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Lord to Gloria  作者: 頭 垂
第一章 すべての始まり
15/49

状況開始

「それで……どうだった?」

「魔獣が六百中盤ぐらいこの街を囲んでる。自警団のカスどもはもう役に立つこともねぇからな。中央の広場に住人を避難させてる」

「それが妥当だろうな。さすがに、戦闘地域にいる非戦闘員を護りながら守れるような奴はうちにはいないしな」


そう言いつつリテラエは肩を竦める。

リテラエもグローリアと同じ考えだったらしい。

急にリテラエが顔を引き締める。

さっきまでの日常を生きる顔ではなく、《セレーノ》というギルドの副団長にふさわしい顔になった。

その顔でグローリアに問いかける。


「どうするんだ? お前の指示に従うぜ?」

「今回は受けてやろうじゃないか。あの馬鹿どもは、できる範囲での報酬を約束した。良心の痛まない範囲でぶんどってやろう」

「ロアに良心なんてあったのか……?」

「お前らの、良心だ。テメェは理があるならそんなものは……それこそ外にいる犬にでも喰わせるさ」

「それでこそ我らが団長、『始まりの愚者エイプリルフール』だ」


他のメンバーも、リテラエと同じ意見のようで、頷いている。


「それに、理由はそれだけでもない」

「ほう……。その理由とは?」

「ガキはいっぱいいるからな。ガキと遊ばせるためのペットが欲しかったところだ」

「……それでこそ、我らが団長だよ」


さっきとほぼ同じ発言のはずなのに、さっきとは違って一気に脱力したような口調でリテラエが言う。

リテラエの頭の中では、魔獣をペットにした時のこの町の住民の反応と、魔獣の餌代のことでいっぱいだった。


「……うし!」


後のことは後で考えればいいのだ。

そう考えて、頬を張ったリテラエはさっきの思考を放棄する。

グローリアがこの依頼を受けると決めたのだ。ならば、この依頼をしっかりとこなすと言うのがグローリアの願いと言うことにもなるのだろう。

団長の願いをかなえるのは副団長の、引いてはこのギルドに所属しているすべての人間の責務。

なら、それにだけ意識を集中させればいいだろう。

リテラエは足りない頭をフル回転させて、どうすれば魔獣たちを殲滅しつつ、こちらの被害を軽くすることができるのか。

それだけを考えている。

はっきりと言ってしまうと、街の住人のことはリテラエの勘定には入っていない。

リテラエもこういうところは実に《セレーノ》らしい。

究極的なところ、自分たち《セレーノ》所属以外の人間はどうなろうと知ったことではない。

そんな発想がリテラエにもあるのだ。

普段は必要であるからまともに接しているだけで、別段興味はない。


「作戦できたか?」

「……一応は、な。期待はするなよ」


月夜から詳細な敵の情報を聞きつつ、リテラエが立てた作戦はこうだ。

敵は未だ一ヶ所に集中しているので、その利を最大限に利用する。

敵の近くまで、リテラエとプリスを護りつつ、向かう。

そして、敵全体を効果範囲に指定して、プリスが『異剣裁判』を起動する。

『異剣裁判』によって、リテラエと敵の雑魚全体をプリスが異空間に閉じ込める。

こちらでは、たった一匹残された敵魔獣のリーダーをグローリアがうち滅ぼす。

こんな作戦。

シンプルと雑をはき違えたかのような穴だらけの作戦だ。

だが、そんな作戦のほうがテメェたちらしくていいな。そう思ったグローリアは笑った。


「その作戦で行く。それでは各員、状況かい……」

「旦那様」


グローリアの言葉に重ねるようにして月夜が口を開く。

月夜は基本的に絶対にそんなことはしない。ならば、何かそうせざるを得ないような状況があったのであろう。

そう考えた、グローリアは月夜に言葉の続きを促す。


「はい。敵集団、四つのグループに分かれて散開。リーダーを含む母集団三百は未だ南門前に残っています。ですが、残りは分かれて移動を開始。狙いは、東、西、北門ではないかと推測されます」

