変態襲来
翌日の放課後、僕にとって、初めての栄華部での活動の時がやってきた。
ここに至るまで朝から伊勢にグチグチと小言を言われ、昼休みに伊万里さんがどこから聞きつけてきたのか、僕が入部したことを知り根掘り葉掘り質問攻めにあうはで、かなりの苦労をしたのだが、今日はここからが本番かもしれない。
部室棟の長い急な階段を登りきり、栄華部の部室の前で辿り着いた。
ドアノブに手を伸ばすと、カチャッと回った。鍵が開いている。
どうやら深会先輩はもう来ているらしい。
中に入ると、そこには相変わらず一部活には不釣り合いな広い部室があった。
ただ、昨日と唯一違う点は、部屋の中央に置かれている長机に、今まで一つしか置かれてなかったであろう窓側のパイプ椅子に、長机を挟んではす向かいにもう一つパイプ椅子が増えていたことだ。
変化の少ない環境で、この変化はなんだか仲間として迎えられているみたいで少しうれしい。
「あら、早かったわね」
深会先輩はこちらを見ず、何故か、昨日はなかったホワイトボードに何かキュッキュッと書いている。
って、わかりやすいぐらいの変化があるやないかーい!
僕は生まれて初めて心の中でノリツッコミをした。
「それは、こっちのセリフですよ。あと、そのホワイトボードどうしたんですか?」
鈴原先生よりホームルームを早く終わらせることのできる先生なんて、この高校には存在しないはずだけど
「笹箱君の栄華部第一回の活動だから、授業をサボって用意したの」
「それ、大丈夫なんですか?」
「私が何回同じ授業を受けてきたと思ってるの?」
確かにである。
あと、僕だけの為にホワイトボード用意するとか栄華部の財力とスピードすごいなアマ○ンでもそんなに早くないぞ。
そんな手際に驚きつつ、僕は昨日からある長机を挟んで、深会先輩の席と真向いの僕の席に座る。
「では、少し早いけど笹箱君も来たことだし、今日の活動を始めましょうか」
ホワイトボードからこちらに向き直り、書き込んだ文字を読めと言わんばかりに文字に手を添える、バーンっとホワイトボードには大きな赤い文字で『今年度第一回栄華部活動~そもそも今まで何をしてきたの? 全部教えます栄華部の歴史~』と書かれている。
「さぁ」
「えっ⁉ 読むんですか?」
「当たり前でしょう。何のために私が書いたと思ってるの」
普通に、僕に分かりやすく部の活動を説明するためじゃあいけないんですかね。
「さあ」
余程言わせたいのか、更に催促してくる深会先輩。この人はまだ読めないとこらが多いな。
あっ、今のは別に、ホワイトボードの文字を読みたくない僕の気持ちとかけたわけじゃないよ。
このままでは終わりそうもなかったので、渋々僕はホワイトボードの文字を読むことにした。
「……えっと、今年度第一回、栄華部、活動、そもそも、今まで、何をしてきたの、全部教えます、栄華部の歴史」
「覇気があまり感じられないけれどが、まぁ、良しとしておきましょう」
万年能面なあなたにだけには、覇気がないとか言われたくないですけどね。
「何か、質問があるなら聞くわよ」
心の声を察知されたのか、深会先輩がこちらを睨むので、誤魔化すために真面目な質問をしてみた。
「えっと、大人になるために今まで具体的に何をしてきたんですか?」
何とか誤魔化せたみたいで深会先輩は組んでいる腕から右手の人差し指をピンッと立てると解説してくれた。
「まずはそうね、そんなに難しいことをするわけではないのだけれど具体的に大人とはどんなイメージを指すのかを部員たちで話し合うの。最初の頃出たイメージは富と地位と権力だったわ」
「深会先輩の大人のイメージ像、結構汚れてますね」
そのツッコミはあっさり流され、ホワイトボードには綺麗な文字で『富、地位、権力』と書き込む。
「それで見てもらえばわかるとは思うけど、この部の部費しかり、校長や他の教員を好きにできる事しかり、この部を卒業していった者たちも各界に根を伸ばしていているし、これはかなりの完成度でできていると思うの」
「改めて聞くと、信じられないぐらいすごいですね」
「でしょう? なんなら明日から笹箱君好みの女教師を二、三人くらいならこの学校に赴任させてあげることもできるわよ」
「ぜひ‼ お願いします」
気付いたら、また床に頭を擦り付ける僕。
もしかしたらここが僕の定位置かもしれない。
「でも、これだけしても、私は卒業できなかったわ。つまり富、地位、権力は間違っていたってことね」
「あれ? 僕の土下座スルーですか?」
「焼き土下座で一日過ごせたら考えといてあげるわ」
「それは、どんな狂った賭博士でも無理でしょう!」
あの利根川さんでも、気を失うほどのあれだぞ?
