異種族兵
夕暮れ時の王都のメインストリートの人波を歩きながら話す。
「……世界の危機っぽい話が出てるけど、俺らはブラブラしていいんだろうか」
「虚無の王関連のことなら、まぁ、その本体は欠片も姿を見せていませんし、
我々のみで無理して動いても、今は周囲に迷惑がかかります」
「そやねー。今は楽しんだほうがいいと思うわ」
本太郎を入れた布袋を持ったアルデハイトが機嫌良く話し
タガグロも同意する。フードを被って俺たちに囲まれたミサキは考え込んでいる。
「ミシェルさんは、何か色々助っ人を連れてくるとか言ってたしなぁ」
「そうですね。間違いは無いと思いますが……」
「お、人間とオークのカップルやん。子供もぎょうさんおるで?」
「ミノ!?」
人波の先に数人の子供と、家来衆に囲まれて
歩いているロンゲのミノとオークのセミーラを見つける。
俺は駆け寄って話しかける。
ミノはかけていたサングラスを取って
「おお、旦那じゃないですか!?」
「ミノ、それにセミーラも久しぶり!」
とさっそく子供たちに纏わりつかれている俺に話しかける。
折り曲がったピンクの耳を頭に生やした人間の子供を抱きかかえているセミーラは
無言で微笑んで頭を下げた。何か落ち着いた感じだ。
他の子供たちも多種多様で人間と変わりない子から
オークの特徴が強く出ている子までいる。
「どしたの?」
「ザルグバイン様の棺にお祈りして、中央城の様子を見たついでに
家来どもや、子供らと王都観光しようかと」
十人程度の黒服の中に、キャップを被ったゴブリンや
ターバンを巻いてサングラスをしているオークが混ざっていることに俺は気付く。
「異種族もいるね」
「そうなんすよ、聞いてくださいよ。あ、まぁ、ここじゃあれなんで」
ミノは近くの路地裏にある古びた飲食店に俺たちを誘う。
まだ飯時前でガラガラのその小さな店を俺らも入れて
二十数人で一気に占拠して、ガヤガヤと注文する。
ミノの馴染みの店らしく、異種族が一気に入ってきても
カウンターに立った店主はまったく動じずに、ミノに
「へい大将!!お友達とお子様に奥様ですか。賑やかでいいっすね」
と微笑んだ。
アルデハイトはミノの子供たちを避けるように角に座ったが
さっそく纏わりつかれて、色々と身体を触られている。
その様子をタガグロやミサキが面白そうに眺める。
俺はミノとセミーラと対面の席に座って、話を聞く。
「成長早過ぎない?まだ生まれて半ラグヌス(年)ちょっとでしょ?」
どう見てももう三歳児より上という感じである。
すでに言葉が達者な子まで居る。
「そうなんすよ……セミーラの話じゃ5ラグヌスあれば大人になるらしいっす」
「そりゃ大変だなぁ」
「で、本日話したいのはこいつらのことなんですけど」
近くの席にズラッと並んで、静かに食べている黒服達を指差す。
「異種族も混ざってるね」
「そうなんすよ。セミーラのツテを頼ってうちに就職した子たちで」
「それがどうしたの?正規に入国した後に、ミノが給料払ってるんでしょ?
何も問題なくないか?」
「まぁ、そうなんですけど……」
「ああ、お父さんはまどるっこいねぇ。私が話すよ」
「すまん。頼む」
ミノはセミーラが抱いていた子供を受け取って、セミーラと会話を
バトンタッチした。
「マスターが新しい国を造られたでしょ?」
「いや、俺というか……色んな力が働いて、いつのまにかできたんだよ」
「でね、そこからの就職希望者が殺到しててね。
私らじゃ処理できないから、マスター、よければ何とかできないかい?」
「お、おう……何でそんなことになってるの?」
再びミノが口をはさむ。
「ゴブリンとオークの間では、今や憧れの的らしいんですよ。うちの奥さんが。
"ローレシアンドリーム"を掴んだオークとして……」
「確かに今や大国の貴族婦人だからな……それは分かるわ」
「でね、出世したい!!玉の輿に乗りたい!!ってオークやゴブリンたちが
我が家に何とかしてくれって、書状や人を大量に送り込んでくるわけさ」
セミーラは困った顔で言う。
「大変だな。俺だったら雲隠れしそうだ」
「でしょ?で、何とかその中から使えそうなの選別したのが
そこに居る四人のゴブリンとオークなんですけど」
ミノと共に俺もその四人の黒服を眺める。
確かに屈強そうな男たちで、ミノの目に狂いはないようだ。
「いいと思うよ。強いな」
「よかった。旦那がそう言うなら、間違いはねえっすわ」
「で、マスター……この四人をさ……中央城の兵士などには……」
「……ちょっと待ってて」
