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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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地下都市と巨兵

交差点跡であったであろう巨大な十字路の中心に俺たちは降り立つ。

そこは半透明でカラフルな人々が規則正しく信号待ちをして

そして一斉にこちらに向かって歩いてくる。

「うわっ、こわっ」

「……透過する……気にするな……」

マイカは、透過していく大量の通行人の残留思念を見もせずに

上を見上げて、天井からの淡い光に照らされた

ビル群の廃虚を見つめる。

アルデハイトもマイカの視線を追ったあとに

腕を組んで考え始める。

「なんでしょうか、ここは……古代都市の跡なのは間違いないようですが」

「みんな人間のようですね。犬を連れて居る方もいます」

ミサキが半透明の通行人たちの残留思念を見つめながら言う。

確かに異種族はいない。そして不思議な髪型、服装の人が多い。

天使の羽根が半分だけついたシャツや、蛇のように動き回りうねるパーマ

そして背広の上で、下が太ももむき出しの短パンに草履のサラリーマンなど

何でこういう格好になるのか、俺は全然理解できない。

テレビで見る都会の同世代の子たちもこんな奇抜な格好はしていない。

「どうしようか……というか、巨兵があれなら

 あんな巨大なものを倒すのは、無理なんじゃないか……」

俺は遠くの壁にめり込んでいる身長百メールほどの巨兵を見上げる。

「それも含めて、今から、まずは落ち着いて、考えて見ましょう」

マイカが左右六車線の広い車道跡を歩き出して、アルデハイトがそれに続き

残りの五人もついていく。アルファルトのようなもので固められた道は

左右の歩道では半透明の通行人たちが忙しなく行き交う。

「たしかに魔族国の大都市に似てるわ……このビルとか

 ……浮遊車は通ってないけどな……」

「行ったことあるの?」

「子供のときに何回か。だいぶ前よ。使節団に同行させられてなぁ」

「そうか、大変だな」

「いやいや、割と楽しいで。たっくんも国が落ち着いたら

 色んなとこに使節団派遣しようよ。うちも客将で行くよ」

「うん。考えとくわ。当分先になりそうだけどな」

前方では白い布に包まれた双雷槍をもった

サーニャがピタッとはしゃいでいるミサキに貼り付いている。

護衛は問題無さそうだ。

先頭を歩くマイカは白い布に包まれた機械槍をブンブンと振り回しながら

アルデハイトと何やらずっと喋っている。

にゃからんてぃは俺の肩の上で立ち上がり、三百六十度の見回して

周囲を観察しているようだ。

「俺が生まれた世界の都市の廃虚みたいなんだよな……」

「そうなんや。きかせてきかせて」

「ビルが立ち並んでて、中心にアスファルトの道路があって

 街は縦横綺麗に区画整理されてる感じというか……」

「魔族国に似てるんやね」

「うん。でもなんかもっと物理的だよ。

 全部科学で計算したりして、考えられて作られてる」

「そうかーうちらの星みたいにあやふやなものも利用する

 という感じではないんやね」

「そんな感じだと思う。ゴンドラの移動の原理とか全然分からないもんな」

「あれは、確かに謎やね。今の魔族国にもあるいうてたよね」

「そうだな。しかしこのままだと、魔族国行くどころじゃなくなりそうだな……」

「……ごめん……こんなに大層なもんやとは……」

「いやいや、俺も皆に従ったわけだし、責めているわけじゃなくてさ

 どうしようかなと」

先頭のマイカが立ち止まり、突き当たりにある数十階建ての巨大なビルを指し示す。

そこに向かうようだ。

おそらく街の中心部であるここにあるということは

何かの庁舎跡などの政治的な建物なのであろう。

俺たちは、その大きなビルのエントランスに入っていく。

