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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 中二


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1502/1587

でもあなたも捨てられないんでしょ

ナーニャたちは樹海を見下ろしながらかなりの速度で飛んでいる。

頭上には虹色の空が広がる。

ナーニャの下に伸ばした両手にそれぞれ掴まっているノングとナンスナーは黙ったまま前方を見つめていて、しばらくするとノングが

「あれじゃ、あの巨人山がコアへの入口じゃ」

そう、大きな声で教えた。ナンスナーがさらに

「巨人の口が開いてるだろ?そこに飛び込んだらいいよ」

落ち着いた声で補足した。見えて来た前方には、まるで立ち上がり、歩き出そうとする巨人のような超巨大で歪な山が、地底世界を見渡すかのように聳えている。

「分かった。ちょっとスピード上げるね」

ナーニャは速度を上げると巨人山とノングが言った歪な山の山頂付近にぽっかりと開いた洞窟の中へと飛び込んだ。


真っ暗な中へと着地したナーニャが虹色の闘気を纏い辺りを照らすと、縦横十数メートルは広さと高さのある曲がりくねった洞窟の中だった。

「こっちだな。爺さんも来たことあるだろ?」

ナンスナーがナーニャの手を引いて先を急ぎだす。ノングも頷きながら、二人に続き

「この奥に連れ込まれ、あのアホにやる気のない説教されてたこともあったのう」

懐かしそうに独り言ちている。

「この奥がゲシウムのコアに続いてるのー?」

ナーニャが辺りを見回しながら言うと、ナンスナーが

「ああ、間違いないだろうな。巨人山は名所の一つだから……」

そう言っている途中で、前方にナーニャの闘気に照らされて立札が見えて来た。ノングが近寄って

「絶対的支配者セイ・モルシュタイン特別制定法千五百二十三条……自らの死を問わぬもののみ、この先へ進めることとす」

そう読んだ後に、馬鹿らしそうな顔で深いため息を吐き、立札を引き抜こうとしてやめた。

「観光名所なのじゃよ。ただし、ある程度以上、あのアホに気に入られた、能力のある者のための場所じゃ」

ナーニャは首をかしげて

「どういうことなのー?」

ナンスナーが苦笑いしながら

「地上世界の煩わしさを忘れて修行したり、気分転換したりキャンプしたりするのに丁度いいってことだよ。そいつらためにセイが開放してるんだ。立札は何もわからないで入ってきたやつ用だろうな」

