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Lord to Gloria  作者: 頭 垂
第一章 すべての始まり
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仮面の苦労人

短いです

完成したやつを分割してるので、長さが安定しないです。

広々としたギルドホールに一人取り残されたような形になったリテラエ。

月夜たちが出て行ったのを確認し、周囲の気配まで探り、あの二人がいないことをしっかりと確認してから、大きく息を吐く。

そして、口に手を突っ込み、一つのものを取り出す。

それは、何の装飾もなされていない実用一点張りの鍵だ。鍵らしい歯はついていないが。

これはグローリアが来る前から入れてあったものでもないし、さっきの会話の間ずっと口の中に入っていたわけでもない。

こんなものが口の中に入っていては話しづらくてしょうがない。

この鍵はこの世の中にあるどんな錠前にも当てはまらない鍵だ。鍵がぴったりとあてはまるのはリテラエの心というこの世のどこにも実態を持っていないものだけなのだから。当てはまっても何の意味もないが。

鍵をかけて感情の一部を封じ込めなくては尖角種なんて化け物とはまともに相対できない。相対できなかった結果として、殺気を放ってしまったのだろう。


「俺も、まだまだ人だったってことか。喜びゃいいのか悲しみゃいいのか……」


少し鍵に視線をやった後、軽く頭をふる。

その後、後方に鍵を投げるが地面に落ちた時のような音は微かにもしなかった。

これ以上、あの尖角種にしてしまった無様な態度のこと考えても蛇足以外の何物でもないだろう。

あの尖角種の少女はうちのギルド――《セレーノ》に入ったんだ。

ならば、どんな過去があれ、どんな危険をはらんでいる存在であれ、仲間であり家族だ。

その仲間で家族を守るために行動するのは副団長としても、家族の一員としても当然の行為だろう。


「……仕事が多すぎるけどな」


パッと考えただけでも嫌になるほどにある。

他の団員への紹介。他ギルドへの牽制。同盟ギルドに秘密裏に尖角種が来たことも知らせなくてはならない。

その中でも、一番重要なのは、尖角種がうちのギルドに入ったということの隠蔽だろう。

この情報が洩れただけでもこのギルドは周囲のギルドから潰されかねない。

『自由』が基本となっている西でも……いや、西だからこそ潰されるだろう。

自分の『自由』を脅かしかねないものに対して優しくするような奴はこの西にはいない。

大きくため息をつく。

そして、虚空に向かって声を吐き出す。


「ウルヴァーン。一部始終見てたんだろ? さっさと手伝ってくれよ。俺一人で処理しきれる量じゃねぇってのは理解できるだろ?」


端から見たら、完全にヤバい人間にしか見えないだろう。

誰かに呼びかけるようにして何もいない虚空と会話しているのだ。見えてはいけないものか、本人にしか見えない何かが見えていることだろう。

だが、この場合はそうではなかった。

リテラエはちゃんと誰にでも見える何かに声をかけていた。

ただ、その人間は視界内にいないだけだ。


「やっぱり気づかれてたのか。あの場で俺のことに気付けなかったのはあの尖角種の女の子だけかな」


声がリテラエの上の方から聞こえてくる。

その直後に何かが天井から落下してきて、けたたましい音と共にリテラエの前数メートルの位置に着地した。

パッと見は普通の人間の少年のように見える。見た目から年齢を計ると、さっきこの場にいた月夜よりも少し年上と言う程度に見える。大人とはとてもではないが言えないだろう。ハーフアップにしてある髪には、クロスするように翡翠色のヘアピンがついている。服装は特筆するようなところはなく、黒色の無地の七分丈のシャツに七分だけの少しだぼっとしたズボンをはいていると言う至って普通の格好だ。だが、靴は履いておらず、微妙に見える脚には美しい水色の鱗が生えていた。

大して時間もたたないうちに、脚に生えていた鱗は消えてしまって、普通の人間の脚が残った。


「床が……。また修繕費がかさむ」

「いっっっってぇ…………」


上から落ちてきた少年は足がしびれてしまったらしく、涙目になってしまっている。


「痛がるなら、そんなことしなければいいだろうに……。にしても、盗み見なんてしないで、普通にいればいいだろうに。文句言う奴は誰もいないだろう」

「だとしても、知らん奴の前に顔を出す気はないよ。俺、お前と違って無駄死にするつもりは欠片もないから。団長のためってなら、別にいいけどな」

「……そのあいつへの妄信はどうにかならんのか?」

「どうにもならないよ。……というか、どうしようもないよね」

「そうか」


がっくりとリテラエが肩を落としているうちにリテラエの前の椅子にウルヴァーンは座って、テーブルの上に散らばっている書類を整理し始めている。

その仕草は手馴れたもので、普段から手伝っていることが容易く窺い知れた。


「俺がこっちの方のギルド内の書類を片付ける。外向けのやつは俺の仕事の範囲外だからな。そっちは任せる」

「十二分に仕事が減って助かるが、それでも微々たるものなんだな。これが」

「知ってるよ。だから、そっちが終わるまではギルドの仕事は俺が変わってやるよ」

「……良いのか? マジで吐くぐらいあるぞ?」


リテラエの声には冗談を言っているような色は欠片もない。

実際に、リテラエはストレスによって幾度か吐いている。

だが、ウルヴァーンのほうはそんなリテラエの脅しのような言葉を気にした様子もなく、テーブルの上の書類を整理して、足りない部分を補ったり、新しく何事かを書き込んだりしている。


「お前こそ、俺を舐めんなよ? お前はギルドのことを一手にやってて大変なんだろうがな、こっちは二十何人分の生活を管理してんだよ」

「……それもそうか。なら、遠慮せずに頼むわ」

「おう。任せとけ」


こんなに頼りになるって言うのに、自分より七つも違うのかと思うと、本当にこいつらは大人になるのが早すぎだなとしみじみ思う。

そうならざるを得なかった環境に同情がないでもない。

だが、ウルヴァーンは今の生活に満足しているようだ。ならば、わざわざリテラエが口を出すようなことは何もない。


「さて、と。とりあえず、牽制と周囲への偽情報の流布から始めますか。面倒事はさっさと片付けるに限る」


さっき考えていた思考を放棄し、新しい必要なことに思考を巡らせる。

何かの片手間に考えられるような緩いことでもない。

無茶振りをセルフでしてくれたグローリアに対しての恨み言が山のように思い浮かぶが、その恨み言を諦念と共に飲み下して、リテラエは思考の海に沈んで行った。


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