特殊な関係
背後に押し寄せてきたルーナム率いる五千の兵士たちとの
パスカー砦のラングラール兵たちに挟まれて、
メグルスの兵士たちは、次々に武器を投げ捨てて、投降していく。
縛り上げられたメグルスは砦内の広場に連れてこられて
赤鎧の兵士や、元盗賊団、ルーナムやラングラールが遠巻きに囲む中
かがり火に照らされて、そのど真ん中に座らされる。
「なあ、ラングラール、どゆこと?さっぱり何が起こったのかわからん」
俺はラングラールにダメもとで尋ねてみる。
意外にもラングラールは爽やかな笑顔で解説しだした。
「メグルスは、ナージャス城の我々の会話を、スパイを放って聞いていたのだ」
「それで、我々が夜襲をする直前を狙って
全軍で、休息していた我が軍の陣に奇襲をかけようとしたんだよ」
「そして、若様の言われたとおりに陣の中で全軍戦闘態勢で備えていた私の指揮で
追い払われたメグルスは、砦まで逃げ帰り、そしてこのザマでございます」
会話に入ってきたルーナムが皆に見られたまま縛られて真っ赤になっている
メグルスを見つめてから"ふんっ"と横を向く。
「つまり最初から全てわかっていたと……?」
「簡単なことだよ。私がこの世で"一番"メグルスの性格を理解しているからね」
ラングラールは爛々と輝く碧眼で俺を見つめ、言い放つ。
「そ、そうか。うん、ありがと。よくわかったよ」
何かこのラングラールとメグルスの二人は特殊な関係な気がして、
俺はそれ以上突っ込むのをやめる。
砦内に五千の兵士と、降伏した七百の兵士が無傷で入り
雰囲気も落ち着いたころに、ラングラールが広場の中心に相変わらず
縛って座らされているメグルスを指差し、大きく声をあげる。
「さあ、皆のもの、寛大な私はわが友メグルスの罪を許すが、
ロ・ゼダルーナ神はこの不忠者を許さぬだろう!!」
「どうすればいいか、諸君は知っているな!!」
そしてラングラールは耳を澄ます。
「鞭打ちだ!!」「鞭打ち百回だ!!」「鞭で打て!!」
兵士たちは口々に同じ言葉を叫ぶ。
広場の中心でビキニアーマーで縄に縛られているメグルスは「うぅ……」と弱りきっている。
「軍隊ってこんななの?」
俺はメグルスを見つめているライガスの隣にいって耳元に囁く。
「俺も軍人だった時期があるからわかりますが、
あれはラングラール殿の"優しさ"です」
「鞭打ちが?」
「ああやって皆の前で辱めることで、禊ぎを済ませてやってるんです」
「きつすぎやしないか?」
「指揮官への反乱なんて、どこの国でも死罪ですよ。優しすぎるぐらいですって」
「そんなもんなのか」
俺はザイガスから離れ、人の輪の後ろから恐々と見ているミーシャの隣に行く。
「あの人、殺されないよね?」
「ザイガスによると、鞭打ちされて終わりらしいぞ」
「良かったあ……」
本当に安心した表情のミーシャは俺に抱きついた。
とりあえずどうなるかは俺も気になるので恐々と端から見ることにした。
「鎧を脱がせよ」
瞳を輝かせたラングラールが兵士に命令すると、数人の兵士たちが
手早くメグルスの縄を解き鎧を剥ぎ取っていく。
鎧を全て脱がされた燃えるような長い赤髪のメグルスは、真っ白な肌を晒し
ぴったりした黒いショーツと胸の周りに巻かれている細いサラシのみになった。
そして手足を再び縛り上げられ、うつ伏せに地面に寝かせられた。
「では鞭打ちを始めよ」
二人の兵士が数を数えながらメグルスに鞭を振り下ろしていく。
「いーちっ!」
パアアァン!!という音が何またにもわかれた鞭から派手に響く。
それから背中や尻や太ももに鞭は打ち続けられ
「にじゅうななーっ!!」
「あっ……」
最初は堪えていたメグルスも次第に声が漏れてくる。
そこでミーシャが
「ごめん。もう辛いから……向こう、いこうよ」
と俺の袖を強くひっぱり、俺も同じ気持ちだったので
誰も居ない城壁の方へと二人で歩いていく。
性的な見世物のような要素も混ざっているような気がして、
俺も途中で気分が悪くなったのだ。少なくとも俺には女性を鞭で叩く趣味はない。
「でも良かったね。誰も怪我しなかったって兵士のおじさんから聞いたよ」
城壁の通路に腰掛けて、ミーシャは話しかけてくる。
「そうだな」
俺は晴れた夜空に出ている月を見ながら答える。
「なぁミーシャ、ローレシアンってさ。どんな国か知ってる?」
「うーん、子供のころ一回行ったときは、良い雰囲気だったけどなぁ」
「そうなんだ。てっきり酷い独裁国家かと思った」
「周りの国と仲良くしている大きな王国だよ、たしか」
「へぇー」
囚われていたときのラングラールの言葉から
ネーグライク王国に攻め込んだのは
ゴルスバウ王国が関係しているのは分かっているが
詳しくはローレシアンに行ってみないと分からないだろう。
まぁ、高校生の俺には、難しい話が多すぎる。
俺たちは無言で月を眺める。
「思い出したんだけどさ、今、月は一つだよね」
「そうだね。お月様は一つだよ」
「でも三つになる時がない?何かゴルスバウの刑務所で見た気がするんだけど」
