表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 中二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1572/1587

ここでお別れです

膨張していく自らの物理的な肉体を冷たく眺める半透明な鈴中は、軽く鼻息を吐くと

「じゃあ、反撃開始しましょうかね」

と口から、平面的な人影を吐き出した。

人影は頭の部分に口を開き、そして喋りだす。



暗い影が先ず在り、光が射した

それは永遠に、無限に何処までも広がっていく様な気がした

全ては同じ流れの中のもので、次元を下げながら離れていった

あなたは、どこへ行った

あなたは何処にいる

かつて触れられたあなたを、触れたことのないあなたを感じる

光は満ちていき、そして陰っていく

私は暗い影に戻る。あなたを忘れる

あなたは私を忘れていく

ああ、全ての言葉足らずな詩人達へ

全ての語り足りない物語へ

それらが繋がり、混ざり合い

陰り行く私を救うというのなら

正午の光射し消えゆく私を焼き付けるなら

どうか覚えて居て欲しい

恒星の熱でひしゃげたヤカンの様な

油の滲んだ水溜りの様な

額縁に入れられた破れた恋文の様な

辻褄の合わぬ美しさを

のたうつ生き物の性根が昏く射した

このマイナス270.45度の静寂よ

どうか覚えていて欲しい




人影が黙ると、辺りの景色が歪み、そして戻る 

鈴中はニヤニヤしながら人影を乱暴に捕まえると自らと重ね、再び同化する。

「もう後戻りできないわ!」

顔をこれ以上無いほど歪め叫んだ。





ロボの宇宙船内では、但馬が両目を見開いて

「あっ、まずい。引き込まれる」

と呟く。アルデハイトが凄まじい指さばきで立体タッチパネルを叩き、宇宙船外にピンク色の泡を張り、それは無数に増殖していく。但馬は冷や汗を拭うと、座席に倒れるように座り込み、寄り添っている多賀に心配そうな表情を向けられた。

