表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 中二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1451/1587

トイレ

「但馬……くくく、よく考えてみてよ。

 さっきの女の子、こんなに暗いのにはっきり見えてたのよ?」

確かに廊下の窓から射す月明かりしか光が無いので

その通りだし、近づくたびにぼやけていたので

完全に物理現象を無視しているのは、俺ですらわかるが

「……次、いこ。次……」

どうにかそう言うしかない。

美射はニヤニヤした後にまたしても見えなかった

シゲパーに説明しながら、一階逆端まで歩いていく。

説明されなくても分かる。

トイレだ。しかも恐らくは女子トイレだ。

旧校舎一階の女子トイレには何か居るというのは

俺が在学中からかなり有名な話だった。

まさか七不思議の一部だったとは知らなかったが……。

右手に何者かが窓の向こうで蠢く旧職員室を見ながら廊下を進み

そして端までたどり着いた。

扉の無い男子トイレはそのままなのに

その隣の女子トイレには丁寧に

入り口を覆い隠すようにベニヤ板が張られていて

「使用禁止」と真っ白なペンキで大きく書かれている。

放送室に続いていくら何でもやりすぎである。

「……何なんだよ……霊感のある教師でもいるのか?」

ベニヤ板を楽しげに眺めている美射に尋ねると

「でしょうねぇ。放送室の五寸釘と打った人は同じでしょ」

「重松教頭だと思います……」

シゲパーがポツリと呟いて

「……旧校舎の取り壊しを強く主張してるって噂です」

「なるほどねー。私たちが卒業した後に赴任した教頭の仕業か」

そう言った美射はウンウンと頷きながら

バキバキと念力で遠慮なくぺニア板を剥がしていく。


べニア板が剥がれてしまうと

言いようのない嫌な悪寒が体中を包み込んでいく。

女子トイレの奥の窓から微かに月明かりがタイルを照らしている。

「深夜に女子トイレに潜入するとか

 これでシゲパーと但馬も立派な変態の仲間入りね!」

たぶん、モンスターサイコなりに気を利かせて

俺たちの緊張を解そうとしてくれているのだろうが

シゲパーはドン引きした雰囲気になり

俺はさらに罪悪感という重荷が加わってストレスが凄いことになる。

だ、だが、今は使われていないのである。

「半ば廃棄されてるんだから、つまりここはトイレではない。

 廃墟に入りに行くのと同じだ。きっと水も出ないだろう。

 つまり俺たちは変態にはならない。

 大丈夫だシゲパー」

「そっ、そうですよね」

二人で納得しようと頷き合っていると

美射はズカズカと異様な気配の女子トイレ内に入り込み

手洗いの蛇口をひねると

「あっ、まだ水出るわ。つまりここは未だに女子トイレですねー。

 ふっふっふ……そこのラインを踏み越えたら

 変態の世界にようこそね!

 あ、分かってるとは思いますが、私は女子なんでー」

暗闇の中からわざわざ黄金の炎を全身に纏って

トイレと廊下の境目を指さす。

人生経験の少ないシゲパーは完全に怯え切っているが

俺は大きくため息を吐いて、踏み越えた。

使われてないんなら廃墟だ。美射が何と言おうが

ここは女子トイレではない。廃墟である。

そして、俺も怪異をしっかり見聞きしないといけない。

美射にだけ任せていたらきっとろくでもないことになる。

入るなりさらに悪寒が激しくなる。

美射の全身から発する光がトイレ内を隈なく照らしているので

左手前の手洗いからさらに左奥には四つの個室並んでいる。

個室の仕切り壁は天井までは無い。

天井と壁の間は一メートルくらいはありそうだ。

当然すべて扉が閉まっているが

こちらから見て最奥の個室の中から

異様な気配が漂ってきているのが分かる。

「……一番奥だな」

「そうよ。七不思議の六つ目ね。

 さあ、シゲパーも。さっきのは冗談よ!気にしないで!」

美射は手招きして、半ば強引にシゲパーも女子トイレに入れた。

「うぅ……」

戸惑っているシゲパーと共に三人で最奥の個室の前へと行くと

美射がスッと全身の黄金の炎を消して

左手だけ炎で包んで、ライトの代わりにして

右手を翳して鍵のかかったトイレを内側から開け……。

おい……内側から、鍵がかかってる……?