ミーシャは複雑な顔をして、
「"三思の日"だね」
と呟いて黙ってしまった。
「それって何?」
「うーん……何でかはわかんないけど、色々変なことが起きる日だよ。
怖いことも、良いことも起こる」
「いつか詳しく教えてくれない?」
「いいよ。でも添い寝してくれたらね!」
ミーシャは上目遣いで俺を見つめてくる。
「それは難しいかな……」
「兄さんのいじわるぅー!!」
ほっぺたを膨らませたミーシャをかわいいなぁと思いながら
俺は再び月を眺める。もう鞭打ちが終わったころだろう。
ミーシャを連れて、広場へと戻ろうか。そろそろ寝たいし。
すると近くからラングラールの声が聞こえた。
「ああ、兄妹でここに居たのか」
どうやら俺たちを探していたらしい。
「もう終わったのか?」
「ふふっ」
ラングラールは微笑んで、手元の縄を引っ張る。
すると暗闇から先ほど鞭で打たれていたメグルスが出てきた。
首を縄で繋がれていて、ボロボロのサラシとショーツ姿である。
真っ赤になったメグルスの顔は月夜に照らされて妖しい美しさを放つ。
「さ、タジマ殿達に、挨拶をしなさい」
「ぅあ、メ、メグルスです。この度は私が失礼を……あぁ」
縄を引っ張られたメグルスは、その姿のまま赤い髪を振り乱して、俺に土下座する。
全身に鳥肌がたったミーシャが俺の背中に即座に隠れ、
ギュッと俺の背中の服の布を握る。
俺も絶句し、同時に二人の関係がどんなものか理解する。
一応これでも、地球では小さな町に住む十七歳である。
何かそういう話は性に関心のある周りからいくつか聞こえてくるし、知ってもいる。
「さ、これで皆への謝罪も終わったことだし、
あとは二人の時間を過ごそうか」
「はい……ラングラール様……あ……やだ……まっ」
爽やかに微笑むラングラールに、再び縄で引っ張られたメグルスは
鞭で打たれた痛々しい跡がついた背中で
媚びるように尻を振りながらついていく。
二人が去った後にアウアウ言いながら完全に固まっている
ミーシャの背中を優しく叩きながら
「大人のこじれた愛ってわっけわからんよな。
……ほんと理由をつけて、プレイのネタにするのも加減にしろ……」
と俺は呟いた。
その後、夕食を軽く済ませた俺たちは
砦内にミーシャと設営したテントで俺たちは眠りについた。
元盗賊団は、兵士たちが馬車をここまでひいて来てくれたので
その中で寝たり、クジで負けた人は野宿らしい。
何せ、五千七百の兵士が一気に、小国の砦内で泊まるのだ。
宿泊施設が足りず、俺たちと同じように大半の兵士は
テントを張ってその中で休んでいる。
ラングラールとメグルスは、元盗賊団の一人"早耳のパナス"によると
二人で砦中心部にある士官用の大きな建物の中に消えたそうだ。
「近づかないほうがいいっすよ。男やもめなのが悲しくなりますから……」
パナスは夕食時に大きな耳のついた細い顔を、切なそうに横に振り、
みんなに忠告していた。
翌日、朝早く朝食を済ませて、俺たちはパスカー砦を出発する。
ここからローレシアン国内までは、
ザルガスによると平原や森を抜けなければならないはずだそうだ。
砦に来るまでと同じように、兵士の集団が先に進み、
その後ろに俺たち十七人がついていくという感じだ。
馬に揺られているとヒマなので
"早耳のパナス"やピンクモヒカングラサンのライガスが
行軍する最後尾の兵士たちとネーグライク女王からもらったお菓子やらを
ネタに雑談して、様々な情報をもって帰ってくる。
最前列ではメグルスが昨日の乱れた格好のまま、縛られて馬に揺られているということ
メグルスのビキニアーマーは実はラングラールの趣味ではないかと
兵士たちの噂になっているということ、
そして平民出身のメグルスを、王族のラングラールは堂々と嫁に出来ず
その欲求不満で変なプレイに走っているのは、
ローレシアン国民公然の秘密になっているということ。
「ふ、ふーん……メグルスの話ばかりか……」
「もうやだ……兄さん……」
ライオネルの手綱を握ったミーシャが
昨夜の目前に現れた二人を思い出したようで、泣きそうになり天を仰ぐ。
「お前ら!!変態カップルの話じゃなくて、タジマの旦那が使えるような話をもってこい!!」
馬に乗ったザルガスから恐ろしい顔で一喝されて、慌てた二人は再び
ローレシアン軍の最後尾まで走っていった。
「とはいえ旦那。あの王子はやり手なのは確かですぜ」
真面目な表情のザルガスが、ライオネルに二人乗りした俺たちに馬を寄せてくる。
「その証拠に、しょうもないゴシップ以外に何の尻尾も出してねぇ」
「しかも、プレイの一環なのかはわかんねぇが、
ラングラールとメグルスの一戦は、高度な読み合いの勝負だった」
「そうだな……ほんと余計なこと知らなければな……」
ハイスペックなのに、なんちゅう残念美男美女カップルだと俺は思う。
「あ!!兄さん、村が見えてきたよ!!」
遠くに大きな村が見えてきた。
風車がいくつか回り、高い煙突からは煙も晴れた空に伸びている。
その先にはうっそうと茂る森も見える。