「ま、そんなもんか。リテラエなんてな」

「その発言は酷くねぇか!? 俺だって、少ない情報で考えたんだよ!」


リテラエの作戦が成功していれば人的被害も物的被害も確実に零に抑えることが可能だっただろう。

まぁ、作戦が脆くも崩れ去った今となっては笑い話にもならないが。


「馬鹿だな。リテラエは」

「察せていたことではあった」

「お前らまで、俺に追撃を掛けるんじゃねぇよ! 泣くぞ!?」

「泣けよ」

「泣け」

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


ウルヴァーンとセキルの心温まる慰めの言葉によって、リテラエの目からは溢れ出て止まらなくなった涙が零れ落ちる。

その様を見たグローリアたちは笑う。

だが、たった一人だけ笑えていない人間もいた。

ユニコだ。

ユニコには何故笑っているのかが疑問で仕方がなかった。

リテラエが立案した作戦は実行するまでもなく、失敗が確定してしまっている。

それに、今こうしている間にも魔獣たちは動きだしている。

こうやって 笑っている暇など欠片もないはずなのだ。ユニコの予想では、ここで全員が焦っていなければいけないはずなのだ。

なのに、皆笑っている。

そのことが全く理解できなかった。


「ねぇ」

「ん? 何だ?」


たまらなくなったユニコは手近にいたウルヴァーンに問いかける。

何故に、あなたたちはそんなに笑っていられるのか、と。

それに、笑いながらウルヴァーンは答える。


「何でかは知らんがな? リテラエが考える作戦は毎回まったく無駄になる。完膚なきまでに。再利用の方法がないほどに。だが、それでも何とかなってきたから俺たちは今ここにいる。なら、今回も何とかなんだろ。偉大で強大な団長様がいるしな」


ウルヴァーンの説明でも納得できずに首をひねっていると、乾いた音がギルドホール内にこだまする。

その音と共に、さっきまで笑っていた人間も一斉にピタリと笑うのを止める。

泣いていたリテラエも真剣な表情にいなっている。

場にはさっきまでのコントじみた空気ではなく、戦場に赴く前の緊張した空気が流れていた。


「それでは、いつも通りリテラエの茶番も終わった」

「まじめに考えていたんだけどな……」

「なら、今からテメェが適当に考えた作戦を告げる。心して聞け」


全員が集中し、グローリアの言葉の一言一句を聞き逃さないようにとする。


「月夜の予想では、敵は東西北の三か所の入り口から入ってこようとしている。その考えに引っ張られるのも馬鹿らしいが、基本はそうなんだと考えろ。なので、その水際で抑え込む。一ヶ所に付き、百に届かない程度。撃ち漏らしなく殲滅しろ。北はセキルヘキル」