ノングも頷いて

「この秘境に、そんな者はまず来ないじゃろうがな。無闇に気を使いおって」

まだ何となく納得いかない顔のナーニャと共に奥へと向かっていく。


数十分ほど、曲がりくねった洞窟内を進み

さらに下り坂を降りていくと、いきなり開けた場所と出た。

そこでは、光る石を各所にばらまいて明るくなっている中、数十人の筋肉質で薄着の男女の集団が一定のリズムに乗り、ひたすら自由に踊り狂っていた。

全員肌を青や赤の一色に塗っている。

端には大きな打楽器を正確に叩き、リズムを刻む男たちも数人見受けられる。

「お、踊ってるね……?」

唖然としたナーニャが二人を見回して言うとノングが顎を触りながら

「ああ、あの風体は……スプレンデッド舞踏団じゃろうな。あのアホのセイが大量の助成金を出しとる、やつのお気に入りじゃ」

「っても、けっこう実力派だろー?私でも知ってるし」

ナンスナーの言葉にノングは深く頷くと前へと数歩進み出て

「たのもーう!奥へと行きたいんじゃが!」

と声をかける。全員が一斉に三人に鋭い視線を向け、その中から、身長二メートルはありそうな全身を黄色に塗り、スキンヘッドで上半身裸の大男が進み出てきた。

「ああ、セイさんから聞いてる。ダンス対決に勝ったら、先に進む鍵を渡せって言われた」

ノングは真面目な顔で頷くと

「わしは、踊りはてんでダメでのう。若い二人に任せるわい」

「おい、爺さん……」

呆れているナンスナーの後ろへとノングはサッと下がる代わりに両眼を輝かせたナーニャが進み出てきて右手をピンっと上げ

「私!私がやるよーっ!」

前のめりで大男に宣言した。


数分後。


座り込んだ大勢のダンサーたちに円状に囲まれたその中心にナーニャと大男は向かい合うように立った。囲う者たちは誰も口を開かぬ静寂の中

「なーにゃーがんばれー」

座っているナンスナーが棒読みの声援を飛ばした。ノングはその隣で、苦笑いを浮かべている。

「では、私から行かせてもらおう。レッツダンシンッ!」

少し離れた場所で打楽器が変拍子で鳴らされ始める。全身を黄色に塗りたくった大男が

その音を乗りこなすかのようにステップを踏み始め、そして次第に軟体動物のように身体をくねらせていき、右手一本で巨体を支えながらコマのように回転し始めた。

さらにその回転を変拍子に完璧に合わせて波のように揺らぎを作り、黄色く塗られた体が硬く、そして柔らかく見え、まるで、何かの自然現象のような美しい光景が全員の目の前に現れる。

ダンサーたちは無言だが、表情から感動しているのが伝わってくる。

「……舞踏団の現頭目、"黄帝"ヴァイスィンじゃな。恐らく彼個人だけで言うなら、ゲシウム史上最高の踊り手じゃわ」

ノングがそう呟くと、ナンスナーが小声で彼の耳元に

「……ぜったい勝てんだろ?やっぱ強行突破とか考えてる?」

囁いた。ノングは苦笑いして首を軽く横に振り

「いや、嬢ちゃんを見よう」

「……」

ナンスナーは不安そうな顔で、黙って立っているナーニャを見つめる。


ヴァイスィンの変幻自在の踊りが終わると、彼は静かに立ち上がり

「さあ、君の番だ」

まったくたじろいでいないどころか先ほどより自信満々な顔のナーニャに言ってくる。

「うんっ!えっと、どんがっ、どんがっていう感じのリズムにして!」

ナーニャのリクエスト通り、リズムが叩かれ始めると、彼女はすぅーと大きく息を吸い込んで静かに脚でステップを踏み出した。

流れるような金髪がなびいて、少し雰囲気が変わる。

「あれ……よくないか?」

呆気にとられ眺めているナンスナーがノングに言うと

「……」

彼は少し眉を狭めた。その表情にナンスナーが首をかしげているとリズムを完璧に乗りこなし始めたナーニャがいきなり二倍速のステップをそれに差し込みだして

手足も舞うように踊り始める。

「おお、歌はダメだけど、ダンスは才能あるんじゃん……」

感心するナンスナーの横のノングはまだ渋い顔のままだ。

さらに興が乗ったらしいナーニャはニコニコしながら少し宙を浮いて、空中を歩くように踊り始めた。

闘気を点けたり、消したりしながらまるで自らをライトアップするかのように洞窟の天井付近まで光で照らしながら舞い踊り、そしてゆっくりと、降りてくる。

「終わった!どうっ!?」

ナーニャが、ヴァイスィンや周りを囲うダンサーたちを自信満々な顔で見回した。

ナンスナーが思わず立ち上がって拍手をするが誰もそれには続かない。ノングも渋い顔のままである。

「えっ……なんで……」

慌て始めたナーニャにヴァイスィンが静かな声で

「素晴らしかった。君にしか踊れぬステップだった。だが我流すぎるし、まだ極めていない」

そう呟いた。ノングはため息を吐くと立ち上がり

「嬢ちゃん、負けたんじゃ。こっちおいで」

手を引いて、脇へと座らせる。

「えっ……ええぇぇ……私、ちゃんと踊ったよ?」

難しい顔をしたノングは二人に聞こえるよう小声で

「……すまんが、ダンスに対して気持ちが入っとらん。どんな下手なステップでも、魂がこもっていれば人は感動する。だが、嬢ちゃんの踊りはまだまだ腰掛にすぎん。さらに言うと思い付きの塊で荒いのよ。もう少し、踊りと向き合わねばならん」

