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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 中二


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1521/1587

エクス

塔内の広いロビーには刀身のないまるでグリップだけの剣を携えたマネキンのようなマシーナリー達がゆっくりと巡回している。

ナーニャは近づき背中を突っついたりして、反応しないマシーナリー達に

「んー……なんかさー……他のマシーナリーさんたちと違うねー?」

と怪訝そうな顔で真顔のノアやアシンたちから手を引かれて引き離される。

セイはニヤーッと笑い

「賢いセイ様は、ナーニャの疑問が分かったぞ。つまり、共鳴粒子の影響が内部から感じられないんだな?」

そして、ロビー奥のエレベーターホールからゆっくり歩いてくる。

スーツ姿のどこかで見たことのある男をナーニャは指さし

「パンタクローさん!」

駆け寄っていく。

髪を七三に撫でつけ、すっかり洗練された雰囲気となったパンタクローは白い歯でニカッと以前と変わらない大らかな笑みで

「ナーニャちゃんは、本当に喜んでくれてるから好きだぜ。ノアさん、アシンさん、ハルさんは何度か会ったことあったかな?キャシーと結婚したアトランティス人のパン・タ・クローだ。案内係として来た」

兄妹たちも近寄って軽く挨拶をすると、セイがもったいぶった表情で

「で、案内係だけではないんだろ?」

パンタクローは頷くとエレベーターホールを指さし

「行こうか。急いだほうがいいのは聞いてる」

一つしかないエレベーターの銀扉手前左右に立っている、銃を構えたマシーナリーをまたにじり寄ったナーニャがペタペタ触りながら熱心に見始めたのでパンタクローは苦笑して

「共鳴粒子遮断型の新型警備兵だよ。ナーニャちゃんには空洞に見えるかもしれないけど

中には共鳴粒子を除去した機械が詰まっている」

「ふむー……つまりは……なんで?」

パンタクローは苦笑いして

「兄妹たち全員が、さっき教えただろ!って心の中でツッコんでるよ」

ナーニャは思い出した顔をして

「あ、ああ、そうかぁ……私とか上位神と闘うためだよね。でも、私戦いたくないけど?」

パンクタローは笑い始めて

「あははは、ちがいねぇ!!まあ、下に行こう」

エレベーターの中へと五人を誘う。


六人の乗ったエレベーターは静かに滑るように降下し始めた。

「全員の考えてるとこを合わせるに、兄弟仲はいいようだぞ」

ナーニャたち四人から一斉に顰蹙を買って

パンタクローは申し訳なさそうに

「すまん、思考がどうしてもきこえるんだ」

壁にもたれたセイは余裕の顔で

「セイ様の頭の中も久しぶりに読んでみろ」

パンタクローは苦笑しながら

「セイちゃん、大人になったなぁって感じだ。ゲシウムで色々あったんだろ?聞いたぜ」

セイは微笑みながら

「さすがだ。アダルトなセイ様は、もはや完全なる大人だからな」

パンタクローは小声でナーニャに

「でも、めちゃくちゃ君たちの父親に会いたがってる。子供みたいに」

セイは急に顔を真っ赤にしながら

「あ、当たり前だ。女としてタカユキが好きだからな。子供ではないぞ」

「セイさーん、不倫はいけませんよー?」

ナーニャに煽られてセイはさらに真っ赤になりながら

「ふ、不倫とかいうのは、庶民どもの概念だろ。ゲシウムの支配者のセイ様には関係ないからな?そもそも、なんで一夫一妻じゃないといけないんだ」

アシンが冷静な顔で

「強い雄や雌しか子孫を残せなくなるからです。文化的な生物は多様性が大事なんですよ」

「あ、アシン……じょ、冗談じゃないか。セイ様の小粋なジョークだぞ」

ナーニャがニヤニヤしながら

「セイさーん、図星ですねー?あれ、ぼずしだっけ?お寿司?」

などと自分でボケ始めてハルから軽く肩を叩かれて窘められる。収集がつかなくなってきてパンタクローが慌てた顔で

「すまんすまん。セイちゃんそんなに焦らなくてもいいじゃないか」

「あ、焦ってなどいない。セイ様いつでも冷静だ」

パンタクローは口を抑えてナーニャに"もうここでは俺は喋らない"とジェスチャーした。


エレベーターの扉が開くと、目の前には長い直線通路があり、その左右は分厚く埃や傷一つないガラス張りになっていた。

ガラスの先には、灰色や白の太いパイプが縦横無尽に伸び、そのパイプが各所でとぐろを巻いた中心部分には虹色の球体が埋め込まれている。パイプ向こうの壁にはランダムに半透明の立方体物質が幾つも埋め込まれ鈍く輝いていた。

