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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 中二


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1569/1587

泣かないで

「レンちゃん、ごめんね。時空間の安定に注力させて」

鈴中と人影が、大いなる翼でソファに座る、妊婦服を着た、お腹の大きなレンと、テーブル越しに対峙する。

揺らいでいる人影が

「もうすぐ生まれるのか?」

レンは嬉しそうにお腹をさすりながら

「双子なの。男の子と女の子」

鈴中は一瞬目の輝きが消え失せる。

人影は気にせずに頷きながら

「しかし良いのか?その子達を鈴中の退避保存の練習のために一時分離しても」

レンは微笑んで頷くと

「私より、あの人との子供達が大事だから」

真っ青な顔になった鈴中は気分が悪そうにワープで退室して、座っていた場所にはポスィが滲み出てきて座る。そして頭を下げ

「師匠がごめん。子供達はマシゲさんが守るから」

レンは微笑んで

「全てが終わったあと、私と再結合させることが安定に必要なんでしょ?」

人影は頷くと

「鈴中の望む未来と我々が望む未来は相容れない。本来の我々が一度消え失せ、鈴中と但馬がより強大になった時、2人は暴走するだろう」

ポスィが頷き

「師匠はどさくさに紛れてレンさんと子供達を消すか、それに準ずることをする可能性が高い、それでも良いの?」

レンは肝の座った笑顔で頷くと

「私達は美射ちゃん含めて全員で一つでしょ?そうやってここまで乗り切ってきたし、何よりリーダーのマシゲちゃんを私は信じてる」

人影は右手を差し出しレンと強く握手すると

「済まない。私があらゆる手を使い、皆を必ず櫻塚町へと戻す。レンには本来の人生でその子達と必ず再会できると約束する」

「マシゲちゃん、泣かないでよお。私はずっと覚悟してやってきたし、乗り越えて来たでしょ?」

「……すまない」

ポスィが険しい表情となり

「私も皆が消えた後、頑張って師匠を抑えてみる」

と言った。







虹色の幕に包まれたアグラニウスが見える月面を、横になり漂う揺らいでいる人影が横に並んで漂っているアルデハイトに

「意志を持った欠落が、壊れた世界から這い出てきた」

アルデハイトは人影を見ず

「管理担当である私に、見逃せ、と」

「そうだ。予測通り襲いかかる歴史の修正者を難なく壊しつつアグラニウスへ向かっている」

「……正直、、それほどやり直したいですか?」

人影はしばらく黙った後に

「やり直させてやりたい、と言った方が正しいか?」

アルデハイトはやるせなさそうに

「あのゴミは最終的には、あなた方が苦労して作った欠落、意志を持った欠落が作り出した時空間の歪み、更には歴史の修正圧力まで取り込み、その歪みによってタカユキ様を吸収しようとしますよ?」