「了解」

「わ、わかりました」

「西はウルヴァーン」

「俺一人かよ」


愚痴のようなものをウルヴァーンは零す。

それに対して、グローリアは首をかしげながら問う。


「嫌か?」

「そんなわけないだろ。ぜってぇに期待には応えてやるよ」

「それは頼もしい。東は……期待していないがリテラエ」

「期待しろよ! クッソ! ぜってぇに一匹も通さねぇからな! ロアに吠え面かかせてやる!」

「はいはい。母集団のいる南はテメェと月夜で行く。……死地になるかもしれんが、良いか?」


月夜にグローリアが問いかける。

ユニコが今まで見た中では、グローリアは月夜を特別扱いしているような気がする。

問いかけられた月夜は満面の笑みと共に答える。


「問題ないです。旦那様が護ってくれるのでしょうから。それに……よしんば死んだとしても、旦那様の横で死ねるのなら、本望と言うものです」

「わかった」


そこで、グローリアはプリスに視線を向ける。

プリスはまだ寝ぼけているようで、目の焦点が定まっていない。


「プリス。お前は中央広場に行ってくれ」

「え~? 何でさ。ボクはもう少し寝ていたい。それに、ボクに戦闘能力はないよ?」

「知っている。最悪、打ち漏らしが広場に行くかもしれんからな。そうなった場合は、お前の『異剣裁判』で住人を避難させろ。そのぐらいならできるな」

「……できるけどぉ。ご褒美が欲しい」

「一人も傷つけることが無かったら、テメェにできる範囲でやる。考えとけ」

「それなら……良いよ」

「頼んだぞ。……何か異論のあるやつはいないか?」


グローリアが周囲を見回すが、誰も異論があるようには見えない。

やる気があるのかないのか、表情にはふざけた様子は欠片も見られない。

そのことに安心したグローリアは、リテラエたちの緊張をほぐすために言葉を選んで、発する。


「終わったら、街をあげての大宴会だ。……それどころじゃない可能性もなくはないが、そうなったらうちの倉庫のもの全部出して宴会するぞ。宴会できねぇ様な体にはなるなよ?」


苦笑が漏れる。

これなら、緊張のせいで楽に勝てる相手から無駄な手傷を負うこともあるまい。


「なら、行くか。働け、馬鹿ども」


ふざけてはいたが、全員今の状況がそれなりに切羽詰まったものだと言うことも十二分に認識できている。

そのためか、開始の合図とともに四人は弾かれたように駆け出して行った。

プリスはのんびりと眠そうに眼をこすりながら歩いて出て行った。

そんな四人と比べれば、グローリアたちなどのんびりとしたものである。

端からグローリア自身に緊張感なんてものはあってないようなものだったが、敵の本体が動き出したという話も月夜は言わない。

そのことがグローリアの緊張感のなさに拍車をかけていた。

それでも状況を開始したからには移動しなくては駄目かと思っているグローリアの耳に小さなつぶやきが聞こえてきた。


「……することない」


そうつぶやいたのはユニコだ。

よくよく考えてみると、ユニコには仕事を割り振っていないことを思い出した。

割り振りたくなくて割り振らなかったのではなく、割り振りたくても割り振れなかった。

グローリアはともかくとして、《セレーノ》のほとんどの人間は、まだユニコのことを信用できてはいないだろう。

そんなユニコに仕事を与えれば反感情が生まれる可能性があった。

だからこそ、あの場では仕事を任せることが出来なかった。いなくなった今となっては仕事を与えることができる。

……なんて、複雑な考えがグローリアにあったはずもない。

純粋に、今までユニコがいなかったから、ユニコの存在を失念していたと言うだけだ。


「仕事が欲しいのか?」

「そう言うわけでもないけど……みんなが働いているのに、私だけ何もしてないって言うのは……ちょっと疎外感ってだけ」


良い傾向だ。

グローリアはそう考える。

ユニコのように入ってばかりのものは、まだ仲間とも思えないようなもののために命を張るような仕事を行うことはできない。

ユニコの今の立場から言うと、仕事が回ってこないことを安堵するのが普通なのだ。

なのに、ユニコは仕事を与えられないことに疎外感を感じると言った。

それは、意識的にしろ無意識的にしろ、自らを《セレーノ》の一員だと思っているということ。

そのことがほんの少しだけ嬉しかったのだ。

だから、仕事を任せることにする。

他の誰よりも重要な仕事を。


「やることがないってんなら、テメェたちが帰ってくるまでの間、ここを護ってくれ」

「ここって……ここ?」


ユニコが自分の足元を指さす。

それに対し、グローリアは頷く。


「そうだ。ここが魔獣どもに潰されちまったら、テメェたちは帰ってくる場所がなくなっちまう。だから、お前にここを護ってもらえると、テメェは安心して戦える」


そのグローリアの言葉を聞いたユニコは少し驚いたような顔をした。

すぐに、表情を改める。次に作った表情は満面の笑みだった。


「わかった。なら、ここは私が護ってあげるわ!」

「ありがたい。なら、テメェたちは行くか。月夜」

「はい。かしこまりました」


グローリアは後ろ手に手を振りつつ、ギルドホールから歩いて出ていく。

その姿を見たユニコは、任されたということにうれしさを感じながら、ギルドホールの外に出た。

家族の居場所を守るために。家族の『お願い』をかなえてやるために。


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