「次に、学力の話が出たわ」
「へー、今度はまともですね」
「その頃の部員たちと一日平日授業以外で十時間、休日二十三時間五十五分をめどに勉強に明け暮れたわ」
「加減てものを、知りませんね。あと、休日の五分が気になります」
「そうして私と部員たちは、全国模試で一位から順に独占し、色んな資格や検定を取り巻くったわ。ちなみに私は、ここ五年は全国模試一位を譲ったことはないし、あの頃の部員たちはハーバードを卒業して今NASAにいるわ」
「急にトンデモ話になりましたね! 深会先輩の勢力は海外まで届いてるんですか!」
恐ろしいことを聞いてしまった。頭良さそうとは思っていたが、そこまでとは、
「それでも駄目だったから、次に出たイメージがマナーつまり礼儀作法ね」
「あっ、それできたら大人ってイメージあります」
レディーファーストとか大事だよね。
僕も階段やエスカレーターでは、レディーファーストを忘れたことがない。
決して生足やあわよくばパンツを見ようなんて魂胆はない。
「色んな国のマナーまで習得したけど、駄目だったわ」
「打つ手なしって感じですね」
それだけできれば、かなり成熟した大人になると思うが、単純な自分磨きでは駄目ということだろうか?
「他にもいくつかあるのだけれど、今のを聞いても分かる通り、一つひとつのテーマを議題に挙げるのは簡単だけど、いざ実際にやってみようとしたら、かなり時間がかかることなの。もしかしたら笹箱君とやる活動も、最初に出たテーマで三年消費するなんてことになるかもしれないわ」
そんなに大変なことなんて、僕がこんなこと思うのも筋違いだが、聞けば聞くほど深会先輩が不憫でならないな。
「実際そう考えると、どうしてもテーマ選びには慎重にならざるをおえませんね」
僕は、腕組みをして唸ってみる。
大人と子供の境界線とは、一体何か?
「深会先輩は、最近考えてる大人のイメージってなんですか?」
深会先輩は顎に手を当て
「フム、そうね、最近はやはりセックスをすることかしらね」
「ブッ⁉ フェッ、ゴホッ、ゴホッ」
思わず咳き込む。
深会先輩のお顔の表情はピクリとも変わらないが
「どうしたの? そんなに不思議がることじゃないでしょ? 某名曲でも言っているじゃない大人の階段昇るって」
「いや、僕は世代じゃなっー」
ドスッ…カツン、コロンコロン—僕の脳天に深会先輩が、手に持っていたマジックペンが鈍いを音を立てて直撃し床に転がる。
「名曲に世代や時代など関係ないと思わない、笹箱君?」
「その通りだと思います」
深会先輩の年齢に対する沸点の低さは、異常である。
「真面目な話よ。どう? 今夜にでも」
深会先輩は、僕と向かいの席に座ると身を乗り出して、こちらを妖しく見つめる。
そうすれば、必然的に深会先輩の制服から、そこそこ豊満な胸とそれを引き立てる水色のレースの付いたブラが、僕とこんにちはする。
やぁ、こんにちわ!
しかし、それにしてもブラと肌の境界線が、深会先輩クラスの胸だと、少し肌がむっちりと盛り上がり、これもまた一つの絶対領域なのではないかとここに提唱したい。
またブラとは、そこから、もしかしてパンツもこんな柄のものを穿いているのかしらと、ホームズもお手上げの推理力を発揮させてくれる。
つい、エロイ胸にばかり目が行って、返事の回答を考えることを放棄していたが、ここはNOとは言えない日本人として、はっきり言っておかないと、いやー、日本人だから仕方がないよね。
NOって言えないんだもの。
いやー、まいった、まいった。
……仕方がないよね。
よし!
「……………………………………………………遠慮しときます」
僕の意気地なし!
