表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lord to Gloria  作者: 頭 垂
第一章 すべての始まり
14/49

危機の知らせ

グローリアたち一行がギルドホールに戻ってくると、そこには確かに見慣れない男がいた。

テーブルに座っているリテラエの前にいる男は、座ることもせずに、落ち着かない様子でクルクルと一定の場所を周回している。

グローリアの存在を確認した男は表情を明るくする。


「お、おい! や、やっと来てくれたのか!」


男の声にはわかりやすく歓喜がある。

そんな男の存在を完全に無視し、グローリアはリテラエに話しかける。


「状況は? 嫌な予感がしているから、良いものじゃないってことぐらいは予想ができている」

「それだけできてんなら十分だ。こいつから話を聞いてくれ」

「……なら、話を聞かせてもらおうか」


邪魔になっているプリスをウルヴァーンに預けると、肩をグルグルと回しながら、グローリアは話を聞かれるのを待っていた男に視線と意識を向ける。


「ヤバいんだ! あれは……マジでヤバい。あんなのがいつの間に現れたのかは見当がつかないが……あんなのを相手にできんのはお前ら《セレーノ》ぐらいだろう!? だから、俺たちを、この街を護ってくれよ! 報酬は払うからよぉ!」


男は明らかに錯乱していて、その言葉から目新しい情報を回収することは難しい。

チラリとリテラエのほうを見ると、リテラエは肩を竦めて首をゆるゆると振っている。

一応、リテラエも情報の回収の努力はしたようだが、どうにもならなかったと言っているようだ。

報酬を払うと言われても、気が乗らなければ依頼は受けない。

それが《セレーノ》の……いや、今の言葉には語弊があった。

それがグローリアの基本理念だ。

だが、極稀にその理念を押しつぶさなくてはいけないようなヤバい依頼が舞い込んでくるときがある。今回はその可能性が高い。

ならば、受けると言うことを念頭に置いたうえで、情報を集めるのが最適解だ。


「もっとわかりやすく話せ。そんな不確かな情報では受けるも受けないも決められるものではない」

「なら、一緒に来てくれ! 見てくれりゃ、解るから! わかっちまうから!」


今度は視線を月夜に向ける。

月夜はこくんと頭を縦に一度だけ振る。

と言うことは、この男は少なくともブラフとして焦っているわけではないのだろうな。

瞳孔の動きや、外からでも肉体の状態を確認することで相手の頭の中を探れる月夜以上にこの場でそう言うのが得意な人間はいない。ならば、信じるしかないのだろう。


「案内しろ」

「わかった! ついてきてくれ!」


グローリアの言葉を聞いて、男は即座に走り出す。

その姿は逃げ出すようでもあったし、早く現状を知る者を増やしたいと言うものにも感じられた。


「月夜と……そうだな。セキル、ついてこい」

「了解しました、旦那様」

「わかった」

「リテラエは、どうあってもいいように、準備だけは万全にしておけ」

「……りょーかい。あんま、面倒事でないと良いのだがな」

「無理だろ」

「…………だよな。知ってた」


男は背後の確認もせずに、走って行ってしまっているので、随分と距離は離れてしまっている。

この程度の距離で、男のスピードも考慮に入れて計算するに、実戦闘要員であるグローリアとセキルならば容易く追いつける。

だが、情報収集や索敵がメインの月夜には辛いことだろう。


「捕まってろよ」

「え?」


月夜の返事も聞かずに、グローリアはさっきプリスにしていたように月夜を横抱きにする。

多少走りづらいが、男を見失う可能性は減らすことができる。

しょうがないことなのだと妥協することとした。

腕の中の月夜は顔を真っ赤にしながら、尻尾をピンと立てている。そんな月夜の変化にグローリアは気づいていない。

グローリアとセキルの二人は地面を蹴り、地上を疾駆する。

瞬く間に先に行っていた男に追いすがり、その横を並走する。

男はもうすでに辛そうに息を荒げていたが、セキルも月夜を抱いているグローリアも余裕の表情だ。息を荒げるどころが、表情は平時と何ら変わっていない。

そのまま少し走ると、街の外円部の南側に到着した。

