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Lord to Gloria  作者: 頭 垂
第一章 すべての始まり
9/49

弟は姉には勝てない

次の日。

グローリアたち三人は改めてギルドホームを訪れていた。

昨日はグローリア自身が大してリテラエと話もできていなかったし、ユニコのことをメンバーに紹介しなければいけない。

それよりなにより、可愛い子供のような存在と会いたかったからだ。

あの後、ぐっすりと寝てしまって結局朝まで起きてこられなかった。

ユニコのほうはリビングにあるソファーで一応寝ていたようであったが、プリスは不寝番をしていたらしく、今は家で眠っている。

自分の家で寝ればいいと思わなくもなかったが、不寝番をしていた相手を追い出すほどグローリアは血も涙もないと言うわけではなかった。

まぁ、寝てていいと言った時に何故にさっきまで自分が使っていた主寝室に向かったのかはわかっていない。その時に月夜が嫌そうな顔をした理由も。

ちなみに、家から出ると言うことでユニコはしっかりとフードをかぶっている。


「おはよう」

「おはようございます」


月夜とグローリアは挨拶をしつつギルドホールに入っていく。

ユニコは挨拶などしないが、誰も気にしない。

ギルドホールの中は、閑散としている。

それも当然。ここには基本的にリテラエしかいないのだから。

他の人間もここに来ることは来るが、グローリアの方針で、戦闘能力のないメンバーはなるべくこちら側に来ないようにさせている。

リテラエ以外でここに来れるメンバーは何人いただろうか? よく覚えていない。

その閑散としたギルドホールには珍しく人影が二つあった。

一つ目は当然のことながらリテラエ……なのだと思う。机に突っ伏して寝息を立てているので顔が見えないが、たぶんリテラエだろう。

二つ目は、昨日は見なかった人物。多少眠そうにしながらも、手元にある書類を処理している……はずなのだが、書類が積みあがって山のようになっているので、減っているようには見えない。