受付の半透明の鳥の鶏冠のような被り物をした

スーツの茶髪のお姉ちゃんからお辞儀されてビビるが

よく見ると、定期的に同じ行動を繰り返しているだけのようだ。

周囲には半透明の変な格好のサラリーマンが行き交っている。

背中だけないスーツやら、へそが見えているシャツやら……。

「これがこの世界のお洒落だったんかな……」

「そうかもしれんね。みんな、この地下に閉じ込められてた感じがするし

 変なかっこうして、憂さ晴らししてたんかも……」

タガグロも気になって居たようだ。

先頭のマイカは奥にある階段を指差した。

それに従って登る。途中で息切れしたミサキは俺が背負う。

流れ人なのでこの程度ならまったく疲れもしない。

三十八階の頂上にたどり着くと、

マイカが廊下の奥の「市長室」と書かれた部屋へと

俺たちを誘った。そして傾いた扉をアルデハイトと俺が撤去して

誇りまみれの室内に入ると奥の黒塗りのデスクに、

人が座って居るのを俺たちは目撃する。

その人物はキイッと椅子を回して

こちらを向いた。


「ふっふっふ。とうとう、ここまで来てしまいましたか……」


「何だ、お前かよ……脅かすなよ」

「ぱいせん、ちょっと芝居が過ぎとらんか……?」

「ちょ!!みんな、もっと驚こうよ!マイカちゃんこっち見てよ!」

全力で驚いているサーニャとアルデハイト以外の、残り全員脱力している。

マイカは肩を落として、全力で首を横に振っている。

おそらく、ここに誰か居るのを察知して、期待して皆を先導してきたのだろう。

セーラー服姿の美射がツインテールを揺らしてこちらに近寄ってくる。

すれ違った大量の思念体のように、身体は半透明だ。

ミサキとタガグロが、まったく状況の飲み込めないアルデハイトとサーニャに

美射について、簡単に説明している間

マイカと俺の肩に乗ったにゃからんてぃで

美射に詰め寄って説明を求める。

美射は市長室の割れた窓からよく見える、

壁にめり込んだ巨兵を眺め呟くように語り始める。

「……うむ……想定していた正規ルートだとね」

「……?」

「閻魔マガルヴァナ→天使マカーン→悪魔モリス→道化師マゲャラ・ナルド→

 そして力不足を悟った但馬が鍛えた後に、強い力を揃えて、格上の氷の女王ガモヌ討伐。

 という順番だったんだけど……」

「まさか、天使から道化師までの道程をカットしたあげくに

 氷の女王戦の前に、残った二十三体のうち五番目の強さを持つ、

 始原の巨兵マーリヌグスから攻略を始めるとは!!」

「……う、うん」

いや、そんなことを言われても……。

俺としては今までそんなに間違った選択はしてないと思うんだが……。

「しかも物理的な支援も見込めない、この超高難易度の閉鎖空間。

 さすがの美射さんもお手上げですよ。あっはっは」

「お、おう……」

両手を広げて、お手上げのポーズをする美射をマイカは見つめながら

「……どうにかしろ……精神を……加速させて……考えていけ……」

と再び詰め寄る。

「うーん……何か聞きたいことはある?」

「……弱点……教えろ……それくらい……ハンデ……必要……」

「……街の北東部にある図書館に、大量の腐った本や本の破片があるわ……。

 あとは、わかるでしょ?」

と顔を近づけた美射はボソボソと俺たちに囁いて

「じゃ、時間だからね。私は忙しいのでーす」

と不意に消えた。

説明を聞き終えてこちらを向いたアルデハイトたちがさらに唖然とする。

「な、なんだったんでしょうか?」

「ロ・ゼルターナ神も、美射ぱいせんのこと、"娘の姿をした何か"とか言ってたわ……」

「美射さん、私は嫌いじゃないですよ」

アルデハイトが戸惑い、ミサキが俺の顔を見ながら気を使いフォローしようとする。

それに苦笑いしながら、

「アルデハイト、たぶんここで、考えても仕方ないと思うから……とりあえず」

「……図書館……行こう……」

マイカが俺の言葉を継いで、皆に促す。