どうやって……まさか、わざわざ上から出たとかはないよな……。

俺が黙って混乱していると

美射は触らずに念力で個室の扉を奥へと押し込んで開けた。

中は地元の旧家とかでよく見た洋式のボットン便所で

汚くはなかったが、美射が便器の蓋を開けると

便所の穴から異様な「ゴオォォオォオォオオォオオ……」という

まるで地獄の底から響いてきているような音が鳴りだした。

「ふっ、ふふふ……但馬、上よ」

美射が上を見上げたので、釣られて見上げると

個室の仕切り壁の上に両手で引っかかるように

ずぶ濡れのおかっぱ頭のセーラー服を着た少女が見下ろしていた。

「……」

もう悲鳴も出ない。

「アーンドッ!下よ」

嬉しそうな美射の声の言う通りに便器の穴を見下ろすと

中から緑に皮膚の腐ったゾンビの右腕が伸びていて

その右手をヒラヒラと振ってくる。

ビビりすぎて、個室から後ずさりしてシゲパーに支えられた俺と対照的に

「ふーむ……」

面白くもなさそうに少女と腕を何度も見る美射は

「ま、こんなもんよね」

パタリと便器の蓋を閉めた。

手が押し込められるように消えるのと同時に

ずぶ濡れの少女もスッと消えた。

俺はシゲパーからどうにか廊下にまで連れ出される。

ヤバい……もう本当に旧校舎を跡形もなく破壊したい。

ま、待て……あと、一個、もう一つでこのストレスともおさらばだ。

もう少し耐えろ……耐えるんだ俺……。


美射はスキップをしながら女子トイレから出てきて

念力と、共鳴粒子を操る力で

破壊したベニヤ板をまったく元の通りに直していく。

「放送室がピークだったわね」

修復しながら楽し気にのたまうモンスターサイコに

俺はシゲパーから肩を貸されながら

「ピークとかないだろ……全部怖すぎるわ……いい加減にしてくれ……」

というのが精いっぱいである。

「この怪異を創ってるのは私じゃありませんしー。

 但馬は今までの六つの怪異を見て

 何かを感じなかった?」

「怖いということ以外、何も感じないわ……ふざけんな」

「そっかー……ふふふ。じゃあ、最後の場所に向かいましょうか」

ベニヤ板を修復し終えた美射は旧校舎の出入り口を指さした。


旧校舎を出た俺たちは、新校舎と旧校舎の間の空間にある

簡素な菜園などに囲まれた中庭の

その中心に建てられている台座に乗った

謎のセーラー服を着た腕を胸の前に組んで

歌っている少女の銅像のすぐ近くに行く。

在校時からずっとこの銅像は謎だった。

台座にも何も文字は掘られていない。

美射は下からのぞき込んで

「ふーむ、スカートの中は銅で固められてますなぁ」

などと、下からのぞき込んで、いきなりふざけだした。

「ここが最後の七不思議なんだろ、さっさとやってくれ」

「急がないで。月が真上に昇るのを待つのよ」

少女の銅像を見上げると、あることに気づく。

そ、そうか……。

「さっき廊下ですれ違った子だな……」

美射はニヤリと笑って

「トイレの上から見てた子も同じよ」

そう言えばそうかもしれない。

髪型が違ったので気づかなかったが……。

「なあ、この銅像って誰が……」

美射が答える前にシゲパーが

「……県内の有名な芸術家から旧校舎が建った後に

 寄贈されたものだそうです」

美射はくくくとしばらく笑った後に



「その寄贈した芸術家は、山根源才、山根家の二代前の当主よ」



意味ありげに呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