脳筋冒険者の引退生活 ~死霊っ子とはーろうぃん~
手に取っていただきましてありがとうございます。
これはただの思い付きの駄文でありますので時間を無駄にされたくない方は回れ右で……
とある世界のとある国の片隅で俺様Tueeeを成し遂げた異世界人脳筋がいました。仲間達と冒険者としてランクを上げ貴族様や王様の目に留まって取り立てられそうになったのを断ってみたり色んな旗を立ててみたりして(お子様ランチ的な意味合いじゃないですよ)この世界を楽しみつくしていました。
そんな彼も同じ異世界人仲間が一人抜け二人抜け、最後に彼一人になった所で子供が出来てしまったため年貢を納め時とばかりにそこそこ栄えている街の片隅で一家を構えるのでした。冒険者なんて物は住所不定無職、ドカンと稼げるものはそんなにいません、町の自衛団の訓練代わりとか仕事に溢れた若者の一時金策手段、放浪癖や戦闘狂等の社会不適合者が殆どで犯罪者予備軍に紐をつけて………げふんげふん。
抜けて行った異世界人仲間も仕官したり店を持ったりと堅気の職業についていただけなのです。最後の異世界人は脳筋で戦う以外に稼ぐ技能がなかったのが最後まで冒険者をやっていた理由なのですが子供が出来たとあれば腰を落ち着けて安定した稼ぎをと腹の膨れた奥さんに説得(物理・言語双方)されるのであります。
かつての仲間たちもやいのやいのと囃し立ててこの脳筋の戦闘狂に相応しい仕事は何かなと職探しに助力したりして、引退とまではいかないけど当てもなく彷徨うみたいな事は出来なくなったのであります。
彼の脳筋振りに嘗て口説いていた王様は
「うん、強いだけで使い道がな……げふんげふん、難しい………側近達よ、彼に相応しい職業とかあるか?」
「彼の仲間達は分野は違えど見事な技を修めていますから其々の技にあった場所を用意すればよいのですけど戦うしか能がないのって………王様の護衛(礼法・紋章学必須)、軍の隊長(戦術・組織学必須)は無理でしょうし兵士として使うには勿体なすぎますね。闘技場で戦わせるのも悪くはないでしょうが強すぎて賭けの対象にならなくて経営的に……げふんげふん。間違っても文官とかに向いているとは言えませんね。」
「『自由にやっていきたい。』と士官を断ったのはわが国の財政にとっても良い事です。彼を雇うのは簡単ですが費用対効果的に………しかし、アヤツも女に捕まるとは……ぷー、くすくす。」
「これ、祐筆(文章担当)悪い笑みが出て居るぞ。とは言え、かつて魔物の氾濫を退けた戦士殿には何かしてやりたいものだ。」
「恐れながら陛下、こちらで今後必要になりそうなものを王国名義で贈っておきました。」
「何を贈った?」
「はい、おしめでございます。子供が出来たとなればこれは必需品でありましょう、いくらあっても多すぎる事はないはずです。勿論同封した文には『まさか当ててしまったなんて、ねぇ、どんなきもち?どんなきもち?』と認めておきました。」
「おいっ!何私怨溢れた文を認めているんだ祐筆!おいっ!誰かこの祐筆を牢にぶち込め!」
この件で一番の被害者は大量のおしめと意地の悪い手紙を運んで異世界人の機嫌を損ねて怒気をまともに浴びてしまった国軍兵士長(34歳独身)なのですが別な話なので置いておきましょう。
この話を聞いた嘗ての異世界人仲間達は酒の肴にして
「流石祐筆、俺達の出来ないことを(略」
と馬鹿騒ぎするのであります。因みに祐筆は減給一月とおむつ代の補填と言う微妙な罰を受けました。王様からは改めて贈り物と手紙が用意されるのですが怖がって誰も運びたがらなくて不幸な国軍兵士長にお鉢が回るのでした。
