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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 中二


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1567/1587

道路

「ミラムーンさんです」

宙に浮いているシゲパーが、校舎の中で他の生徒と授業を受けている制服姿の痩せた女子高生を指さす。彼女はボサボサの金髪をツインテールにしている。隣で浮いている山口が苦笑いしながら

「面識がある。わざわざ、10万ラグヌス前に来た意味は?」

近くで浮いているアグリゲスが

「因果に汚されてない状態だからだ。分割された直後に近い」

ポスィも頷いて

「因果を歪ますタジマさんたちと半端に関わってるから、山口さんと同時空帯のミラムーンさんは、もはや別物に近い」

「それもサイコのあえての汚染なんだがな」

アグリゲスがそう言いながら顔をしかめる。山口の背後で浮いているジョニーと高崎は苦笑いする。山口は

「頭の良い人で、苦労人で、委員長タイプだ。こう言ったらミラムーンさん本人には失礼かもだが、6つ目の分割には相応しいかもな」

シゲパーは真剣に頷いて

「ここまでは紹介も容易いのですが、最後のひとつが問題です」

ジョニーが塩顔をゆがめて

「また、ものなんだな?しかも厄介だろ?」

シゲパーは頷いて

「ここで一度止めて、閉鎖された空間へと一度戻ります。高崎さんに見せたいものがあるので」

そう言った。






「フォルトナがさーほっしいーんだよねえ」

「うわっ、びっくりした!」

どこかの校舎裏の外階段で、紙袋から取り出した菓子パンを取り出した制服姿のナーニャの横に、全く同じ制服姿の鈴中が出現する。

「どこにあるのー?」

「うー知らないよー……」

ナーニャはとぼけながら、明らかに焦った表情で菓子パンを二口で飲み込んだ。

「で、どこにあるのー?」

「ミイ先生ーもうやめようよー。お父しゃんそろそろ帰ってくるでしょー?私わかるよー?」

鈴中は寂しげに

「それじゃ駄目。私が見つけないと意味がない」

ナーニャは困り顔で

「私がせっかく学校に来たのにい……」

「2限目からもうサボってるじゃない」

「3時間目からは出るよお」

鈴中は大きく息を吐くと

「教養って、あとから効いてくるのよねえ。若さとか意欲とか消え失せた後に、下世話なものだけじゃないって大事よお?」

「うー……難しいこと言わないでよお」

しばらく二人は並んで黙った直後、紙袋を残してナーニャがその場から消える。鈴中も無表情で続いて消えた。


黒雲が渦巻いて、稲光が瞬く荒野に出現して宙を凄まじい速度で駆け出したナーニャの横に黒尽くめで顔半分をマスクで隠したセイが出現する。

「かかったな」

と言うと、ナーニャの身体を思いっきり遥か彼方に投げ飛ばし、続けて出現した鈴中の腕をつかんで止めた。鈴中は不快さを隠さず

「やめてくれる?」

セイはマスクの下でニヤリと笑うと、全身を発光させ、次の瞬間には全ての地平や不穏な大気が吹き飛んでいた。

遥か果てで、ナーニャが微かに開いたワームホールに入っていく。


桃色の泡に入ってあぐらを組み、頬に手を当てた鈴中が、その横で全身がボロボロになって寝ているセイを愛おしそうに見つめる。

「足止めとしては悪くないわ」

セイは目を開けずに口だけ動かし

「だろう?」

鈴中は大きく息を吐くと

「セイちゃん殺すわけにはいかないからね」

セイは満足げに笑って

「いや、今から死ぬ。もうダメだな」

鈴中は右手の指先をセイに指した。途端にセイの頬に血色が戻る。セイはまだ目を閉じて寝たまま

「ちょっと、乱数調整ついでに話をしていけ」

鈴中はフッと表情を緩め

「……良いわよお。時間なんて私にはないし」

セイは寝たまま

「お前はそれで良いんだよ。そしてセイ様もこれで良い」

「お互い、救われないわねえ」

「だから良いんだ。セイ様は好きに生きるし、お前も好きにタカユキを追うのをやめない」