俺は立ち上がり、角の席でミノの子供たちに纏われつかれながら
軽食を食べている三人に事情を説明してみる。
「……放っときましょう」
うんざりした顔のアルデハイトがふて腐れて、頬杖をつきながら言う。
「ゴブリンやオークたちをですか……正規兵になれるかは……」
ミサキは子供を抱きながら困った顔をする。
「たっくん、ホワイトリール城、主も失ったし、たぶん兵士も足りないよね」
「それだ!」
「確かに補充兵としてならば、身元もしっかりしていますし
……大老ミイに掛け合ってみますか」
席に戻ってミノにそれを話すと
「良かった……何とかなりそうっすね。お前ら!!旦那に頭下げとけ!!」
と黒服に告げて、全員から一斉に頭を下げられる。
「いやいやいや。ま、まあ、上手くいくことを願うよ」
苦笑しながら俺は頷いた。
「二段目の北西部の、見晴らしの良い高台に俺んちあるんで、
暇になったら遊びにきてくださいよ」
「マスターにはお世話になってねぇ……一度接待させてくださいね」
ミノとセミーラは満足した顔でそう告げて、
黒服や子供たちと共に去っていった。
「やっといきましたか……苦あれば楽ありの反対でした」
アルデハイトはため息を吐きながら、愚痴る。
「楽あれば苦ありねぇ、確かに楽のがあとがええなぁ」
タガグロが微笑む。
ミサキは真面目な顔で
「ローレシアン国軍に異種族兵を入れる……初かもしれませんね」
と頷いている。
辺りはすっかり日が暮れたので、
俺たちはゴンドラのある街外れの丘まで歩いていく。
たどり着いた丘の上でゴンドラを呼び、待つ間に
「色々あって、たのしかったなぁ。明日もいこな」
とタガグロが皆に話しかける。
「そうですねっ!明日も午後までには仕事を終わらせますので……」
「誘いにいきますよ」
アルデハイトは布袋の中の本太郎を見て
「まともに読めない廃棄本や、本の欠片でも良いのですか?」
と何やら怪しく話しかけている。
「どしたの?」
「ああ、本太郎さんに色々と訊いてました」
「何かわかった?」
到着したゴンドラに乗り込みながら尋ねる。
「欠片でもページの切れ端でも食べれば
その全体が把握できるらしいです」
「なにそれ、めっちゃ便利やん!?」
外に向けて文言を言い終えたダガグロが会話に入ってくる。
ゴンドラはゆっくりと光の線に上昇し始めた。
「でも、腹が減るから、できれば全部喰わせてくれと言っています」
「分かった分かった。色んな人に頼んで廃棄本とか集めてもらおう」
「あ、そうだ。ミサキ様」
「なんでしょうか」
「アルナっているじゃないですか、アルデハイトと貴方を守った女子ですよ」
「しっかり覚えていますよ。お二人には何とお礼を述べたらいいのか……」
「業務内容の内ですから……御気使いには及びませんよ」
アルデハイトが謙遜する。同族である魔族と戦うのは間違いなく
アルデハイトの個人的判断で業務内容ではないはずだ。ということは
皆分かって居るが、あえて誰も突っ込まない。
単純な善意でしかなかったのは理解しているからだ。
「で、ですね……そのアルナが、第四王子様にべた惚れしてまして……」
「ぶっ」
黙って聞いていたタガグロが噴出す。
「良ければ、お近づきなれるとありがたいんですけど……」
よし、俺の仕事終わり。これ以上は俺のコミュ力じゃ無理だ。アルナすまんな。
と思いながらミサキの返事を待つ。
「よろこんでっ!本人に直接言っておきますね」
「無理言ってすいません……よろしくお願いします……」
俺は腰を低くして、ミサキに頭を下げた。
タガグロはゴンドラ内の端のほうで笑いを堪えている。
裏庭に到着したゴンドラから降りた俺たちは
ミサキを執務室まで送ってから自室に帰る。
執務室へ向かう途中でミサキは
「そういえば、セイさん、どうなったんでしょうか……」
と取り返されたモルシュタインの娘を心配していた。
確か友達になったと言っていたよな
……向こうはどう思っていたのかは知らないが。
俺たちはタガグロの案内で足早に自室に帰って
冷蔵庫から食べ物を取り出し、リビングのソファに座り込む。
タガグロはさっそく風呂場へと水浴びしに行った。
「盛りだくさんでしたね」
アルデハイトが本太郎を布袋から出して、テーブルの上に置きながら話しかける。
「明日は、三段目に行く?」
「そうですね。領土視察もしといた方が良いですよ」
「未だに、全然自分のものじゃない気がするんだけどなぁ」
王都中央山の三段目と二段目は俺の領土なのであるが
三段目にモーラ、二段目にそうかザルガスを領主代理として置いて任せきりだ。
