

ズラッと横に並んだメイドたちに目を緩ませる。

「ザルガス殿、皆大事な我が部下達です。

 お体へのご奉仕は別にご用意させますので、大事にお扱いください」

「……ぶっ、がっはっは!!うちの部下は変わりもんばかりでな。

 そういうのより、本人たちの希望を訊いて

 本やら、珍品、それに旨いもんを沢山用意させてやってくれ」

意外な忠告に噴出したザルガスに、ルーナムはほっとした表情で

「助かります」

と呟いた。

俺たちが近づいていくと、一列に並んだメイドたちの中で

「みんな、いくよーっ!!せーのっ!!」

青い髪でショートヘアーの少女が声掛けをして


「ようこそっ!!ホワイトリール城へ!!」


と二十人ほどの元気の良さそうなメイドたちが一斉に笑顔で頭を下げる。

「おお!!女だ!!活きの良さそうな女たちの声だ!!」

衰弱していたはずのピンクモヒカンのライガスが

馬車の中からいきなり起き上がって飛び降りて

メイドたちの方へと全力で走っていく。

「すまん、ルーナムさん。あいつだけは例外だったわ……」

「……一人なら何とかなるでしょう」

ルーナムは手を広げながらため息をついた。


ライガスは一番体格の良い

女子プロレスラーのような筋肉質な二人のメイドに瞬時に捕まり

両腕を掴まれて嘆きながら城の中へと連れていかれていった。

ザルガスや、元盗賊団の皆にもそれぞれ、一人ずつ

担当のメイドがついたようだ。

最初に声掛けをした青髪の少女メイドが

「タジマさまー、タジマタカユキさまはどこですかーっ」

と俺を探して、ライオネルから素早く降りたミーシャが

「タジマさまはいませーんっ!」

と俺の前に闘争心むき出しで立ちふさがる。

それを見かねたルーナムが

「タジマ様はここだ。くれぐれも失礼のないように」

と一言告げて、元盗賊団たちをメイドたちと共に城内へと誘う。

「がるるるるっ」

何故か俺の前で、戦闘態勢をとり、

威嚇するように唸っているミーシャに困惑しながら

その少女はミーシャの頭越しに名前を告げた。

「アルナと申します。身の回りのお世話するようにルーナム様から申し付けられました」

「兄さんのお世話は私がするからいりませーんっ」

「そうは言われましても……」

困惑している。アルナの後ろで、何かに気付いたライオネルが

「バヒヒッ」

と大きく嘶く、良く見ると隣にボーっとした

長い黒髪でメイド服の、眉の太い小柄な少女が

ライオネルを見上げながら立っていた。

「うま……いいな。うま……のりたい」

「マイカ!!失礼でしょ」

「すいません!この子、トロくて」

マイカの隣に並んだアルナは、マイカの頭を抑えて無理やり俺たちに

頭を下げさせ、自分も必死に下げる。

「……ふーっ、いいよいいよ。たぶん、おない年くらいでしょ?」

マイカの異常にスローな態度に、

すっかり毒気を抜かれたミーシャが近寄って優しく尋ねる。

「あなたが私の担当なの?」

「ミーシャ・タジマさま……担当……あなた……だれ」

「わ、わたしだよっ……ミーシャです……」

「ミーシャさま……ご、案内します……」

「よ……よろしくぅ……」

肩を落としたミーシャが、マイカと二人でライオネルに乗って

つり橋を渡り、城内へと消えていく。

周りを見回すと、俺とアルナだけになった。

アルナも周囲を見回して、自分たちだけが遅れたのに気付き、

焦った様子で喋る。

「タジマさま!!ごっご案内、い、いたしましゅ!!」

緊張しすぎてかんだらしいその少女に、俺は余裕をもって

「気楽に行こうよ。ゆっくりでいいよ俺は」

穏やかに返してあげる。

「すいません……初めてのお世話が……まさか、

 流れ人様担当だなんて思わなくって」

そして少女はつい漏れたらしいその言葉に気付くと、必死に口に両手を当て

「あっ、あっ、今のはなんでもないですっ」

と慌てふためき、一人で城の方へと駆け出す。

「おーい……案内はー……」

置いていかれた俺の方へと、真っ赤になったアルナは再び駆けて戻ってきた。

「すっ、すいませ……」

今度は俺の腕を掴んで足早に城内へと歩き出す。

俺は、ずいぶん強引かつ、漫画の中でしか見たことのないドジッ子ぷりに

呆れていいのか、面白がっていいのか困惑しつつも

目前の高い城壁と高い塔が幾つもそびえる

巨大なホワイトリール城を、見上げながら、その中へと入っていた。

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