アルデハイトはモニターを眺め、パネルの操作を続けながら

「こちらとあちらの宇宙、それに準ずる全パラレルワールド、ゴミが宇宙外の部品で造った造った偽りの世界の統合が行われます」

クラーゴンが眉を潜めて

「この星系は大丈夫なのよね?」

「ここだけは、エリンガ人たちが壊し尽くしているので無理です」

多賀が心配そうに

「あっちの世界のみんなは大丈夫なの?」

アルデハイトはニヤリと笑うと

「宇宙ゴミがアカツキさんとの同化は望まないでしょう」

実に嬉しそうに言った。




夕暮れのグラウンドで雨が止み、真顔になったシゲパーが

「皆様、気を確かに持ってください」

山口、高崎、キョウスケ、ジョニー、暁、佐山、そしてバムを見回した。

ポスィが申し訳なさそうに

「師匠がタジマさんを引き寄せるため、世界の統合を始めた。皆はそのまま落ち着いて…」

ジョニーが心配そうに

「俺の星も?」

アグリゲスが頷いて

「今は耐えてくれ。どうにかなる予定だ」

真剣な眼差しで皆を見回す。

暁がいきなりニカッと笑って、剥離した夕暮れの空に向かい顔を上げると、腹から息を吸い込み

「美射ちゃん!私はあなたを全部許すよ!」

と空気に浸透していき空を晴らすような迷いのない声で叫んだ。


膨張していく自らを見つめる半透明な鈴中の冷たい瞳に大きなヒビが走る。彼女は首を横に振り

「暁さん、違うの。赦しも許しもいらないの。私は但馬が欲しい。罪の意識もないわ」

と言うと、膨張している自らを離れ、半透明でいつものセーラー服姿の鈴中の姿で、宇宙空間を滑るように進みだした。





エリンガ星系と、夕暮れのグラウンド以外の全ての宇宙、パラレルワールドでは猛烈に統合が進んでいた。

ナーニャはゲシウムのヒモカヌール湖を望むリビング、ソファに座ってそれを感じながら、戦慄した表情を浮かべる。

ミラクが何事もなかったかのように、お茶を淹れ、テーブルに置き、横に座ると

「この閉鎖空間も統合できません。滅亡因子である私が居るからです。全て壊しては元も子もありませんからね」

「でもーみんながー」

ナーニャは頭を抱える。ミラクは微笑んで

「物事には顛末があります。強い影響力のあるあなたが巻き込まれないようにするのは大事です」





両方の宇宙の時空が無数のパラレルワールドを含め、統合圧縮され、爆縮を繰り返しだした。終わりと始まりが同時に来て、始まりが終わりを生み、あらゆる長大な、些細な事象までもが等価に並び、それらは混ざり合い、溶け合ってまた離れていき、溶けだそうとして波のようにぶつかり合い、波は瞬時に無となり、その無を不特定多数の瞳が覗き込み、物質の流れになり、すべて突如絶えたかと思えば、噴火するように噴きだし、無数に重なっていく。生命の意志の軌跡が無機質な無限に彩りを添えて、同時に汚濁もぶちまけていき、それらも爆縮の繰り返しで明滅する。




桃色の泡に包まれたロボの宇宙船内では、居ながらにして全てを感じ取った但馬が冷や汗を流してモニターを眺めていた。

「あ、あいつ、どうにかしないと」

立ち上がろうとする但馬をクラーゴンが押さえつけて止める。多賀も心配そうに但馬を眺める。

「私も感じていますが、もはや我々の手に負えないかと」

涼しげにモニターを眺めるアルデハイトは

「我々は今や無力な撒き餌に過ぎません。そして宇宙ゴミは必ず引っかかります」

と言うと立ち上がり

「というわけでタカユキ様、ここでお別れです」

と爽やかに笑う。

但馬とクラーゴンは一瞬、顔を顰めたが、元々理解していた表情で頷き、多賀は

「えっ、なんで!?」

悲鳴をあげた。アルデハイトは楽しげに笑いながら

「私にも意地があるのです。あの宇宙ゴミに一矢報いねばなりません」

「でっ、でも!確か婚約者も!」

クラーゴンが立ち上がり

「レンちゃん、もう良いのよ。高次元人である虚無の王様にとって、些末な遊びよ」

アルデハイトは真顔になり

「この星系に今、存在する高次元人は、私のみです。我々は個体が少ないが故に、種族的結束が強いので、このような事態が起きたとき、種族全体の生き残りのためなら、迷わずに自己犠牲を選びます」

多賀が混乱した表情で

「い、言ってる意味が分からないんだけど!」

アルデハイトは心底嬉しそうに笑うと

「一手ずつ準備して、ようやく、宇宙ゴミと何の気兼ねもなく決着をつける場が用意されたということです」

そう言い残し、ずっと居た操縦席付近から消えた。唖然とする多賀を立ち上がった但馬が支え、クラーゴンがポツリと

「負けるでしょう?」

但馬が

「ああ、消え失せる。ただ、意味はある」

多賀が泣きそうな表情で分割されたモニターを眺める。









「せまっ」

ようやく1人立てるだけのスペースにパジャマ姿のアイが立っている。足元も四方も蠢く壁に囲まれている。壁は圧縮された時空間なのだが視覚的には虹色に輝いているだけだ。

「またジョニーが何かしたでしょこれ……」

アイは大きくため息を吐くと壁に触れようとする。すると壁が嫌がるように避けたので何か気づいた表情となり、そのまま右手を翳し壁を退かしながら進み始めた。

「ジョニーじゃないなあ……」

ゆっくりと歩いていきながら

「私を嫌がっているということは、スズナカか……ジョニーよりもっとろくでもないなあ」

左右を見回し

「ジョニーが何処にいるのか分かっちゃう自分がホント嫌」

顔を顰めてから大きく息を吐き、手を翳し、壁を退けながら仕方なさそうに歩いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