「ずいぶん考えたわね」
いつもと変わらぬ平坦な口調で、ジト目の深会先輩。
ハッ! もしかして僕を試したのか!
揺れ動く思春期の心を弄ぶなんて最低ですよ。
けっこう長い間、妄想タイムと本当に断っていいのかをシンキングしてしまったぜ。
「まぁ、それも一つの案として、別に今日中に決めてと言ってるわけじゃないの、頭の隅に位に置いておいて頂戴。ちなみに今、笹箱君にとって何か大人のイメージってある?」
なんだろうな。
一度顔を沈めて考える。
とても努力しているのは感じる。
でも、大人って深会先輩や今までの部員さんたちが考えているほど優秀でもないし、立派でもないと思うんだけどな。
だけど、気が遠くなるくらい長い時間一生懸命頑張ってきた深会先輩に、それを言うのは言いづらいんだけどなー……頑張ってきた人の努力が一歩間違えば、水泡に帰してしまうことはとても言いづらいんだよな。
「そうですねー、今結構出ちゃった気がしますけど、今まで試したのって大人にも当てはまりますけど、 どっちかっていうと単純に優秀な人って感じで、大人って子供の時に待ってたものを無くしていくのも大人ですよね。そういう面の何かやりました?」
なるべく婉曲的な表現にしてみたんだけど、どうだろう?
恐る恐る顔を上げて、深会先輩の顔を覗く。
……超唖然とした顔してらっしゃいますけど、どうしよう。
「……逸材だわ。栄華部、創部して以来の鬼才が現れたわ」
わなわなと体を震わせる深会先輩。
今までの部員さんたちが、よっぽど心の綺麗な人たちばっかりだったんだと思います。
「それで、具体的にはどんなことがあるのかしら? やっぱりセックスかしら? 処女とか童貞とか、無くなっちゃうものね」
「そのセックス系のネタ、定番化させませんからね。絶対ツッコミませんからね」
「どこに突っ込むのかしら?」
「そこに食い付かない‼ 女の子がはしたないですよ」
この人、表情があんまり変わんないからな冗談なんだろうけど、つい、こっちの顔が赤くなっちゃうからな。
でも、今までになかった発想に、深会先輩のテンションが上がっているのは分かる。
心なしか鼻息が荒い気がする。
しかし、具体的に何か上げるとしたらなんだろうな。
僕の十数年ばかりの短い人生経験を、洗いなおしてみよう。
そうしよう。そうしたら何が出る?
「…………夢でしょうかね」
「夢?」
いまいち、ピンと来ていない様子の深会先輩。
何だかんだで、この人育ちがよさそうだし、あんまり悪影響与えるようなこと言いたくないんだよなー。
「えっと、ですね。
子供の頃って確実にできないだろうって夢ありませんした?
それが段々現実にある仕事や理論上可能な野望なんかになっていくんですが、それでもまだそれが叶わない事だと分かってしまう。
でも、それを現実の本当に一部の層が叶えてしまっている分、自分ができないことに対する歯がゆさは大きい。自分に失望するんです。
そして、自分なんかできなくて当たり前と思って、夢を頭の中から追い出して現実と向き合っていく。
これが一つの大人になるってことじゃないですかね」
「……随分、しみじみと語るのね」
「…………ただの漫画の受け売りですよ」
そう、こんなのどこにでも溢れている一般教養の内だ。
深会先輩は、どうやらお気に召したようで
「……そうね、一考の余地はありね。では、明日からはこれを話題に吟味していきましょう」
「へっ? イメージが決まったら、実行するんじゃないんですか?」
「あくまでイメージ会議の延長よ。まだ笹箱君にはわからないかも知れないけど、この件は慎重すぎて悪いということはないの」
「はぁ、そんなものなんですか」
「じゃあ、今日の活動はこれで終わりだから、あとは帰るなり、くつろぐなり好きにしていいわよ」
そう言うと、深会先輩は自分の通学鞄から文庫本を取り出す。
「えっ、今日これで終わりですか?」
こんなにあっさり終わってしまうとは、思ってなかった。開始まだ十分もたってないと思うけど