人影は笑い出して

「鈴中美射というどうしようもない人間を、私は好きだ」

「告白ですか」

嫌そうに皮肉を言ったアルデハイトに

「愛ですらない一方的な恋のためだけに存在し続けている。実に涙ぐましいじゃないか」

「あなた方が苦労している原因だとしてもですか?」

人影はまたしばらく黙り込んで

「私は楽しかったよ。他の皆も多かれ少なかれそうだろう、終わりよければ苦労は良い思い出となる」

アルデハイトは浮いたまま肩をすくめ

「まあ、私としては宇宙ゴミを究極的に出し抜ける、そのアイデアを買うのみです」

「……ミサキは好きか?」

突如問うてきた人影の顔をアルデハイトは「はあ?」と言った表情で見返すと

「……横に居て欲しいですね。好ましい人格です」

ポツリと呟いた。人影は頷き

「全てが終わった後、そうできるようにしておく」

と言った。






「途方もない解体と結合は終わった。あとはフォルトナが全てを繋げるでしょう」

鈴中がブラックホールに分離しているように見えながら飛び込む無数の自らの分身たちを眺めながら呟く。

「もう少し、もう少しで私の望んだ未来へ」





「とか宇宙ゴミが言ってますね」

モニターには相変わらず異様なホワイトホールが映っている。操縦桿を握りながらアルデハイトが言う。聞いた但馬は苦笑いして

「解体と結合ってなんなんだよ」

アルデハイトはモニターを見ながら顔をしかめ

「取り返しのつかない大きすぎる欠落を、あえて作り出すことで、その欠落を埋めようとする時空の動きを利用する企みです」

「よくわからんけど、それが成功したら?」

アルデハイトは引きつった笑い声を立て

「多様な意味があるのですが、宇宙ゴミ的な側面からだけ解説しますと、引き込まれたタカユキ様が、宇宙ゴミと結合します」

クラーゴンが興味深げに

「性的な意味で?」

「それも含めてです。とてつもない存在が生まれます」

「あいつ、やっぱりダメだな」

但馬は心底呆れた表情をする。クラーゴンがふむふむと頷いて

「違うから良いのよお。同じだとつまんないわあ」

アルデハイトはノールックで但馬に脇に立てかけてあった輝くフォルトナを投げ渡した。

但馬は仕方なさそうに受け取って

「開始か?」

アルデハイトは黙って操縦桿から手を離す。




ブラックホール手前の鈴中は優しげに微笑んで

「そういうことね。全部受けてあげるわ。あなたたちも受けなさいな」

そして姿を消した。




但馬はフォルトナを両手持ちで一瞬構えた後、苦笑いして座席に座り直し、フォルトナを横に立てかけた。

「ないな」

「ないでしょうね。今は見ていれば良いですよ」

と言いながらアルデハイトは、操縦席の全モニターを切り替えていき、今までこの星系で訪れた星々を表示させていく。

それらの一部ではすでに激しい変異や膨張、爆発が始まっていた。クラーゴンがもったいなさそうにうなだれて

「貴重な惑星をなんだと思っているのかしら」

アルデハイトはモニターを見回し

「全て、破壊するつもりですね」

「こっち、いきなり来る気ないな」

但馬がモニターを眺め、目を細める。

「あからさまな罠だからです。完全に他要素を削りつくしたら来るつもりでしょう」

コイナメが不思議そうに

「ミイちゃん時間関係ないのに、なんで、わざわざ時間を使って星を壊して回ってるの?」

アルデハイトが苦笑して

「勝手に書き換えられないほど、エリンガ人たちが時空間を壊したままだからですよ。だから、マイカさんが用意した順路を通るしかない」

皮肉めいた口調で言った。


シャボン玉が弾けるようにパチンと消えた惑星もあれば、これ以上ないほど横に引き伸ばされて無数に弾け飛んだ鉱石星もあり、但馬たちは凄惨な光景に顔をしかめる。

「元に戻るのかしら?」

とクラーゴンが心配してアルデハイトが

「戻せないような破壊方法を選んでいます」

但馬は少し苛立った顔になり

「俺と引き換えにするほどか?」

アルデハイトは苦笑して

「苛立たせているのはわかっているでしょう?ゴミは不完全ですが、欠落を引き連れて来ていますから、あっちにワープした瞬間に引きずり込まれて、パクリですよ」

但馬は表情を消し

「言ってみただけだ」

クラーゴンが微笑んで

「お優しいアピールですよねー?」

「タカユキは優しいよ」

コイナメがそう言うと、自分で頷いた。


さらに姿の見えない鈴中は惑星や鉱石星、恒星までも破壊し続け、そのたびにモニターの分割画面をアルデハイトは一つずつ消していく。そして光を吸い込みながら虹色に渦巻くブラックホールを正面モニターに大映しにすると、

「入り込みました」

と言う。クラーゴンが

「確か、壊れた鉱石惑星が、寸分たがわぬ別物に再生されたブラックホールよね?」

「正解な解説ありがとうございます。あれは、私も通る時、多少罠を足しておいたので少しはもつでしょう」

「どうなるの?」

コイナメが尋ねると彼は邪悪な笑顔で

「あのブラックホール内にはあなたたちがいます」

「私たち?」

「そうです。高次元人の私はホールの保存効果でも再現は難しいですが、クラーゴンさんとコイナメさんは完全再現、タカユキ様の七割ほどは再現されるでしょう」

「それを見てまた悩むと」

「だったら良いのですがねえ」

アルデハイトは表情が表現しきれないような悪意ある真っ黒な笑みを浮かべた。




前後や上下左右裏表が同時に存在しているブラックホール内では、鈴中がロボの宇宙船内の座席に座る全ての情報が表出して通常の視界では認識不能ほどブレて形状の揺れ動いている但馬に恍惚な表情で触れていた。

「ああ……一緒だ。能力的には違うけど、但馬のあったかさがちゃんとあるわあ」

そう言いながら、鈴中は但馬を全身に吸引していく。それが終わると、クラーゴンとコイナメたちの分身も吸い込んで、操縦席を鈴中側に回し、鈴中に中指を立てているアルデハイトを眺める。

「で、中和を始めるわけね」

アルデハイトは憎しみに満ち満ちた表情で

「お前が完全に理解して、把握している過程と結果を大いに楽しめ」

そう吐き捨てると、パアンッと弾けて消えた。




本来のロボの宇宙船では、但馬がフォルトナを持ち静かに操縦室の中心に立っていた。

アルデハイトも立ち上がり

「再解体と再結合の準備は整いました。これからタカユキ様には、ある宇宙に生じた欠落を再生していただきます」

クラーゴンが真顔で

「解説いただけるかしら」

「宇宙ゴミの使徒たちが、ある程度あちらで解体されたタカユキ様の元仲間たちを結びつけてくれたので、最後のピースであるフォルトナを使い、宇宙ゴミが最も嫌がっている存在を蘇らせます」

「楽しそうだけど、今ここでやる意味は?」


「……ヤツの核である、異界の書、つまりトーキング フォー ザ リンカーネイションの物語性を完全に崩壊させられます。真実を知る者たちが揃うことで、書物の形をとったその核の内容が、文頭からサイコパスが綴る嘘しか書いていないストーリーとなり、核そのものの力を削りとれます」


クラーゴンが苦笑いして

「あれは私も手に取ったけど、まあひどかったわ。骨だけにされるほどだった」

フォルトナを携えた但馬が苦笑いして

「美射はそんなヤツだよ」

と言う。コイナメが心配そうに皆を見つめる。

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