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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 中二


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1337/1587

足りない

「こいつじゃダメですか?」

黙って美射を見る。

完璧に共鳴粒子を操っていた気がするが。

その美射本人が

「……私じゃ、礼儀良すぎるからねー。

 但馬じゃないと、あんなに共鳴粒子を混線

 できませんしー」

「あの、キドさんは……」

「ミスターパーフェクトと、とっくに試した後だな。

 共鳴粒子自体は操れないことも無いが

 これには、特に何も起きなかった」

「あの……せめて、何が起きるかぐらい……先に」

キドはニヤリと笑って

「俺の想定はあるが、違う結果かもしれないし

 恥をかかないようにしておくよ」

「そうですか……」

言いたくないようだ。

俺はうな垂れながら、美射に手を引かれ

モニュメントのようなものの前まで

連れてこられる。

それを三人で見上げて

「じゃ、私たちは邪魔しないように

 ちょっと離れますからー」

美射はスキップしながら

キドと五十メートルほど後方へと行ってしまった。

「……」

いや、この共鳴粒子とは何の関係もない

ドゥギグラウス人の身体で

共鳴粒子を操れって言われても……。

とりあえず、ブルーグラスソードを横に置いて

正座してみる。

そして両目を閉じて集中する。

何か……頼む、何か切欠をくれ……。

そう念じながら、心を無にしていく。



……



心を無にして、どれくらい時間が経っただろうか

両眼を開けると、まだ普通に

モニュメントのようなものは聳え立っていた。

何も起こっていなかったらしい。

後ろを振り向くと、五十メートル後方では

美射とキドが楽しそうに談笑している。

大して、時間も経っていなかったようだ。

ああ、わかったよ……二人とも

簡単にはいかないと知ってるんだな。

俺が何か起こすまで、ここで待つと……。

「はぁ……」

石畳に向けて俯きながら

大きくため息を吐いて

もう一度、気持ちを入れなおす。

そして、微かに頬に当たっている風を感じる。

大気中が共鳴粒子で満ちているのは知っている。

あとは、その動きを感じるだけだ。

流れ人の身体ではないはずのキドや

そして適当な物理体の美射も、先ほどの闘いの最中で

共鳴粒子を操っていた。

ならば、俺にもできる……そりゃ

二人のキャリアには敵わないが

こっちも、まあまあ、それなりに共鳴粒子を操ってきた戦歴が

あるはずだ……よし、行くぞ。

正座しているこの身体を取り巻く

微細な大気の動きを感じながら

両眼を閉じた。



……



集中してどれくらいの時間が経っただろうか

両眼を開けると、何も変わらない

モニュメントのようなものが聳え立っていた。

背後をサッと振り向くと

美射とキドが先ほどと同じく、談笑している。

やばい……たぶん、十秒くらいしか経ってないわ……。

というか、何一つ起こってない。

これ……今までで一番ひどい無茶ぶりなんじゃないか。

何かヒントくらいくれても……。

悩んでいると


「おっ父しゃーんっ元気ですかー?」


いきなりナーニャの声が響いてきた。

気配は感じない。

ナイスタイミングである。

「お、おおお……傍にマイカも居るのか?」

「うん。今度は、アグラニウスの海の上で

 お父しゃんと話しています!

 ギソウされた?コウサク船に乗っています!」

マイカが商船か漁船に偽装した工作船に乗っているのだろう。

「ちょっと、マイカに伝えてくれないか?」

「いいよーなぁにー?」

俺は現在の状況をできるだけ正確に

声だけのナーニャに伝えた。

ナーニャは、必至にそれを復唱して

隣にいるはずのマイカに伝えている。

そして

「ちょっと待っててー。えっとねー。

 マイカさんと、アルデハイトさんと

 あとは、アグラニウスちゃん?が

 三人一緒に解決策を考えてくれるんだって!」

「おおお……」

有能オールスターである。

むしろ、向こうでは休戦してたんだな……良かった。

と安心して足を崩して、回答を待っていると

「あ、おっ父しゃーん!みんなの答えが出ましたよー!」

耳元にナーニャの声が響く。

「おおお……聞かせてくれ!」

「えっとー気合でやればなんとかなる!

 お前は天才だ!為せば成る!

 だそうです!これで良かった?」

「……う、うん……ありがとう……。

 ナーニャ、身体に気を付けるんだぞ……お母しゃんにも

 伝えてくれよ……」

「うん!」

ガクリとその場にうな垂れる。

ダメじゃないか……期待した分落胆が大きい。

チラッと背後を振り返ると

腕を組んで眺めているキドの横で

美射がポンポンを持って、一人で応援していた時の

動きをこちらに向けて繰り返していて

中学の時のトラウマが蘇りかけて

眼を逸らす。

気付いたらナーニャの声は

聞こえなくなっていた。


やばい、このままじゃヤバい。

どうにかして、共鳴粒子を操らなければ……。

再び正座して、焦りまくっていると

いきなり、この場に何かが

決定的に足りないことに気づく。



あれ……ああ、そうか……。

違う、俺だけじゃない。

足りないんだ。ここに同時に連れてくるべき

存在が何人もいる。



そうすれば、このモニュメントのようなものは

起動するだろう……何でか知らないけれど

それが今わかった。

ゆっくりと立ち上がり

月明かりに照らされた

モニュメントのようなものを見上げると

背後に駆けてきたキドが

「但馬君、やったな。

 自分の身体を見てみろ」

立ち上がった自分の身体からは

虹色の粒子が、蛍のように現れては消えていた。

「で、アレは起動しなかったわけだけど

 代わりに何かわかったんでしょ?」

そう尋ねてきた美射に

あれを起動させるために

同時に連れてくるべき存在が、いくつもいると

何故か理解したことを話すと

いきなり鋭い目つきになり、キドを見つめて

「……但馬と私、それにセイちゃん、ペップちゃんは確定よね。

 全員、何らかの意思で、

 この世界に飛ばされてきたのは間違いないもの。

 あー多分、そのブルーグラスソードもよ。

 人ではないけど、ルイスちゃんの幻影の意志が宿ってるぽいし。

 あとは……ミラクちゃんはどうだろ……」

「……分からないが、連れてくるべきだろうな。

 爺さんとミスターパーフェクトも月から呼ぶか。

 こんなもんでどうかな?」

キドが俺を見てくる。

俺は心の奥底で、何か呟いている勘に耳を澄まして



「足りない……足りないと思います。

 まだ、何人か、この世界で、たぶん、ここらの四つの星の中で

 俺たちが見つけていない存在がいるような……」



キドは真顔で頷いて、腕を組み

「よっし。また大きく前進したな。

 とりあえず、今日は君たちをゲシウムへと戻す。

 それから俺は月面に戻って

 みんなと相談してみるよ」

「……そうね。よく運動しましたしー」

俺も頷いた。

それにしても疲れた……。

全員で小型ユーフォーに乗り込んで

夜空へと上昇していく。

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