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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 中二


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1323/1587

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号泣していた美射がピタッとその鳴き声と涙を止めて

「……捻じ曲げられたルールか。

 まるで、共鳴粒子の流れを捻じ曲げる但馬みたいね」

「でも、キドさんもパフェランテさんも

 そうだったんじゃ……」

キドは両手を大げさに広げると

「……美射ちゃんから聞いた感じじゃ

 君たちの歴史の流れは我々とは随分違ってるようだ。

 俺も、ミスターパーフェクトも因果を捻じ曲げはしなかった。

 ただ、運命に従って戦い続け、強敵を乗り越え続けて

 そしてここに閉じ込められただけだ」

「……因果を曲げられたのは、俺だけなんですか……」

「たぶん、私が居るか居ないかが

 大きかったんだと思うわ」

キドは大きく頷いて

「ああ、美射ちゃんの存在が歴史そのものだ。

 我々の世界のリングリングは

 そこまでは干渉してこなかった」

「ふっふっふ……私の権謀術数が効いてきましたなぁ」

嫌らしい流し目で、隣に座る俺の肩を

軽く触ろうとしてきたので

残像を残して、座っているソファの

少し横に座り直す。

「ちょ、ちょっとおぉ……褒めてくださいよぉ」

「俺がアグラニウスに来るって知るまで

 その権謀術数とやらで、どんだけの闇をばら撒いたんだよ……」

「あっ、愛も沢山撒きましたし……」

キドが手をパンッと一回叩いて

「そこまでだ。とにかく、今は食事を楽しもう。

 そして、ゲシウムで一晩過ごそうじゃないか」

セイがいきなりこっちを見て

「あーその間に、ディアナのとこに行くんだろ?

 ここ二十ラグヌス(月)いっつも、ここに来た後に行くんだよ」

キドは真顔で

「愛を欲するご婦人を俺は放っておけない。

 かといって、誰でもいいってわけじゃない。

 五十年ぶりの恋人だ」

美射はニヤニヤして

俺は真面目な顔で頷いた。

他人の恋路に口を出すつもりはない。

「結婚しろって、セイ様はいつも言ってるんだがなぁ。

 ああ、デナ公の話がまだだな」

セイがワインに口をつけながら

「あいつなータカユキたちが会った時に

 海中から顔だけ出してただろー?」

「そうだな」

「神秘性を高めるためでしょ?

 ああいう出現の仕方は、知性の高い巨大生物の

 常套手段よ」

セイは笑いながら

「違うんだよ。七十二ラグヌス(年)前だ。

 最初に会った時に

 あいつがフルチンで仁王立ちで出てきたから

 セイ様が、つい笑ってしまったらな……」

キドがサッと手で制して

「セイちゃん、そのくらいにしといてやれ。

 デナリサスにも、プライバシーはあるぞ」

「いや、セイちゃんもういいわ。

 それ以来、恥ずかしくて海中から顔だけ

 出していると」

セイは口を抑えながら頷いた。

「この世界の支配神なのにシャイなんだな……」

キドが頷いて

「そうだ。だからあまり苛めてやるな。

 この星はアグラニウスより遥かに弱いし繊細なんだ。

 それに、知的生命体の価値は

 強弱だけじゃない」

「セイ様は、邪悪な拒絶粒子の使い手たちを

 全部素手で倒したからな」

美射は意味深な顔で

「でしょうね。最強の鬼神があれでは

 セイちゃんの強さには誰も及ばないわ」

キドが立ち上がって

「ああ、今日も旨かった。

 御馳走様。では、諸君しばし俺は消える」

サッと部屋から去っていった。

恋人のところへと早くも向かったようだ。


しばらく黙って

三人で食べ続ける。

セイがポツリと

「……セイ様、ずっと恋人を作らなかったんだ。

 作れたけど、言いよるやつは何人も居たけど

 タカユキだけだって……」

「セイちゃん……辛いわね……」

嫌な予感がする。

いや、予感じゃないな。

もはや何が起こるか、予知できるわこれ……。

誰でもな……。

俺が目を合わせないようにうな垂れていると

「タカユキ……セイ様と結婚してくれ」

セイが真面目な声で

こちらに声をかけてきた。

重い……七十二年の重みだ。十七億年不変だったらしい

モンスターサイコの方は想いの重みというか

深い深淵の暗闇しか感じないが

セイの七十二年は、まだ魔族としての想いが

俺に感じられる重みとして

今の言葉に乗って、心に響いてきた。

どう、答えたらいいか戸惑って黙りこくっていると

セイが少し寂しげな声で

「いや、いいんだ。タカユキが家族以外と

 結婚しないのはセイ様は良く知っている。

 だから、タカユキが傍に居てくれるだけで

 セイ様は十分なんだ……でも……」

「いいたかったのよねええええええええ!

