表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

~2~

 それは、始業式でのことだった。

「えー、私は皆さんの担任を務めさせていただきます、蜜野撫子みつのなでこです、よろしく~」

 教卓に立って、笑顔で僕たちに挨拶するは、本人も言っている通り、僕らの担任だ。

 肩までのカールした髪に、にこやかな笑みに、どことなくふんわりとした雰囲気に、僕たちはみな安心していた。

 僕たちの教室は、一階の職員室のすぐ近くで、大きな窓の向こうには、何本もの桜が立っている。みんながみんな、花を咲かせ、僕たちに笑いかけている。

「では、皆さんに自己紹介をしてもらいましょう」

 蜜野先生はそういって、一番前の席の生徒を指名した。

「では、宮川さん」

 宮川と呼ばれた生徒は、「はいっ」と明るい返事をして、席を立った。

 僕の席は前から三番目の窓際で、つまり僕からは彼女の後ろ姿しか見えないんだけど―――

 きっちりと着こなした制服に、鮮やかな金色がかかっている。二つに結ばれる金髪は、腰のあたりまで続いている。それを結ぶのは、真紅のリボン。

 僕がそこまで認識したところで、彼女は後ろ(つまり僕たち)を振り返って―――

「はじめまして、私の名前は、宮川さくら(みやかわさくら)です。三月までアメリカに住んでいて、四月に引っ越してきました!」

 途端にクラスがざわめいた。「え、アメリカ!?」「ハーフなの?」「てか超かわいくない?」「髪の毛ながいなぁ・・・」

 いやぁ、僕も驚いた。そして、あんなに鮮やかな金髪で、しかも一番前に座っているのに、さっきまでずっと気がつかなかった、自分の鈍感さにもびっくりした。

「父は日本人で、母はアメリカ人です。この金髪は母譲りで、私はとても気に入っています。趣味は音楽を聞くことで、洋楽が一番好きです。あと、かわいいものを集めるのも好きです。これから、よろしくお願いします!」

 そこまで話すと、宮川さんは一度ペコっと頭を下げ、そして、桜に負けないくらいの満面の笑みを見せた。

「きゃ~~~かわいい!!」

「なんだよあの子、超美人じゃん!」

「やばいやばい、芸能人みたい!!」

 クラスが一気に沸騰し、さっきよりもざわついた。

 うむ、ま、かわいいよな、確かに。

「はいはい皆さんお静かに~。宮川さん、ありがとう。では次―――」

 そんな調子で、自己紹介は続いていった。みんなの笑い声など、平和な空気に、僕は思わず笑みを浮かべ、何気なく外を見ると―――


 そこには、ありえないものがいた。


 窓に二番目に近い桜の太い枝に腰かけているそれは、何もせず、そう、何一つせず、ただ僕に笑いかけていた。

 少女、らしい。

 地面に立ったら床に余裕で付くような青い髪が、腰かける枝に絡みついている。服は全体的に白く、陰陽師を思わせる。ゆったりと頬杖をついて、僕を見つめ、にこやかに笑っている。

 はっきりいって、すごくかわいい。

 そして、あまりにも小柄だった。

 なぜ、あんなところに少女が・・・

「―――では次、天音くん」

 僕を呼ぶ蜜野先生の声に僕ははっとして、慌てて席を立ちあがった。

「え・・・と。天音慎一郎あまねしんいちろうです。得意教科は数学と英語です。遊ぶことが好きです。これからどうぞよろしく」

 それなりに上手く話し、それなりの評価を貰って、僕はもう一度、窓の外を見たけれど―――

 そこには、桜だけで、少女の姿など、跡形も無かったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