俺たちは再び、三十八階分の階段を降りて行く。

市長室から出るとき、窓からチラッと見えた始原の巨兵の腕が

微かに動いたのを、俺は見てしまったが、皆にはあえて言わないことにした。


それとなく、アルデハイトに図書館までは皆を背負ったり

吊って飛んだらどうかと、提案してみる。

アルデハイトはすぐに了解して、マイカが取り出した縄で

皆の体力を勘案して、自分の体のそれぞれの部位に縄で括り付け始めた。

マイカが

「……タカユキ様……にゃか乗せて……走れ……訓練なる……」

と言うので、俺は全力疾走して

上空を飛ぶアルデハイトの下をついて行ってみることにした。

最後にマイカを左足にきつく括り付けたアルデハイトが

翼を出して、上昇していく。

背中に括り付けられて、しがみついたミサキはまたもはしゃいでいる。

信頼できる仲間を得て、本来の器の大きさが出てきたのかなと

俺は思いながら、上空を北東に飛んでいくアルデハイトの後を

ビル群を飛び越えたり、屋上を伝ったりして追っていく。

うん、何か格闘漫画とかヒーローモノの主人公になった気分である。

自分の思考よりも早く、身体が着地点を選んで、

廃虚の高層ビル群の屋上を飛び移りながら、超高速で駆けて行く。

時々危うい時は、にゃからんてぃが軽く片耳を引っ張って、

移動するべき方向を決めてくれる。

いよいよ、化け物染みてきたなと自分で思いながら

俺は時速百キロを軽く超えるスピードで走り続ける。


十五分ほど上空を飛ぶアルデハイトを見ながら、

障害物となる廃虚の上を飛び移りながら、直線で走り続けると、

四階建てくらいの横に広い建物が見えてきた。

アルデハイトたちはすで近くの道路に着地して、皆の縄を解いて居るようだ。

俺は高いビルから低いビル、そしてもっと低い民家の屋根に

飛び移り、その屋根を蹴り上げてジャンプして、アルデハイトたちの集まって居る付近に着地する。

「うっし。着地成功」

調子に乗って両手を広げてポーズを決めると、にゃからんてぃがパチパチと肩で拍手をする。

「たっくん、また体力伸びたんやない?空から見ててびっくりしたで」

すぐに駆け寄ってきたタガグロが言う。

「……明らかに伸びてるよな……ちょっと前までは、こんな芸当できんかった気がするわ」

「ちょっと巨兵討伐に希望出てきたわ」

「そこまでかなぁ」

「陸地をあんな俊敏に駆ける人、うち他に知らんよ」

「褒められるのは嬉しいな」

「そやそや、その意気やでっ」

タガグロに背中を叩かれながら、皆と合流して

図書館らしき大きなビルの中へと入っていく。


錆びて開かない扉をアルデハイトと左右に無理やり蹴りあけて

エントランスに入ると、中には風化しかかった白骨が大量に横たわっていて

扉から中に入った外気に当たると、音もなくポロポロと崩れていく。

「……避難……してた……」

マイカが崩れていく大量の骨を見ながら言う。

図書館の中には残留思念は居ないようだ。

アルデハイトはその光景に何も言わずに、懐から本太郎を取り出すと

そこら中の本の欠片や、腐った本を、黙々と本太郎に食わせていく。

空気が悪そうなので、

ミサキとサーニャには図書館周辺の様子を探ってもらうことにして

タオルでマスクをした俺は、帽子を目深に被りマスクをしたタガグロと共に

図書館の中から本太郎に食べさせると有益そうな本を集めてくることにした。

マイカはにゃからんてぃと地下を調べてくるようだ。


「うーマスクしてても鼻がひんまがりそうやな」

二階へと登る中央の階段を登りながらタガグロが言う。

「そうだな……そろそろ感覚カットがきそうだわ」

「ええなー。まぁ、うちも色んな毒に対する免疫はある程度あるけどな」

「そうなの?」

「一応皇族やからね。いつ盛られるか分からんし」

「じゃあ、俺らが適役だな」

「こんなところで、役に立つとは思わんかったわ」

俺たちは次々に骨だらけの図書館内の部屋を開けて、窓を開け放っていく。