 セイちゃんああああん!?」

美射が滝のような涙を流して立ち上がった。

セイは苦笑いしをして

「そうだ。セイ様は言いたかった。

 そして、こうなるのも分かっていた」

「セイ……」

俺が顔を上げて

セイの顔を見つめると

セイと隣に顔をくっつけた美射が

両手で頬を抑えて、歪んだ口から舌を思いっきり出し

指で目を横に伸ばして

思いっきり変な顔で俺を見てきた。

「……」

「セイ様だけは舐めるな」

「私も舐めたらダメですよー」

「……」

なんだこいつら。

「セイ様は、貴様らにキドの描いた絵を見せたい。

 もう湿っぽいのは終わりだ」

「そうねっ。無駄に硬い男の相手は止めましょ」

二人は連れ立って立ち上がり

そして部屋の入り口まで歩いていき

同時に振り向くと

「行くわよっ」「行くぞ」

いや、連れていきたいのか置いていきたいのか

どっちなんだよ!なんだこいつら……。

俺はそう思いつつ、女難が過ぎ去ったようでホッとする。


セイと共に城内の廊下を歩き

そして階段を降りていき

さらに廊下をしばらく歩くと、大広間への硬い鋼鉄の両開き扉が現れた。

セイはそれを易々と右手で片方開ける。

「この中が、絵画ルームだ」

「楽しみね」

三人で中へと入ると

大広間の壁、そして天井一面に人物画から風景画まで

ありとあらゆる絵が貼られて飾り付けられていた。


美射が部屋中をクルクル見回しながら

「……凄い、ゲルニカ……落ち葉拾い……娼館の女

 ……煉獄の悪魔たち……顔の無い生き物

 ドラゴンと酒樽……馬鍬う海豚たち

 地球とアグラニウスの名画がそっくりそのまま

 何十枚も複製されてるわ……」

「何枚かは美術の教科書で見たことあるな。

 俺はそんな詳しくないから

 よくわからんけどな」

だが、一枚たりとも駄作が無いのは

素人の俺の目から見ても分かる。

眺めていると、セイがいきなり俺の手を引っ張り

「これだ、これがキドの最高傑作だよ!見ろ!」

日の当たる壁に飾られている一枚の絵の前に

連れてきた。

そこには

夜の公園でオレンジの街灯に照らされた

髪の長い若い女性が微笑みながら

緑のスカートを翻した振り向きざまに

こちらへと手を差し伸べてきている様が

幻想的に描かれていた。

何故か知らないが、俺はその絵を見た瞬間に

胸が締め付けられるような想いにとらわれる。

遅れて見に来た美射も

「ああ……そうか、これがキドの魂なのね、

 愛ね……この前後がどうであろうと愛だわ……」

「愛だろ?セイ様はしばらく泣いたぞ……」

「愛かは分からんが……何かすげぇな……」

三人で絵の前で佇んでいると

部屋の外から

「セイ様!バルシュラン侯が反乱を起こしました!」

兵士の緊迫した声が飛び込んでくる。

セイはその場で脱力して

「二十七回目だぞ……何回許したと思ってるんだ……」

よく反乱を起こす貴族が居るらしい。

「セイちゃん、私たちが力を貸すわ!」

「いや、セイ一人で良いだろ……俺達が行くと

 絶対話がややこしくなるって……」

俺が即座に断ろうとすると、二人からジッと見つめられる。

「わ、わかったよ……行くよ……」

「よし!タジマロイヤルファミリーで出陣だな!」

セイが両サイドの俺の美射の肩をそれぞれの手で抱きながら

美術室の入口へと向かい始めた。

ああ、面倒なことにならないと良いが……。

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