「……次の言葉はキツイけど聞いてあげるわ」

「好きに生きてるから、孤独なんだよ。好きにやってるから誰も振り向かないんだ」

鈴中はあぐらをかいたまま、膜の外の宇宙を見上げ

「でも、やめられない。と」

「そういうことだな」

二人は乾いた笑いを立て、すぐに黙った。

鈴中は真顔で

「お金とか社会的システムって、人格と直接関係ないから、能力さえあれば我々みたいな勝手なのでも関われるのよねえ。でも、愛や友情って、そういうのと関係ない」

「文化もな、アクセスするやつの経歴や人格なんてコンテンツは査定しない」

「寂しいもんよね」

「そうでもない。はみ出し者たちが社会システムを作り、文化を作って、我々みたいな愚かな後進に勘違いさせてくれる。生きていていいんだってな」

鈴中とセイは今度は朗らかに笑い合い、鈴中はセイの横たわった身体を指差し

「じゃ、終わるまで退場ってことで。シゲパーに頼んどくわ」

と言うと、魔族の聴力で聞こえるような微かな声で

「もう少しだけ、付き合って」

そう呟き、セイの身体を何処かへ飛ばした。







夕暮れのグラウンドのど真ん中に横たわったセイが飛ばされてきて、シゲパーたち3人と佐山とバム、山口、ジョニー、高崎が駆け寄って来た。ボロボロのセイは何事もなかったかのように立ち上がると

「予定通りだ。かかった」

と言った。

遅れて校舎から駆け出てきたキョウスケが

「餌に食いついたな?」

セイはニヤリと笑い

「ああ、余程フォルトナを渡したくないらしい」

頷いたキョウスケは高崎に駆け寄ると、両手で細い両肩を掴み

「よしっ!悟!俺だ!山根鏡輔だ!」

「……」

ポカンと背の高い金髪美青年を眺めたフンドシ姿の高崎は

「あれっ……あれ……なんか覚えて……」

一瞬、呆けた様な表情をするとポツリと

「キョウスケ……?」

「そうだよ!お前の親友のキョウスケだ!お前の最後の欠けたピースだ!」

高崎の周囲を桃色や虹色の閃光激しくが包み込み、ジョニーが思わず目を背け

「うおっ!まぶしっ!」

と言ったのと同時に閃光が消え、現れた高崎の全身は、程よく筋肉がついた健康的な痩身に変わっていた。

「僕……そうか、僕は……」

キョウスケの身体も同じような閃光が包み始めるが直ぐに消え失せ、彼は苦笑いしながら

「まだ、俺は素材が足りねえらしい」

そう言って、高崎と共にグラウンド端のベンチへと歩いていき、話し込みだした。

呆然とその様子を眺めたパンツにマント姿のジョニーが

「……高崎……復活したのか?」

シゲパーが深く頷き

「キョウスケさんも後少しです」

「……俺は?179センチ天才ピッチャーの俺は?」

ポスィが首を横に振り

「ジョニーさんはもう十分強いからそれで行こう」

ジョニーが絶句して周囲を見回すと、ほぼ全員が頷き返し、セイがどうでもよさそうに

「お前がなんだろうが気持ち悪い生き物なのは変わらんだろ」

「おい!取り消せ!アニメ顔的ブサイク!」

「……ふっ……リアルブサメンがよく言う」

一瞬で険悪な雰囲気になった2人を山口が

「仲いいな」

絶妙なタイミングで茶化すと、2人はサッと反対を向いて黙り込んだ。

シゲパーが腕を組んで真顔で

「皆さんに言っていた通り、そろそろフォルトナが来ます」

ポスィが頷き

「ゲロサイコ師匠が運送ルートを作ってる」

バスガイド衣装を脱ぎ出したアグリゲスがニヤニヤしながら

「まさか追っている自分が道路と化しているとは思うまい」

いつもの肌の露出度が極端な際どいビキニ姿になると黒尽くめのセイが

「アグリゲス……そろそろセイ様の姿をやめろ」

「いやだね。もう私の方が長生きだから私がオリジナルだ」

「ゲシウムの支配者も交代するからな。雑魚ロリの姿にでもなれ」

「ナンスナーさんに恨みはないからなあ……」

などと揉めはじめた。

黙っていた佐山が横に並ぶバムに

「俺たち帰ってた方が良かったかも……」

と言って頷かれる。

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