その二人のもとまで歩いていくと、眠そうにしながら書類を書いていた少年が顔をあげて挨拶してくる。


「おはよう、団長。今日は意外と早いんだね。怖い夢でも見た?」

「よぉ、ウルヴァーン。昨日は顔見せられなくて悪かったな」

「いや? 顔に関しては勝手に見ていたから問題ないよ」

「やっぱり昨日のあの気配はお前か。あと、今日早いのは、昨日寝るのが早かったからだ。それに……月夜と寝ているのに怖い夢など見ようはずもない」

「それもそうだね」


言葉を返しながら、ウルヴァーンは手元の書類にいくつか言葉を書き込んで、小さい方の山の上に書類を移動させる。

そして、ペンを置き、体を伸ばす。


「……ふぅ。一晩ずっとやっていたから辛いね」

「何の書類ですか? これは貴方の仕事ではないように思いますが」

「あぁ、月夜もおはよう。団長がいるのなら、君がいるのも当たり前だね。これはギルドの方の書類だよ」


書類を覗き込んでいる月夜に対してウルヴァーンは何でもないことのように言う。

実際にウルヴァーンにとっては何でもないことだ。

たまに書類や他の何やらの仕事をリテラエに泣き疲れて手伝うことも少なくない。

このギルドの全体的な仕事の等活や外との折衝をしているのがリテラエ。

内部のメンバーに関する仕事を一手に引き受けているのがウルヴァーンだ。

リテラエのほうが仕事が多いと言うのも当然の事だろう。


「そこは……違う穴だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ハッ」

「斬新な寝言だな、リテラエ」


リテラエがゆっくりと頭を起こす。

そして、寝ぼけ眼で周囲を見回しながら、少しずれてしまった仮面の位置を直している。もう完全に無意識の行動のようだ。

一瞬だけ見れた仮面の下はグローリアの胸の内を傷つけて行った。

リテラエの顔色は昨日よりもずいぶんと悪いものとなっている。睡眠不足や栄養不足だけではないような顔色の悪さだ。端的に言うと、血の気が薄い。


「お疲れのようだな」

「誰かさんのお蔭でな。……で、今何時だ?」

「九時」

「もうそんな時間か……時間ってのは過ぎるのが本当に早いなぁ」


窓の方に目をやりながら、酷く遠い目をしている。

たった一日で人間はここまで老け込んでしまうものなのか。

まぁ、リテラエが老けようが若返ろうがグローリアの興味をひかれるような内容でもないのでどうでもいいが。


「その様子だと、朝飯も食ってないのか?」

「これからだよ。辛うじて、頼んでから落ちた気がするから、もうそろそろ来る気がするんだけどな」

「もう来たやつを俺が全部食ったって言ったら……どうする?」


ウルヴァーンが意地の悪い笑みを浮かべながら、そうリテラエに言う。

その笑みを見たユニコは、笑顔ひとつとってもその人間の色と言うものがよく現れるものなのだと、漠然と思う。

そんな意地の悪い笑みを見たリテラエは表情から一切の感情を消す。


「間違いなく、一片の容赦もなく殺す」

「ま、そんなことしてないけどな」

「してたとしたら殺すだけだけどな……。にしても、プリスは? 昨日はお前の家でお前を待つって言ってたんだが……」

「テメェの家で寝てるよ。ぐっすりとな」

「それは良かった。それで? 何しに来たんだ? お前が用もなくここに来ることもないだろう? ここに来れば面倒事が起こるってわかってるんだろうし」

「そうだな。久しぶりにあいつらに顔を見せんとなって思っただけだ。じゃないとあいつらも拗ねちまうだろうし」

「あぁ、そうか。合点が言ったよ」


リテラエが奥へと続く扉を見ながら納得がいったと言うように首を何度も縦に振っている。グローリアの発言は実にらしいものだった。

自分の宝物入れの中を定期的に確認する子供のような態度は、リテラエが抱くグローリア像と酷くマッチしていた。

ガチャリ。

そんな音と共に扉が開いて、中から二人の子供が現れる。双子のようで、顔立ちや身長も瓜二つと言っていいようなものだ。

だが、決定的に二人とも見分けることができる違いがある。

片方は蒼髪赤眼。もう片方は赤髪蒼眼。

色がそろっていればいいのに。そんなことを思わせるアンバランスな見た目をした双子だった。

蒼髪赤眼のほうが姉のセキル。

赤髪蒼眼のほうが弟のヘキル。

二人とも身長は百三十五センチほど。服装はセキルが半袖に心持長めなスカート。ヘキルがミドル丈のシャツに長ズボン。色彩はセキルが黒を基調としてそこに赤で様々な絵が描かれている。ヘキルは白地に青で文字が描かれている。二人の種族的な要因からか、皮膚は軽く土色をしている。

色彩だけで言うのなら、実に対照的な双子だった。


「え!? 誰!?」


弟のヘキルは入口でグローリアたちのことを見とめてびっくりしている。その時に運んでいたトレーごと料理を落としそうになっているが、何とか落とさずに済んだようだ。

姉のセキルはグローリアたちのことを見つけても兄も口にも表情にも出さない。ただ、淡々と料理をリテラエたちが作業しているテーブルまで持ってきて、テーブルに乗せた後に一応とでもいうように反応を見せた。


「わぁー。何でここに知らない人がー」


……その言葉も声も見事なまでの棒読みであったが。

驚いて固まっていたヘキルは目を細めてこっちを見ることで、その新しく場に現れた人物がグローリアと月夜だと確認できたことで安心できたのか、ホッと一息ついた後にトレーを運んできた。