「焦らなくてもいいわ。というより私が何度も繰り返している内に焦らなくなってきているのかもしれないけれど」
「……それなら、毎日活動しなくてもいいんでは?」
「いやよ。私が寂しいじゃない」
もうすでに、半分文庫本に意識を落としながら、シレッという深会先輩。
僕もこのまま、すぐに帰ってしまうのもあれなので、ジュースでも飲みながら本棚の漫画でも適当に読んでみようと思っていたら、コンコンと部室のドアをノックする音がした。
「……どうぞ」
深会先輩はドアの方に目もくれず、文庫本のページをめくりながら来客に対応する。
伊万里さんから映画部は一般の生徒に敬遠されていると聞いていたので、いったい誰だろうと考えていた。
しかし、僕が考えたところで、入学一ヶ月の経験値程度では、校内の人間の大半は知らない人なので、無駄というものなのだが今回に限っては来客は僕の知人だった。
バンッと乱暴にドアが開かれる。
「……伊勢」
そこには、僕の愛すべき幼馴染みの伊勢が突っ立っていた。
完全に目が座っている点が、とても気になるところだ。
「あら、誰かと思ったら…誰だったかしら?」
相変わらず、深会先輩の伊勢に対する刺々しさは半端ではない。
深会先輩の先制攻撃にこめかみをピクリとさせながらも、無視してぼそりと声を漏らした。
「……入部してやるわよ」
僕の耳が確かなら、信じられないことに伊勢は、この部に入部したいと言った。
「は? 何か言ったかしら」
深会先輩は、聞こえていて聞こえないふりをしているのか、本当に聞こえていないのか伊勢にリピートを促す。
「だから入部してやるって言ってるのよ‼」
「え? トイレ? トイレならここの窓を飛び下りてすぐのところよ」
聞こえないふりのようでしたー。
「飛び降りたら死ぬでしょうがー‼ て言うか、あんた聞こえていて聞こえないふりしてるわね‼」
あっ、伊勢さんもお気付きになられたようです。
「にゅ・う・ぶ‼」
伊勢は部室の窓が割れそうなほどの大声で、愚直に同じセリフを繰り返す。
僕は耳を塞いでいたら、深会先輩が立ち上がって、
「わかったわ。……あなたには負けたわ」
僕は、深会先輩にしては早く折れたなと思っていたら、
「私と笹箱君は退部するから、これからはアマ、あなたがこれからの映画部を作っていくのよ」
「そんなに私が嫌いか⁉」
そんなに嫌いなんでしょうね。
「別に冗談ではないから、頑張ってね」
「うっ、それなら私も入んないわよ」
「どうしてかしら? あなたは、純粋に映画という人類の生み出した至高の娯楽の一つに興味を持ち、高校でそれを学んでいこうという向上心の元、この映画部の門を叩いたのではないの? ……それとも何かやましい不純な動機でもあるのかしら?」
「なっ、ないし!」
かなり執拗に入部を拒否する深会先輩。
映画部のというより、深会先輩の複雑な事情をかんがみればしょうがないことだとは思う。
入部する以上事情を話さざる得なくなるし、そんな簡単に話してしまえば、情報の機密性など守れなくなっていくのは目に見えている。
決して、深会先輩は、伊勢にただ意地悪がしたくてしているわけではない。
…多分…きっと…だと思う。
「もう! そんな意地悪ばかりしないで、入部させなさいよ!」
ついに伊勢も我慢できず、直球勝負だと言わんばかりに怒鳴る。
「しつこいわね。警察呼ぶわよ」
「呼ばれてたまるか‼」
冗談が辛口すぎるな。
僕が苦笑気味に二人を見ていると、深会先輩はカーディガンのポケットから携帯を取り出して、どこかに電話し始めた。「えぇ、今すぐ」「えっ? 今、忙しい?」「私を誰だと思ってるの?」などと、何言か短く話すと通話を止めて、
「今、警察を呼んだわ。五分以内に来ると思うから」
「マジかお前‼」
伊勢も僕も驚愕する。
僕に至っては開いた口が塞がらない。
いくらなんでも冗談だろ。
五分後
「失礼しまーッス! 刑事部捜査一課、三星茜! 深会先輩の言いつけ通り、五分以内に到着致したッス」