「確かに土は土です。国境など知的生命体が大地引いた線でしかありません」
「でも、制度があるからには、一応ちゃんとしとけと」
「そういうことです。よく分かってきましたね」
本太郎の様々なカビがふいている表紙を見ながら
アルデハイトは上機嫌にワインを飲む。
「テーブルに置いて、汚くないかな?」
本太郎にふいたカビでの病気を心配する俺に
「恐らくは、普通のカビと違うので心配ないかと」
と本太郎の近くに置かれた皿からクラッカーをつまむ。
「そうか、ならお前を信じるわ」
俺もテーブルのつまみを口に入れる。
本太郎はとくに動きもせずに、普通の本のように静かだ。
「アルデハイトにしか話しかけないのかな」
「そうかもしれませんね」
「ある意味、式神みたいなものだな」
「そう言ってくれると、嬉しいですね。一端になった気になります」
「ミーシャたちや、マイカたちは大丈夫かなぁ」
「何かあったらすぐにゴンドラで、移動できますから。
心配することはないかと」
「ルーナムさんは今ごろアルナの実家かな」
「かもしれませんね。王都にある、そこがもっとも監視し易いですし、
本人も寛げるのでは?」
「みんな、幸せになってくれたらいいな……」
ワイングラスを傾けたアルデハイトは一瞬微笑んで、すぐに真面目な顔になり
「それは、タカユキ様次第ですよ」
と一言告げてから、また旨そうにワインを飲み始めた。
氷の女王に……虚無の王か……。美射との関係も気になるな……。
出会ったロ・ゼルターナ神も、今一、その意図が掴みきれないしな……。
何かまだ、取りこぼしているメッセージがあるような。
しかし、まぁ動くのは、ミシェルさんが帰ってきてからだ。
じたばたせずに、明日は領土視察も兼ねて、三段目を見に行こう。
と思った俺は、適当にあるものを飲み食いして
水浴びを終えたタガグロと交代で風呂に入り、身体を綺麗に洗い流して
寝る準備をして、皆に「おやすみ」と告げて寝室に入った。
色々なことが頭を交錯して居る中で
目を閉じる。明日は早く起きよう。
……
「どうもーっ!」
「出すぎじゃない?」
「ええーっ」
夕暮れの小学校の校庭でセーラー服姿の美射と二人ブランコを座っている。
たぶん十年近く前に似たような光景があった気がする。
もちろん、そのころはもっと子供だったが。
「出すぎとか言わないでよー。ぶーぶー」
頬っぺたを膨らます美射は放っておいて
校庭から見える校舎の端に沈んでいく夕日を見つめる。
「こんなこともあったな」
「そうよ。これは覚えてるでしょ?」
「苛められていたお前を助けた日だっけか」
「そうよーあれで但馬と結婚する!って決めたの」
「いらんことしたな……」
その後、延々と付きまとわれ、"バカップル"というあだ名が小学校中に
知られて、いじられまくり、散々苦労した記憶がある。
「むしろ喜んでよ!!」
「まぁ、色々あって、今考えると楽しかったよ」
「これからもー。楽しかっ"た"とか、過去形にしないでよー」
「いや、これからのことは……そうだ。"虚無の王"についてだな」
「知っちゃったか。まぁだいたい予定通りね」
「お前、悪の手先だったの?何か、そんな気は薄々してたけど……」
「ちがーうっ!!正義の味方よ!」
「言い切ったな」
キコキコとブランコを軽く揺らしながら会話を続ける。
「生前のザルグバインから、色々と遺跡とかの話聞いたでしょ?」
「ああ、それが記された巻物が俺の寝室にあった気がする」
「あれね、ほとんど虚無の王の使徒が封印されている場所なの」
「……マジすか……」
あぶねぇ……聞いてて良かった。どんなトラップだよ。
あの爺さん、今ごろ冥界でニヤニヤしてるだろうな。
「だから、氷の女王の後に元気だったら、
私ってか……リングリングちゃんのところを訪ねるついでに、周ってみてね」
「菅が何体か倒してないの?」
「んー四体位は多分、世界探索の途中で破壊してると思うよ」
「ということは残り二十四体が丸々残っていると……
その内リングリング抜いたら、危険なのは二十三体か」
「そゆこと。まぁ頑張って。但馬にかかってるよ」
「そんなこと言われてもな……お前ってリングリングなの?ってか何なの?」
「なんだろうねぇ……何だと思う?」
「悪の手先でデート中毒の変態?」
「ちょっとーそういういじりかたは、止めてくれませんかねー」
「言えないんだろ。分かってるよ」
「ふふっ。じゃあね」
隣に座る美射が俺の肩を軽く叩くと
周囲の光景が消えて、真っ暗になり、俺は深い眠りに落ちた。




