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~1~

~1~


「じゃあ、行ってくるよ」

 戸口でそう言った僕に、「ふぁーい」と眠たげな声がする。

「おにーたん、いってらっしゃ~い」

「なんだ、起きてたのか。お前も早く幼稚園行けよ」

 ぱたんと戸を閉めて、門を開け、通学路へ足を踏み出した。

 始業式から三日目。まだ授業は本格的には始まっておらず、穏やかな時期だ。中間のことなど頭の片隅にもない僕は、学校では近くの席の子と話し、家では母親や妹とともに、父親の帰りを待つといった様子だ。周りを見ると、どうやら僕は例外ではないようで、男子生徒はあちこちを駆け回り、女子生徒は黄色い声でおしゃべりをしている。寄り添って歩く男女もいる。

 彼らの頭の上には、新しい学年を迎えた俺たちに微笑みかけるように、花びらを舞い落とす、桜、桜、桜。

ここの桜並木には名前が付いていて、『桜女神』というそうだ。ひょっとしたら、本当に僕たちを祝福してくれているのかもしれないが。

 そんなこんな考えつつ、ようやく僕も桜並木に足を踏み入れた。

 上も下もピンク色で、軽くめまいがしそうだ。だが、こんな僕の視界にさえ、小さなピンク色が、はっきりと飛び込んでくる。

 ひらひら、ひらひら。

 ふと鞄を見ると、一枚の花びらがちょこんと腰かけていた。かわいらしいものだ、と思った矢先、僕は目を見張った。

「・・・え?」

 その時、ザザァッと木々が揺れた。あちこちからきゃあきゃあと喚き声がする。彼らの声を聞いている余裕は、僕にはなかった。

 いや、嘘だろ?

 あわてて目をこする。

 もう一度、花びらを見る。

 途端、安堵の息が漏れた。

「・・・なんだ」

 よかった、ただの花びらだ。

 気が付いたら風もおさまって、生徒たちもまた、元通りに歩き出していた。

 俺も、また歩き出す。

 ただの見間違いだよな――――――

 ――――――――桜の花びらが、完全な紫色だったなんて。

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