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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 中二


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1520/1587

覚えていない

兄妹たちを連れて横になり飛んでいるナーニャが前方の黒雲を眺め

「あれ……?なんか変じゃない?あそこが話し合いの目的地だよねー?」

その手にぶら下がっているノアが苦笑しながら

「よく気づいたな。そうだよ。黒雲だけで雨が降ってない」

そう言ってアシンの方を見つめた。彼は真剣な眼差しで

「……システム異常ではないですね。意図的なものかな……」

と呟く。ハルは黙って乗っているナーニャの背中を二回優しく叩きナーニャも黙って頷いてスピードを上げる。

それに合わせるように前方を立ったまま飛んでいるマガノも速度を上げた。


ナーニャたちは黒雲の中へと入り込み、その奥深くに隠れるように逆さに飛ぶ、空中城レインメーカーの最上部に降り立った。

巨大な城を逆さにしたその異様な浮遊物体の平らな上部を全員で静かに歩いていくと、下からいつの間にかせりあがってきていた足場の上に、マシーナリーのりサが立って、出迎えるように頭を下げてきた。

彼女はマネキンのような無機質な身体を滑らかに動かし、先頭で腕を組んで明らかに無理してシリアスな顔をつくっているナーニャの前に立つと

「マガノさんから連絡は受けていました。これから交渉をしたいのですが、中に入りますか?」

マガノはナーニャの横に進み出て、首を振り

「すまないが、時空の歪みが酷くなったそうだ。詳しい情報共有は、この話が終わったらする。始めよう」

リサは自然な動作で頷くと

「……スガさんの復活には先ずは、東の大陸と西の大陸の間の太洋大海溝の海上で全ての空中城が五芒星を結ぶように配置されなければなりません」

マガノが結論を急ぐように言葉をつなぎ

「つまり、失われたグラスハウスの復活か必要と言うわけだ。交渉するまでもない。それに手を貸そう」

リサは黙って頷き、レインメーカーを囲む黒雲を見上げ

「……すでにそのために、この城の電気エネルギーは我らの本拠へと送りました。ナーニャさん、あなたの力と、我らの息子の力が必要です」

マガノは少しイラついた顔で

「……別の場所でお前らのメッセンジャーに俺の分身体が状況説明した途端、ごく低確率だがナーニャと衝突する未来が因果律上に出現した。いいか?我々は手を取り合うべきだ。こちらの情報開示もするつもりだ」

低い声をリサにかけた。リサは少し黙り込んだ後に穴の開いた口から

「……我らの計算した未来の中でも確かに、その可能性が浮上しましたが相当な低確率です。何より、滅びるつもりはありません。その可能性は行先のみで、肝心な勝率がないからです」

ナーニャは慌てた顔でリサとマガノの間に入ると

「あのさぁ……仲良くしよ?ね?お父しゃんもそう言ってたでしょ?」

マガノは一度大きく息を吐くと、リサと反対を向き

「……元セイ帝国へと向かう」

リサは黙って頷くと、静かに背後を向き、先ほど出現した場所へと歩いていき、そして、空中城内へと降下して去っていった。

ずっと黙っていたアシンがマガノに向かって

「あの空中城は戦後どうなったんですか?どこかが接収したって聞きましたけど」

マガノは振り向かないまま

「……俺たち上位神の会議の結果、最終的にはマシーナリーに売った。管理の手間が不要になるからだ」

「そうなんですか……」

深刻そうな表情でアシンは腕を組み、ノアと目を合わせた後に考え始めた。


半時間後


マネキンのような身体のマシーナリー達、黒が基調の服を着た長身の魔族たち、さらに足のあるタイプの体の水棲族たち、体が石や炎、雷で出来た幽鬼族、そして、肩身が狭そうな顔をして幽鬼や魔族たちから距離をとる人間たちが、赤信号の横断歩道の前、並んで待っている。

その背後で、唖然としたナーニャたち兄妹が

口を結んで苦々しそうな顔のマガノを見つめる。

車道には、大小様々な形状の色とりどりのエアカーや中型の竜族たちが並んで走り、悠々と歩いていく。

ナーニャがその光景に堪えきれずに

「あの……マガノ先生、なにこれ……飛んできた時から凄かったけど……」

口を開いてマガノに問うと、彼は眉間に皺を寄せ、頭上の、高層ビル群を避けながら飛んでいく体長百メートルはありそうな細長い龍とその先導役の数機の飛行タイプマシーナリーを見上げ、大きく軽くため息を吐き、そして

