お仲間
うな垂れている美射は放置しつつ
「これから、どうします?」
キドに尋ねる、彼は頷いて
「……ミラク・バンクスを探して
ペップちゃんを封印した時の経緯を
聞かないといけないな。
……あの屋敷に、ペンダントを置いたのも
何らかの意図があったはずだ」
「……そうだな。絶対的支配者であるセイ様を差し置いて
秘密を保持していたとか重罪だぞ……」
「セイちゃん……支配者は寛容に。だぞ?」
「う、うん。分かっているが……これは
重要なことだろう?」
「……問い詰めるのはやめてあげてくれ。
きっと、ミラクにも何らかの意図があるはずだ」
セイは納得いかない顔で頷いた。
美射がいきなりガバッと顔を上げて
「……ゲシウムのフィクサーでしょ……。
その女……」
また何か言っているよと
俺が嫌な顔を向けると
意外にもペップが
「その可能性はあり得るにゃ……」
美射は顔を綻ばせて
「そっ、そうよね!
わ、私たち完全に気が合ったわ!」
「違うにゃ。たまたまだにゃ」
美射はまたガクリとうな垂れた。
セイが憐みの目つきで
「そんなに、女友達が欲しいのか……」
キドが真面目な顔で
「友を求めるのは悪いことじゃないさ。
じゃあ、セイちゃんミラクが
この時間帯と、季節に居そうな場所に行こうか」
「……金の砂漠だな」
「その可能性は高いな」
キドは頷いて、立ち上がる。
五分後には、俺たちは地下世界の上空を移動していた。
ペップはどうやら闘気の類を使えないらしい。
セイが背中に乗せて飛んでいる。
俺は美射を背中に乗せ、赤い炎を纏った
キドが先頭で宙を駆け、先導している。
さらに数分間、かなりの速度で移動し続けると
延々と続く荒野の先に
空からの明かりに反射して
黄金に光り輝く、砂丘が見えてきた。
「すっ、凄いにゃ……砂金がとんでもない量で
混ざっている砂漠だにゃ!」
セイの背中からペップが声を上げる。
瞬く間に光り輝く砂漠に到達すると
キドは何度か空中から砂漠を見回して
軽く左腕を上げて、こちらから見て左手の方へと
宙を駆けて行った。
俺たちもそれについていくと
光り輝く砂漠のど真ん中で真っ白なパラソルを立てて
その下のテーブルに積んでいる本を、椅子に座り
足を伸ばして優雅に読む
空色のワンピースを着た腰まで伸ばした白髪の
痩せた女性を見つけた。
キドはすぐに降下して行って
俺たちもそれに続く。
女性はキドが降りてきても
チラッとそちらを見て、本を読み続けている。
俺たちもパラソルの近くに降下して着地すると
キドが
「ミラク、ペップさんを連れてきた。
それに、もう聞いていると思うが、但馬君と美射ちゃんだ」
女性は微笑みながら
「そうですか……お戻りになられたのですね。
それは良かったです」
ペップと俺たちに軽く会釈してから
また優雅に本を読み始める。
キドが両手を広げて
こちらを見て、苦笑いしてくる。
今度はセイが
「ミラク、絶対的支配者であるセイ様に
大きな隠し事をしていただろう?
これは重罪だぞ?ちゃんと話せ」
腰に手を当てて、優雅に本を読んでいる女性に
起こった口調で迫ると
女性は本から、まったく目を離さずに
「セイ様ー?わたくしに内緒で、新規の漫画家を
スカウトしたでしょう?
彼女、怯えておりましたよ?」
「う、そ、そうなのか……」
女性は本から目を離さずに
「十四の少女の心は繊細なのです。
芸術家ならば、尚のことです。
分かっていたはずでは……?」
セイはその場にガクリと崩れ落ちて
「せ、セイ様は、褒めて伸ばそうと……。
そ、そうか……いきなり家に行ったのが
マズかったか……」
キドは力の抜けたセイを抱きかかえて
残りの俺と、ペップと美射を見てくる。
ペップは
「ふむー私には無理だにゃ。
ミラクは、会った時から底知れんにゃ」
傍観するつもりのようだ。
俺は当然無理である。美射が黙って
ミラクの背後に立って
「ふーん……拒絶粒子応用学かぁ。
誰、執筆……?」
「……シルバリオン・コイスターですね。
御存じですか?」
「ちょっと前にゲシウムに来たばかりだから
当然、知らないわ。
でも、書かれている字が読めれば
内容はある程度理解できる」
「……」
女性はしばらく黙って、本を読み続け
美射は背後からその内容を見続ける。
そして、パタリと本を閉じると
左手を足元の光る砂に翳して
瞬く間に、テーブルの周りに人数分
鈍く光る椅子を造り出した。
「どうぞ、皆様。そのままでは足が疲れるでしょう。
お座りください」
全員、黙って椅子に座ると女性は
隣に座って、テーブルの本に手を伸ばし
勝手に読みだした美射に
「……知識欲が旺盛なのですね」
微笑みながら尋ねる。
美射は猛烈な速度で辞書ほどある分厚い一冊を
読み終えてから、テーブルに静かに置いて
真顔で女性を見ながら
「あなた、趣味が良いわ。
この本、完全に理論が間違ってる。
組み立ての根本からして、狂ってるわね。
これら全部、廃棄された失敗作でしょ?
それか発禁にされた禁書ね」
女性は、ニコリと笑って
「……わたくしの、数少ない娯楽ですわ。
根本を誤ったまま、積み上げられ造られたものほど
美しいものはありません」
美射は鋭い目つきで
「だから、あなたは、セイちゃんを
愛しているのね。接する態度を見ていたら分かったわ」
セイが顔を顰めるのも気にせずに
女性は微笑んで、美射を見つめ
「……ミラク・バンクスと申します。
スズナカ・ミイ様、ようこそゲシウムへ」
何と挨拶をしながら
真っ白な肌の手を差し出した。
美射はため息を吐きながら
その手を握り返し
「ああ、"お仲間"だわ……あーあ。
私はそこのペップちゃんが好きなのよ……。
あなたは違うでしょ?だから、私やセイちゃんに
興味を持っている」
ミラクは丁寧に頷いた。
「ほんと、まっすぐなものたちは私に懐かない。
愛しい人もそう」
何故か俺をチラチラ見てくる。
頼むからやめて欲しい。
今はその謎コミュニケーションに巻き込まないで欲しい。
チラッと横を見ると
キドは隠しているが、かなり驚いた雰囲気を出している。
セイが堪えきれずに
「おいーセイ様は純真でまっすぐだぞ?
汚れてるみたいなこと言うなー」
「あなたは、まぁ……うん、人格は
その……悪くないんですけど……じゃなくて
根本が色々と、そのまぁ、歪んませてしまったというか
……いや、私が悪いわけでは……」
美射はごにょごにょと小声で言い始めて
ミラクが微笑みながら
「キドさん、私に新しいご友人を
紹介してくれて、ありがとうございます」
いきなり謝意を告げる。
「……そうか。ミラク、気に入ってくれたなら
俺は嬉しいよ」
キドは微かに戸惑いながら答える。
ペップと俺は蚊帳の外のようなので黙っていると
美射が
「あーミラクちゃん、なんであの屋敷に
いま但馬がしてるあのペンダントを隠したの?」
後ろ頭をかきながら尋ねる。
「……もう、ご存じなのでは?」
ミラクに微笑まれて、美射は苦笑いする。
表情からして、その通りだと言わんばかりである。
いや、分かってたのかよ。
なんだこいつ……。
先に言ってくれよ……。
胡乱な目で美射を見つめるしかない。