ノアが一目で

「エネルギー収束装置の本体付近だな」

と言ってアシンが頷き、パンタクローが苦笑いしながら

「よく食べる息子でね」

と言うとナーニャだけが首を傾げ、他の全員がなるほどと言った顔をした。


通路突き当りには、高さ三メートルほどの新しい金属扉がありナーニャたちが近寄ると自動で左右に開いていく。

「わぁ」

ハルが一瞬、驚きの声を上げる。

扉の先は匂いの一切ない色とりどりの草花に塗れた広大な庭園だった。

ナーニャが顔をしかめて

「あー……つくりものだねぇ……」

残念そうに言い、パンタクローが申し訳なさげに

「菌や共鳴粒子を減らすためなんだ。あの子はまだ、育成途上だからなぁ……」

と言いながら、先頭で足早に庭園内を先導していく。

高い天井には、青い空が投影され雲が動いている。ナーニャは不思議そうに

「外に作ればいいのに」

と言ってしまい、兄妹全員から

「話聞いてなかったのかよ」

「今理由を言われましたよ」

「話きこ?」

と総突っ込みを受けた。

パンタクローは慌てて、黙り込んでいるセイの顔を見て

「セイちゃん何か和ます一言をくれ……」

セイは腕を組んで、兄妹姉妹たちを見回すと

「無理だな。バラエティ豊かすぎる」

と言って、また何かを考え始めた。

パンタクローはセイの表情を見て諦めた顔で

「なあ、セイちゃん、これから会うの俺の子なんだよ。なんで、倒し方について考え始めてるんだ?」

ナーニャたちが唖然としてセイを見つめると

「マシーナリーは魔族の天敵だからな。用心深いセイ様は前方で動いている謎生物を観察しているわけだ」

「俺が紹介する前から、そんなに肩肘張るなよなぁ……。頭の中の声が、何重にもなってて怖いってぇ……」

パンタクローは項垂れながら歩き始めた。

ナーニャはセイに

「なんかいるんだねー?私にはわからないけど」

セイは不敵に笑うと

「セイ様、聴覚や視力は魔族だからな。ナーニャよりフィジカルな情報網は広いぞ」

「うー……何かわかんないけど悔しい……」

ナーニャがハルの方を見ると、ノアが呆れた顔で

「魔族の人は、人間寄り身体能力が高いんだから当たり前だろ。ナーニャは人間寄りのハーフだからな」

「そうなのかぁ……」

「いや、そうなのかぁって……」

兄妹たちは喋りながら庭園の中を歩いていく。


十分ほど匂いのない精巧な造り物の庭園を進むと造り物の木々に隠れるように、二階建ての木造コテージが見えてきた。

近づいていくと、家の木造の一階テラス辺りから

「いぇーい!」や「ブーン」などと元気な男の子の声が聞こえてくる。

更に近づいていくと、家の前まで、超速で何かが移動してきて、いつの間にか目の前に、腰まて銀色の髪を伸ばした痩せたランニングとハーフパンツの姿の男の子が緑色に輝く大きな両目でナーニャを見上げていた。

そして、パンタクローを見て

「お父さん、この子、何か臭い……」

鼻をつまんでパンタクローの背後に逃げ込んだ。

ナーニャはショックを受けた顔で固まってしまい、パンタクローが慌てた顔で

「む、息子のエクスだ。ナーニャちゃん、そんなにショックを受けなくても……。こいつ、共鳴粒子の匂いを嗅ぎなれてないんだよ」

ナーニャはハルから背中を叩かれ励まされ

「う、つまりは、私が臭いんじゃなくて……」

「そういうことだ!それに機械と人の相の子だから、匂いの感覚も全然違う」

「な、なーんだ。じゃあ、私は臭くないんだね?」

ナーニャは兄妹たちに確認を取るように見回し兄妹たちは半ば呆れながら頷き、最後に見られたセイが

「……とんでもない代物だな。マシーナリー達が強気なのも頷ける」

と真剣な眼差しをエクスを見つめて言い放つ。

エクスはパンタクローから軽く小声で怒られ、左手で鼻を摘まみながら、ナーニャに右手を差し出し

「僕、エクス、よろしく……」

ナーニャは何とも言えない顔でエクスの小さな手を握り返した。






何か、脱出の手掛かりはないかと、くらあごんを連れて、櫻塚町の集団墓地へと行き、何日も何日も俺たちは墓を掘り返し続けた。

そして山根家への隠し通路までも隈なく調べても何もなかったので、今度は市内の墓と言う墓を全て掘り返すという作業を一か月ほど続けた。

「なんもねぇな……骨すらない」

山中の無縁墓を掘り返して泥まみれの俺は呟く。

作業服姿のコイナメも頷き、くらぁごんもいつの間にか覚えたスマホの音声アプリに素早く文字を打ち込み

「そうね。しかし、ひとつ可能性が潰れたわ」

コイナメは不思議そうに

「掘り返しても、次の日には元に戻ってるし、警察とか所有者にも怒られないね」

「そもそも、人が見当たらないんだよな……」

どこに行っても人はいないが、電灯水道は使えるしテレビニュースもまったく途切れない。

やはり、俺に都合のいい世界なんだろうか……などと考えていると、くらあごんに貸していたスマホの電話呼び出し音が突如鳴り響いた。

恐る恐る、出ようとすると画面表示が「鈴中美射」になっていて、条件反射で切ろうとしてコイナメからとっさに止められる。

俺は怖すぎて出られないので、スピーカーモードにしてコイナメに代わりに出てもらうと

「あ、出た。タジマ君、あの、俺のこと覚えてる?」

どこかで聞いた男の声がしてくる。驚いて

「本田さんか!?」

本田太郎だ。並行世界のアグラニウスの流れ人の。ヲタクの人でとてつもなくタフだった覚えがある。確か、あっちの世界ではシズカ姫の旦那なんだよな……。

などと頭をフル回転して思い出していると、本田は軽く咳払いをして

「えっと、うちの世界を訪れた、君の世界の住人のシゲパーさんから伝言で"探索ではなく創造です。維持ではなく破壊です。融合ではなく衝突です"とのことだ。あ、もう電池が切れそう。じゃあ、またねー」

「ま、また……」

よくわからんけど、ヒントの様だな……。

そもそもなんで、美射の携帯で並行世界の本田が俺に電話を……。

くらあごんがスマホをサッとコイナメの手から奪い取ると音声アプリを開き、骨だけの指でササッと文字を打ち込み

「タカユキ様の得意分野ね」

と言ってくる。

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