トレーを置き終えた二人は、グローリアに向き直ると挨拶をしてくる。


「おかえりなさい。それにおはようございます。グローリアさん。月夜さん」

「おかえり、おはよう。元気みたい。グローリア。月夜」

「おう、おはよう。テメェは元気だ。お前ら二人はテメェがいない間も悪さしてねぇか? セキル、ヘキル」

「ただいま。おはよう。二人とも元気なようで何よりです」


四人でそれぞれにあいさつを交わした後に、誰ともなく四人が笑い出した。

理由はわからない。特にないのかもしれない。ただ……何となく笑いたくなった。それだけなのかもしれない。

笑いを止めて、若干の余韻に包まれている中、セキルが月夜の後ろにいるユニコに対して鋭く強い視線を向ける。


「あなた誰?」


姉が警戒しているというのを感じ取って、ヘキルも警戒し始める。

二人ともいつでも戦えると言うように臨戦態勢に入っている。

この二人はとてもいい子たちなのだが、警戒心が強すぎるのと縄張り意識が強すぎるのが少し問題なのかな。

月夜はそんなことを考えた。

やっぱりセキルたちの殺気とも呼べるほどの強い視線に当てられて、ユニコまで触発されて殺気を放っている。その殺気を感じ取って、セキルたちがまた警戒心を深くすると言うある種の悪循環に陥ってしまっている。

どうしたものか。そう月夜が考えていると、グローリアがおもむろに三人にチョップをして回った。


「そう警戒すんな。こいつは新しい《セレーノ》のメンバーだ」

「新しいメンバー? 聞いてない」

「言ってないからな。……と、言うか。今まで、一度でもテメェは連れてくるって宣言してから連れてきたことがあったか?」

「……ない」

「ならいいじゃねぇか。それに、これから紹介しようと思ってたんだ。それが遅いか早いかぐらいの違いじゃねぇか」

「……わかった」


グローリアの言葉に納得したのか、セキルは警戒心を薄める。と言っても、完全に警戒心がゼロになったというわけではなく、グローリアの手前弱めただけだと言うのがありありと見える。

姉が止めたので、つられてヘキルも警戒を解除する。ヘキルのほうはグローリアが大丈夫と言っているのならば大丈夫だろうと、完全に警戒心をなくしている。

神経質な姉とある程度大雑把な弟。

ある種バランスは取れているのかもしれない。


「あの、グローリアさん! 一つ聞いてもいいですか!?」

「あ? 声でっけぇなぁ……。ま、良いぞ。答えられる範囲で良いならな」

「はい。なら……」


ヘキルが何を聞きたいのかは予想ができている。

別にそれについて話してやるのも悪くはない。昨日はヤバかったが、一晩休んで回復した今ならそのぐらいのことは問題がない。

だが……いい加減に同じことを聞かれるのに、グローリアは辟易していた。

そのせいか、若干嫌な雰囲気が出てしまう。

その雰囲気を敏感に感じ取ったセキルが静かに話題の転換を図る。


「……その前にご飯にする。リテラエもウルヴァーンも死にそうな顔してる」

「……そうしてぇな。俺はまだ大丈夫だが、リテラエをこのままにしてたら死ぬだろ」

「ん? いや、俺はまだだいじょう……」


流れを容赦なくぶった切ろうとしたリテラエの顔をウルヴァーンが片手でつかむ。


「あ? 早く食べたい? そうか。なら、さっさと食うことにしようか」

「だから、まだ大丈夫だって……」


ウルヴァーンの胸中にやるせない思いが広がる。

何故、いつもは読みすぎるほどに空気を読むのに、こういう時には読まないのか。

タイミングが悪いと言うか……空気が読めないと言うか……。

そんな空気の読めないリテラエを、空気の読めるセキルとウルヴァーンは睨みつける。ウルヴァーンは手の圧迫を強める。


「黙れ。このまま頭を握りつぶされたくなければな」


ウルヴァーンの本気度を表すかのように、リテラエの顔を掴んでいるウルヴァーンの右手には水色の鱗が生えている。

その鱗によって、返答を謝れば頭を容易く握りつぶされると理解した。

なので、納得はいっていないが、ウルヴァーンの言葉に載ることにした。


「……確かに腹が減って死にそうだ。さっさと食おうか」

「え? でも、僕の質問……」

「弟、黙れ」

「はぁい……」


姉に睨みつけられた弟は二の句を告げることができずに、テーブルについた。


姉ってなんで弟に対してあんなに理不尽なんでしょうね?

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