「ここが今やマシーナリーの首都だ。そして、巨大な装置だな」

アシンがアッと気づいた顔で

「そうか、それで……レインメーカーが雨を降らせていなかったんだ……」

ノアとハルも同時に気づいた顔でナーニャだけが首を傾げると

「んー?……あっ……でもねー歩いてる皆から、電気?みたいのは、下に流れてるよ?ちょっとだけね。なんでだろ……」

ノアが驚いた顔をした後に苦笑しながら

「いや、ほんと、ナーニャが頭良かったら、俺たち何の役にも立てなかったかもな」

アシンも真面目な顔で

「そうですね。それに、ナーニャさんは未だに成長しているようです。電子エネルギーの行先も感知しているとは……共鳴粒子が付随しているのでしょうか」

「そうだろうな。やっぱりここも装置か」

ハルは慌てた顔になり、ナーニャを見て

「あとで、ナーニャちゃにも説明するよ?」

「う、うーん……なんでみんなわかるの……」

マガノが涼やかな眼差しで四人を見つめ

「当たりだ。レインメーカーという通称は表面的な事象によるものだな。本来アレは、かつての文明が創り出した反重力を用いた発電所……つまりフリーエネルギーの最たる雷の発生装置だ。なので、接収したマシーナリーの中で最も優秀な一体が管理者として乗っている」

ナーニャは首を傾げると

「ん?んー?かみなりのはっせいそうち?ん?ふりいえねるぎい?」

マガノは軽く息を吐いて

「その辺りは、ある程度、仮想空間で教えたはずだがな」

ノアがケタケタと笑い出して

「信号変わったぜ!行こう」

と皆に呼びかける。ナーニャはハルに手を引かれ釈然としない面持ちで歩き出した。


全ての種族が活き活きと歩き回る、高層ビルが聳える街の中を五人は早歩きで進んでいく。

高層ビルの隙間から遠くに半球状のドームが見えてきて、それをノアは指差すと

「あれも父さんの戦った場所の一つだよな」

「そうですね。近代史で習いました。ごく最近の戦乱です」

「えっ、えーっ?」

ナーニャは驚いた顔をしてハルを見つめる。見つめられた彼女は

「この空中都市自体が、通称で神聖セイ帝国っていうセイさんがパパに大きな反乱を起こした時の拠点だよ」

「そ、そうなのー?……知らなかった……」

肩を落とすナーニャにノアが

「短時間で、負傷者がほぼないまま鎮圧したんだぜ?父さんはやっぱり最高の英雄だよ」

前を行くマガノが振り向かないまま

「優秀な仲間が多数いたからだ。兄妹とも仲良くするべきだな。例え英雄でも、一人で何かできると思うべきではないな」

その言葉にノアは黙って頷いた。


高層ビル街の隙間に議事堂が見えてきた。

竜やエアカーが整然と進み続ける車道を横目に人波と共にさらに五人が広い歩道を進み続けると、鈍く銀に輝く百メートルほどの高さの巨大な電波塔が目の前に見えてきた。

遠くにはあるが、はっきりと見えるにノアが

「あれか……」

さらにアシンが

「でしょうね。あの様子だと空気中に漂う電子も取り込んでますね」

先を行くマガノは軽く舌打ちをして

「正直、アンチ共鳴粒子の化身のようなものなので俺としては許容範囲ギリギリだな」

それを聞いたノアが驚いて

「マガノ神、そんなにはっきりと……」

「いや、いいんだ。マシーナリー共も気づいてるはずだ。先日は、それとなく山根鏡歌に共鳴粒子キャンセル装置を使わせていたしな。着々と、但馬が消えた後のこの星での地固めをしているよ」

アシンが驚いた顔で

「そ、それ……効いたんですか?」

マガノは振り向かずに頷くと、足早に歩きだした。ノアとアシンは同時にナーニャを引き寄せると

「ナーニャ、気をつけろよ。お前が最終目標だ」

「そういうことになります。あなたは共鳴粒子の化身ですから」

「う、うんー?なんの目標?もしかして魔族国の年間チャート一位のはなしー?」

ずれた答えを繰り出したナーニャの横でハルは首を横に振り

「争いはよくないよ。ただ傷ついて壊れるだけだから」

ノアとアシンは同時に黙って目を合わせ、足早に歩き出した。

ナーニャたちも慌てて追いかける。


巨大な鈍い銀色の電波塔の根元に到着した五人は、ガラス張りの一階に広がるホールの自動で開閉する広い入口に立つ、太い筒のような灰色の小型砲を肩にかけた真っ白なマネキン状の二体の長身マシーナリーから見下ろされる。