同時に部屋の中にある本も探索する。

「……あ、これなんてええんやないの?"マーリヌグス神と我々"」

「こっちも持って行こう。"この世界の歴史"」

二階の部屋を空け終わった俺たちは、三階に移り、同じように

窓を開け、探索し続ける。

三階までで五十冊ほど、有益なタイトルの本が見つかったので

タガグロに四階の探索を任せて、たまった本は俺がそれを数回に分けて一階までもっていく。

ほとんど腐っていて読めないが、本太郎なら何とか解読してくれるだろう。

一階ではアルデハイトが相変わらず無言で本太郎に本を喰わせ続けている。

「大丈夫?」

アルデハイトに声をかける。

「あ、ああ。考え事をしていました」

「ならよかった」

「タカユキ様、もしかして、何らかの生物兵器を使って

 暴走する巨兵を封じ込めたのではないですかね」

「そういう感じがする?」

「はい。閉鎖された図書館に大量の白骨、死んだことに気付かないような大量の残留思念。

 壁にめり込んで眠っている巨兵。おそらく巨兵を封じ込めるために

 全市民の命を犠牲にしたのではないかと……」

「悲しいな……」

「ですね……」

アルデハイトはため息を少し吐くと、俺たちが上階から集めた本の山を

本太郎に喰わせ始めた。本太郎も感想を言わずに黙々と食べていく。

地下から出てきたマスクを被ったマイカが

「……地下……骨……だらけ……これ……見つけた……」

アルデハイトに雑誌を渡す。

「週間クー・ベル市……ですか。雑誌のようですね」

アルデハイトはすぐにそれも本太郎に食べさせて、ゲップしている本太郎を

図書館のひび割れたカウンターに置いた。

「少し、本太郎さんを休ませましょう。

 消化し終えたら、何か教えてくれるはずです」

四階を探索していたタガグロも、本を山ほど抱えて降りてきた。

「ありゃ、本太郎ちゃん、満腹か。あとで頼むなー」

「了解です」

にゃからんてぃも地下から走って戻ってきた。

小型ラジオのようなものを抱えている。

「……ん?にゃか、これ使えるん?」

「過ぎ去りし日々を悔やむよりも老いて行く現実を見るべきです。

 舞い落ちた秋の紅葉に満ちた木漏れ日の道を踏みしめます」

「ふんふん、『私の力で当時の放送をちょっとだけ再現できます』

 にゃか……さすがやなぁ」

「聞かせてくれ。興味がある」

他の二人も頷いた。

にゃからんてぃは腰に手を当てて誇らしげに頷き、

小型ラジオを床に置くと、肉球のある両手を振り上げて

ラジオの両側にその両手をくっ付けて、集中する。

「……ザッ……ザザッ……」

ラジオのスピーカーから砂嵐が流れてきて

皆で耳を傾ける。

「……緊急事態宣言……を発令し……生体発電……使われ……

 マーリヌグ……目覚め……暴走を……

 ザザッ……市民はただちに……近くの建物に退去…し……

 三十八式……発射……し……す……ザザッ」

そこでにゃからんてぃは力尽きて座り込んだ。

「にゃか!?大丈夫?」

にゃからんてぃはニカッと笑い手で「大丈夫だ」と

オッケーサインを出すとクタッと寝転がった。

アルデハイトは今聞いた内容を考え込んでいる

マイカも同じだ。

「生体発電とか言ってたよな」

「始原の巨兵のエネルギーを使って

 この街の電気を賄っていたのでしょうか」

「……おそらく……そう……だから……滅びた……」

「巨兵と一蓮托生だったわけですか。

 ということは、巨兵も市民も何らかの理由があって

 この地下空間に閉じ込められていたのですね」

しばらく皆で考える。

ミサキたちはまだ帰ってこないが、サーニャがついているから心配はないだろう。

アルデハイトが、カウンターに置かれた本太郎を手にとった。

「では、聞いてみますか……」

皆で緊張しながら、本太郎を見つめる。

天井から光が当たっているので分からないが、もう深夜のはずである。

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