……ほんとに来やがった。栄華部の扉の前には、女性物のパンツスーツを着たショートヘアのよく似合った少し青みがかった黒髪の女性が、快活そうな笑顔と敬礼の姿勢をひっさげて立っていた。
「三秒遅刻よ。後で鑑別所固めね」
「ハッ! それは木村健悟さんがマサ斎藤さんの鑑別固めに対抗して開発した足技殺しの関節技‼ 形としてはナガタロックIやグランドクロス200などと同じですが、使用順で言えば木村健悟さんが初代! ありがとうございまッス‼ 最高のご褒美ッス」
うわー、この二人の関係知りたくねー。というか関わりたくねー。
しかし、僕の思いとは裏腹に、三星さん(たい)と名乗った女性は、僕に気づいていまったようで、気さくに話しかけてきた。
「あっ! 新入部員さんスか。どうも私も元栄華部員なんッスよ。気軽に名前で呼んでくださいッス」
「どうも、僕は笹箱敬馬って言います」
「敬馬君ッスね。よろしければ、挨拶がてらに四の字かけてくれません?」
「遠慮しときます」
大体、事情は分かっちゃったよ。要は元深会先輩の後輩ってわけなんですね。そして、今は体のいい手足だと
「あっ、誰にでも技かけてくれって言ってるわけじゃないんッスよ? 私が気に入った人か、美女、美男子に限るッス」
「そんなビッチ臭くて、よくわからないツンデレ見たの初めてです」
濃いよー。この人濃いよー。
三星さんに絡まれている僕を、さすがに見かねたのか深会先輩が助け舟を出してくれた。
「それはそうと、さっき何か事件を追っているとか言っていたけど、それは片付いたの?」
「あっ、さっきは単独で連続強盗殺人犯を追っていたんスけど、深会先輩のお呼びがかかっちゃったんで、小五の妹に任せて、こっちに来ちゃいました」
「妹さんへの期待値が高すぎるよ‼」
同僚じゃ駄目だったの? 妹さんも急な無茶ブリで困り果ててるよ。どこかで奮闘しているかもしれない妹さんを不憫に思って、三星さんを睨むと三星さんは一切悪びれる様子もなく、頭の後ろを掻きながら、テヘッてな効果音が聞こえてきそうな具合に舌を可愛らしく出すだけだった。
すると誰かの携帯が鳴った。どうやら三星さんのものらしく「ちょっと失礼しまッス」と言って電話に出るとすぐに通話が終わって
「どうやら、妹が犯人を確保したみたいッス」
「妹さん頑張ったな‼」
なんで、本当に犯人追ってるの⁉ 危ないからやめときなよ‼
「……それで万が一大事になっても、私の呼び出しのせいにするのはやめて頂戴ね」
さすがの深会先輩も少し引いているようだ。
「勿論ッス! ところで今日は何の用なんッスか?」
何も知らされずに来たんだ。
深会先輩は、伊勢の方を指差すと
「そこにいる不審者を、追い出してほしいのだけど。そういうのも警察の仕事でしょ? 抵抗するようなら発砲してもいいわ。発砲許可は私が出すから」
普通に考えて、無茶苦茶言ってるな。それでも三星さんにはいつものことのようで、特に気にした様子もなく、承諾して伊勢に声をかける。
「じゃあ、お嬢ちゃん私についてきてくれまスか? 暴れたら撃つッスよ」
「あんた本当に警察⁉」
伊勢のツッコミも虚しく、三星さん(しゃ)に腕を掴まれ引きずられていく伊勢。腐っても刑事なだけあって、あっと言う間に伊勢を連れて行った。
「……あそこまでして、伊勢を入部させたくありませんでした?」
「……正直、伊勢さんに私の事情を話すのと茜を呼んで数分間とはいえ、あの子の相手をするの、どっちが面倒かかなり考えたわ」
深会先輩は、額を抑えて溜息をつく。
「ですよねー」
「……それでもね」
深会先輩は小さく呟いて、どこか遠い目をして
「それでもね、私の事情は本当にできる限り人に漏らさない方がいいの」
それは、どこか昔の失敗をしみじみと口に出しているようにも思えた。何か昔あったのだろうか?
深会先輩の意志は分かった。それでも、僕は伊勢のことをもっとよく分かっている。恥ずかしながらこれでも幼馴染みだ。
「多分、伊勢はここからが長いですよ」
僕も、しみじみと昔の失敗を思い出すように言った。そういえば深会先輩は伊勢のいないところでは普通に名字で呼ぶんだな。