彼らは軽く会釈すると

「マガノさん、そしてナーニャさんとご兄妹たちですね。お待ちしておりました」

そう言って、同時に入り口を触れずに左右に開いた。

ナーニャは二体のマシーナリーに近寄ると

「……うー……すごいねぇ……中が空っぽに見えるけどきっと、機械でつまってるんでしょ?」

応えないマシーナリーの代わりにマガノが軽く息を吐いてから

「新型は共鳴粒子を極力シャットアウトした造りになっている。表面は空気中のものがどうしても付着するからな」

ナーニャは感心した顔で

「そっかー……そうだよねー。あれ?なんでそんな造りにー?」

ノアがこけそうになりながら

「ナーニャ、さっきの話、聞いてなかったのかよ。父さんが居ない今、マシーナリーたちの脅威は上位神とお前くらいだろ。共通しているのは共鳴粒子を力の源にしてるってことだよ。だから、なるべくそれらの影響を消そうと頑張ってるんだよ」

アシンが苦笑いしながら

「ノアさん、会話は当然全て聞かれていると思いますけれど、それでも、もう少し言葉を選んだ方が良いかと」

マガノが面倒そうに首を横に振り

「マシーナリー達はそのくらいで、気にするようなことはない。明確な悪意や殺気がなければ好きに放言してもいい。それと俺はここまでだ。あとは中に案内役が居る。その男についていってくれ」

そう言うと、スッと消えた。

「あ、あれー?先生ー?」

ナーニャが慌てるのと同時に、いきなり同じ場所に焦った顔のセイがワープしてきた。

「あ、あれ……?なんでだー?セイ様、あいつらを追ったはずなのに」

「セイさんが案内者なのー?」

ハルがナーニャの背中を軽く叩いて

「男って言ってたよ。セイさんはなんでここに?」

セイは長い銀髪をかきあげ少し考えた後

「……分からん。それに、ここに来たこともない。なんでだ……ワープできるのは来た事あるとこだけじゃないのか?お、アシンじゃないか。どこだここ?」

アシンは極めて真剣な眼差しで長身のセイを見上げ

「神聖セイ帝国の跡地で、今はマシーナリー族の本拠地になっています」

セイは辺りをグルっと見回して、しばらく考えると

「あー……お父様が、創ってくれた国だなー。そうかー……あの飛んでる島だな」

ノアが、わかったような顔をするセイに胡乱な目を向けて

「本当に覚えてる?」

セイは一瞬悲しげな表情をした後、ニカッと笑うと

「ぜーんぜん覚えてない!セイ様は過去に拘らない女だ」

ノアは脱力してアシンの手を取ると

「入ろうか。マシーナリー達も待ってるし……セイさんもどう?」

セイは一瞬考えて

「いいかもな。セイ様は時には流れに身を任せる女だ」

ハルはまたマシーナリーを興味深そうに見つめ始めたナーニャの背中を押してホールへと進み始めた。

セイはその後ろから少し怪訝な顔をしてついていく。







首だけしか残っていない輪郭が消えかけているジョニーを制服姿のトキメが力無く抱いている。

ジョニーはニヤリと笑うと口から血を垂らしながら

「シグレ、結婚しよう」

「……馬鹿……もう……本気にするよ?」

辺りは時空間が歪んで捻れ、竜巻や雷鳴が高速で発生しては逆再生して戻りを繰り返している異常な空間だ。遠くでは爆縮が起こっては消え起こっては消えを繰り返している。

トキメは右目から涙を流しながら

「私のジョニー……私だけのジョニー。生まれ変わったらどうしたい?」

「……そうだなあ……野球なんてやめて、もっと自由に……言いたいこと言って、やりたいことを好きなだけシグレと……」

そこでジョニーの首はトキメの腕の中から消え失せた。

「私のジョニー……私だけのジョニー……」

彼女はそう寂しげに呟くと、凛とした表情で立ち上がり青白く輝くエネルギーで出来た長刀を手元に出現させると、その場から消えた。


因果の逆転と正転が起こっている高次元時空間の中で可能性を幾重にも分散させながら、虚と実の間を揺らぎながら、自在に飛び交ってトキメは黒い影を細切れにしていく。

その制服のスカートの揺らぎを多層に圧縮された無数の生き物の記憶が透過していき、彼女がそれに動きを取られた瞬間、鈴中が腕を握って引き上げ辺りの景色が変わる。

二人はレンガ屋根の上に着地した。


何処までも広がる青空とレンガ屋根の街を呆けた様にトキメは見通すと

「ジョニーが……逝っちゃった」

鈴中は泣きそうになりながら

「また会える……きっと会わせるから!」

トキメを抱きしめて項垂れる。

「どうしよう……ジョニーが私のジョニーが消えちゃう……」

「大丈夫……残すから……隠して……違うものにして」

「覚えていないの……大事だったこと以外……」

鈴中はもう答えずトキメを強く抱きしめた。

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