この街は小規模ではあるが、魔獣などの襲撃に備えて周囲を三メートル前後の石でできた壁で囲っている。

大型の魔獣が来ても、気休め程度にはなるだろう。その程度の石壁だ。

その上に上がって、周囲の状況を確認する。


「これは……」

「壮観」


月夜とセキルは思わずと言った様子で言葉を漏らしている。

声を出すことこそしなかったが、グローリアも多少は驚いている。

街を囲む壁から、大体二百メートルほどの距離を置いて、随分な数の魔獣が並んでいる。

鋭い牙をもっているもの。

文字通りの気炎を口から吹き上げているもの。

皮も肉も存在せず、骨だけのもの。

見た目には統一性は一点を除いて全くない。その一点の統一性と言うのは、魔獣たちは全てが犬のような姿をしているというところだけだった。


「随分といるな。いつ現れたんだ?」

「わからない」


わからない?

その言葉を聞いたグローリアは軽く眉間に皺を寄せる。

そんな表情を見た男は慌てて、弁解をする。


「ち、違う! 俺たちが見張りをさぼっていたということはない! 定時の連絡だってしっかりとしていた! 奴らは唐突に現れたんだ! 何の前触れもなく!」


いちいち語尾に感嘆符をつけているせいで、声が大きくてグローリアを不機嫌にさせる。

だが、大体の状況は理解することが出来た。

この街にも小規模ではあるが、外に対する自衛組織と言うものは存在する。

夜盗が出てきたら追い払うことができる程度の練度ではあるが、一応存在する。

その自衛組織は、東西南北の門に常に二人ずつ駐留して周囲の警戒に当たっている。

そこまで常時気を張っているわけにもいかないだろうし、ここ最近は夜盗や盗賊が襲ってくることもなかった。そのせいでの気の緩みもなくはなかったのだろう。

それでも、グローリアの眼前に広がる数の魔獣が展開するのに気づけないほどに間抜けでもあるまい。……間抜けだと言う可能性も否定できるものではないのだが。

そこまでではないと信じたい。

唐突に敵は現れた。

だが、敵に対する対抗手段など自衛組織に臨むべくもない。

所詮、グローリアたち《セレーノ》から見たらお遊びのような集団だ。

たまにリテラエが調練に参加しているようだが、それでもあの数の魔獣と遣り合えるほどの実力者はいないだろう。

精々、五人がかりで一匹殺せるか殺せないか。悪ければ十人でも一匹狩れないかもしれない。その程度の実力。

それならば、数がいれば魔獣を押し切れるのではないか?

残念ながら、あの魔獣の数は自衛組織よりも多いように思える。

それも圧倒的に。二倍前後はいるのではないだろうか?

それではさっきの作戦は机上の空論にすらなりえない。実力差だけでなく、頭数すら足りていないと言うのなら、あっさりと磨り潰されて終わりだろう。

それが自らでも理解できたからこそ、《セレーノ》に来たのだろう。

《セレーノ》であれば何とかするとでも思ったのだろうな。


「……酷い買い被りだな」

「報酬は、いくらでも……とは言えないが、お前が望むだけのものを用意すると約束する! お前好みの奴隷を数体探してきてもいい!」


報酬が満足いくもので、グローリアの気分が乗ったのなら、《セレーノ》はどんな依頼でも受ける。

特に、この依頼を受けると宣言しているわけでもない。

強いて言うなら、討伐などの何も考えなくて済む依頼をグローリア個人としては気に入っている。

そう言う意味で行くのなら、この依頼はひきうけても問題はないのだろう。

とりあえず、ギルドホールに戻る前に情報収集でもしておくか。


「月夜」

「承知いたしました」


月夜は、左目を閉じ、そのまぶたの上から手をかぶせ、左目に入る光を遮断する。

そして、右目だけで魔獣の群れを観察しだす。

瞳孔は忙しなく動いており、すごい勢いで魔獣たちの情報を収集しているのだろう。

そのまま、一分ほどして、月夜は目を閉じる。

右目はたった一分の使用だったのだが、疲れてしまっているらしく、緩く閉じられている。

左目だけを開けた月夜はグローリアに報告する。


「敵の数は、六百と六十六。すべて、犬系の魔獣です。犬系の魔獣と言っても、鉱物種から不死種まで幅広く集まっているようで、全体に効果的な攻撃などはないように思えます。戦意は上々。今すぐにでも、攻め込んできそうです」

