~3~
昼休みのチャイムが鳴った途端、教室の半数ほどが食堂へ向かう。この学校の食堂はメニューが豊富で、生徒と職員共に人気だった。
で、僕は隣の席に椅子を持っていく。
「木田、たべよーぜ」
「お、来たな天音」
木田誠一。僕の右の席で、僕がこのクラスで一番最初に仲良くなったやつだ。
「ちょ、木田、お前また寝癖付いてんじゃん。てかさっきのLHRで寝てたろ」
「え~だって、LHRとか係決めたら終わりじゃん。それに眠かったんだよ俺。昼近かったら眠くなるだろ?」
「・・・そーか?」
普通は午後が眠たいんじゃないか?
僕たちだけならず、教室全体がワイワイしている。あちこちグループで固まって、弁当を食べている。そして、外は桜。これ以上、極楽という言葉がふさわしい状況は果たしてあるのだろうか?
桜といえば。僕は空を仰ぐ。
入学式の自己紹介の時に、桜の幹に座っていた、陰陽師の少女。明らかに、僕に向かって笑いかけていた。ものすごく可愛かったけれど、とても謎だった。あんな子、僕は知らない。
「天音~?」
木田の声に、僕ははっとする。
「ご、ごめん。ぼ~っとしてた」
「あはは、どーしたよ」
そんな風にして、今日も過ぎていく。
昼休みとは、思ったよりも長いもので、僕たちが食べ終わってもまだ二十分以上あった。
「ちょっと僕、散歩してくる」
そのとき、僕は何気なくそう言った。
「おう、いってら~」
木田に手を振って、僕は教室を出る。廊下を歩きながら、どこに行こうかと考えた。
やっぱりこの季節は桜かな?
上履きから制靴に履き替えて、そっと校舎から出る。
あちこちに落ちているピンクの花びらを踏まないようにして、僕は中庭へ入った。
「うわ・・・!」
教室で見るのと、実際にそばによってまで見るのとでは、やはり埋めがたい差が生じる。
まるで、天使が降ってくるような光景だ。膨大な数の花びらが、僕に微笑みかけてくる。
「やっぱり、綺麗だなあ・・・」
そこで、その声は聞こえた。
「ほぅ、そなたは桜が好きか?」
とても澄み渡った、幼い声。
僕は、すぐさま振り返ってしまう。
「あっ」
僕は、思わず声を上げる。
あのときの、少女。陰陽師が、そこに立っている。
あのときと、同じ笑顔を浮かべてーーーー
「どうした? 桜が好きなのか、と問うておる」
その容姿や声には見合わぬ口調で、少女は続ける。
微笑みを浮かべた顔を、こくっと傾けて。
「好きーーです」
その麗しさに、僕は無意識に敬語を使っていた。
僕の答えに、少女は「そうか」と頷き、
「それは嬉しいのぅ」
桜でも泣いて逃げ出すような、笑顔。
ああ。本当に。
なんて、可愛いんだろうーーーー
「あ、ところでお前様」
「え? な、なにーー」
「何か、勘違いをしておるのではないか? そんな赤い顔をして」
へ? 赤い? 勘違いーーーー?
「あのな、お前様」
「わしは、男じゃぞ?」