「えっ……そうなの?」

ナーニャから見つめられたナンスナーが

「いや、私は良いと思ったけどなぁ……」

と首を傾げて、そしてハッと気づいた顔をする。

「あれ……次、私か?」

ノングは黙って背中を押す。ナーニャはショックで膝を抱えて項垂れてしまった。


おずおずと前へと出て来たナンスナーが

「……先、どうぞ」

小柄な自らを見下ろすヴァイスィンに自信なさげに手を差し出す。

「ああ、良いだろう」

まったく、ナンスナーを舐めている気配のないヴァイスィンは今度は先ほどの踊りにブレイクダンスを組み合わせたような複雑怪奇なステップをまるで宙に壮大な絵画を描くように踏み続け、そして、完璧な構成で踊り切った。

ナンスナーは唖然としすぎて鼻水の出てきた鼻をすすり

「えっ、えっと、棄権しても……?」

とノングの方を向いて、大きく首を横に振られる。






ところ変わって膨大な数の本棚とレコード棚に囲まれた広大な部屋。

天幕の付いたベッドで本を見ながら下着姿でゴロゴロしているセイが

「あー……ここで因果読まずに、混沌粒子が濃いアグラニウスに戻って、正確に因果律見たらセイ様の未来は完璧に分かるよなー。セイ様はタカユキの能力使えるわけだし……」

と思いついた顔をしては

「いや、やっぱりなぁ……未来を見るとかそういうのやりたくないし……そもそもセイ様には合わない」

悩まし気な顔でベッドから立ち上がり

「もう面倒だな……やっぱりやめ……」

と言いかけた瞬間に背後から猛烈な殺気を感じて恐々と振り返る。

そこには腕を組んだ鈴中美射が立っていた。

「いや、やめるとはまだ、セイ様まだ言ってない……」

冷や汗を垂らしながらセイは何とか言葉を絞り出す。

「よろしい。セイちゃんはまだまだ一方通行の時空で鍛錬すべきよ。とーにかくーここで色々と考えながら、待ってくださいねー?

いま、ナーニャちゃんたちは、ヴァイスィンのとこで苦闘してるわ」

セイはナーニャたちの現状を聞いて、鼻で嗤うと

「あー踊りかー。あれも奥深いんだよなぁ」

大きく息を吐き出して、ベッドの脇に座り

「芸術と名の付くものには、何にでも知の大系があるからな。そこから外れるとアウトサイダーアートになっちゃうんだよなぁ。でも知の大系に寄りすぎると、単に猿真似になるのがなぁ……」

鈴中も隣に座り

「……魂があれば下手でも無学でも芸術よ」

「……セイ様、勉強しすぎかなぁ……」

「そうね。好きゆえのマニアが陥りがちの罠にはまってるわ。もっと自由でもいいのでは?あなたが心地よいと思うものだけを出せば、絶対に猿真似にはならないでしょ?」

セイは少し真剣な顔で考えた後に

「けどなぁ、自分の好きなものをそのまま表現すると絶対に自分の好きなものにはならないんだよ。その表現者特有の歪さが加わって、如何ともしがたい気持ちの悪いものが出来上がる。でも、それを好きだって言ってくれる人たちもいて、ますます分からなくなるんだよ」

どうしようもなさそうな顔をして、心情を吐露する。

「マガノが言ってたわ。音やペンでも人は殺せるって音圧とかで鼓膜破ったり、ペン先で刺すって意味じゃなくて……」

セイは分かっているといった顔で頷いて

「……セイ様、そういうんじゃないんだよ。セイ様の音楽で誰かを屈服させたいわけじゃないんだ。みんなに認められたんだよ」

「……でも、あなたも捨てられないんでしょ?」

セイは黙って頷いた。鈴中は立ち上がると

「ちゃんと、自分と向き合って考えなさい。

そうじゃなければ、誰も聞いてくれないわ」

そういうとその場からスッと消えた。

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