「それはテメェの聞きたい情報ではない。……この間、見たような指揮者はいるのか?」


この間見たというのは、ユニコの町を異人種たちに襲わせたような知恵を持つ魔獣のことだ。

あのタイプの賢しい魔獣がいるのならば、面倒だろう。

最悪、《セレーノ》が全力で相対しても、この街が潰される可能性だって出てきてしまうほどだ。

グローリアの心配を理解した月夜は首を横に振る。


「あの群れのリーダーであろう個体の存在は確認いたしましたが、そのような細かい指示をしているようには見えませんでした。……こう言っては言葉は悪いかと思いますが、多少知恵のある畜生と言ったところでしょう。指揮しているというよりは、圧倒的な力を持っていて、それで周囲を支配しているようです」

「そうか。なら、問題ないか」


たった一つの心配事がないのなら、もう悩む必要もないか。

グローリアが受けるかどうかを心配そうな眼差しで見ている男に対して、グローリアは《セレーノ》の、一ギルドの団長にふさわしい威厳を以て告げる。


「テメェたち、《セレーノ》がこの依頼を受領する。多少の協力は要請するが、良いか?」

「あ……ああ! 問題ない!」

「わかった。受けたからには、人的被害は零に抑えたい。物的被害も零に抑えたいところだが……テメェたち《セレーノ》にそこまで丁寧な戦闘をできるやつも少ない。そのあたりは、先に行っておく」

「……それは仕方がないことだろう。そこまで期待すると言うのは酷と言うものだろう」

「とりあえず、住民を中央の広場に集めておけ。そこだけは、テメェたちが意地でも守ってやるよ」

「助かる。それでは、俺はその指示を実行するために行かせてもらう」


男が走って自衛組織の詰所のような場所に向かっている。

そこから全体に情報を伝達するのだろう。

これで、人が二次被害でくたばる可能性は低くなることだろう。

なら、後はグローリアたちが敵を水際で全部叩き潰せばいい話だ。それに関して言うのなら、大して悩むこともないし、問題もない。


「……セキル」

「何」

「お前とヘキルでどれぐらい潰せる?」

「百。それ以上は抜けられる」

「わかった。月夜」

「はい。何でしょうか、旦那様」

「その群れのリーダーらしき奴と、その周辺辺りを広角的にターゲティングしておけ。何か、動きがあったのなら、すぐに教えろ」

「かしこまりました」


グローリアの言葉に、月夜は深々と頭を下げることで応える。


「さて、さっさと帰ってリテラエに伝えるとするか」


行きと違って、三人の帰りの足取りは穏やかなものだ。

敵が今々攻め込んでくるものでもないと高をくくっているからだろう。

高をくくっていると言っても、何の推論もなくではない。

普通、魔獣の知能は人間と比べると低い。あの犬型の魔獣どもを例に挙げて説明するのならば、目の前に餌が転がっていれば待ては絶対にできない程度の知能だ。

その魔獣たちが餌である人間の町を眼前にして、動こうとはしない。

何かを待っているかのように。

ならば、その何かが来るまでは安全と言うことだ。

いつ、その何かが来るかはわからないので警戒は厳にしなければいけないのだろうが。

そんなことを考えている間に、《セレーノ》のギルドホールにつく。

ギルドホールの中にいるのは、リテラエ、プリス、ヘキル、ウルヴァーン。それと、戻ってきたのであろうユニコの五人だ。

《セレーノ》にいる戦闘系はこのぐらいだろう。

純戦闘系ギルドではない《セレーノ》はこんなものだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