まぁ、そんな事がありましたがそこそこ栄えた街の自衛団の相談役と言う偉いのか偉くないのかわからない役職を得て腰を落ち着けるのです。冒険したいなと言う声は封殺されていますがそこそこ幸せな生活をしているのは誰にも否定できません。
そんな脳筋な彼でありましたが仕事ぶりの方は特に問題なく、寧ろ彼が睨み利かせているから悪い事は出来ないと野盗がいなくなってしまうのです。野盗の被害に比べれば彼に支払う金額なんて十分元が取れます。王様の方は野党の方を何とかしてほしいなと彼についての話を聞いて思ったのはどうでも良い話であります。
かつての仲間達もこの愛すべき脳筋が堅気の仕事をいつまで続けられるのかと酒の肴にしながらも喜んでおります。いくら脳筋とは言え既知を失うのは悲しいのです。
脳筋の子供は無事に生まれ、すくすくと育ちました。脳筋は脳筋だから特に決まった仕事はなく自衛団や騎士、冒険者志望の若者達相手に稽古をつけてやったり昔語りをして過ごしています。昔語りの方は子供達に人気で身分関係なく脳筋気質な男の子達が目を輝かし親達は自分の子が脳筋になってしまわないように心配したりするのは笑い話です。
ある日脳筋は墓場の見回りに同行しました。いくら穀つぶしの脳筋でもたまには仕事したと言う実績がないとお金が入ってきません。彼は強いですけどお金を持っている人の方がもっと強いのです。それ以前に奥さんに勝てません。俺様Tueeeしていようとも勝てない物は多々あります。体を動かすことが好きな脳筋はこういう仕事もたまには悪くないと考えています。墓荒らしの一つでもいれば運動不足の解消になるかなと……
「脳筋の旦那、墓荒らしがいても暴れまわるのは勘弁してくださいよ。前、盗賊団の根城を壊滅させるとか言って古い砦跡を潰したの反省してないのですか?」
「わりぃ、わりぃ。まさかあの襤褸屋が王国の建国王にまつわる史跡だったなんて知らなかったぜ。どっちにしろ管理してないのを放置している王国が悪いんだろ。」
「王様は笑ってましたけど宰相さんとか側近さんが青筋立てていたり卒倒しかけてたんですよ。何で脳筋の旦那には何も言われなくて私に言われるんですかねぇ?聞いてます?」
脳筋の連れとして同行している若者が呆れを含んだ表情で睨んでいる。
「そりゃ、兄貴が王との学園を優秀な成績と公爵子息の恨みを買っているからでしょう。」
「優秀な成績と言うのは否定しないが恨みは…………彼より成績優秀だったとか仕官の誘い乗らなかったとかちょっと魔道の実験で間違って公爵邸を破損したとかしかしてないですよ。」
「そんだけすれば十分恨みかいますって!ねぇ、旦那。」
「公爵のおっちゃんだったら笑ってくれはしないが許してはくれるはず………趣味の盆栽を………」
「あっ!樹齢百年の山楓を…………」
「うん、近寄るな。それおっちゃんがとてもとても大事にしていた逸品だろ!」
「ここに来たのは左遷?」
「ごめん、俺生まれたばかりの娘がいるからとばっちり喰らうのは…………」
見回り隊一行は若者からそそくさと離れる。とばっちりは受けたくないのである。
そんなとばっちりを受けたくないとハブにされた優等生もどきは一人(と言っても超えの届く範囲に仲間はいる)一人寂しく墓場の巡回をしている。
そんな彼の元に
「おなかすいたよー」「ひもじいよぉー」
とまとわりついてくる子供の死霊。
「うわぁぁぁぁぁぁ~~!」
優等生もどき君は腰を抜かした。
何とも美しくもない悲鳴を聞いた脳筋はその場に駆けつける、犠牲にしても大した問題ではないが見捨てるのも問題だし中途半端な状態だと後始末が大変である(主に汚物処理的な問題で)、死体も粗相も面倒くさい物である。好きな子の粗相ならば大丈夫と言う強者がいるかもしれないけど好きでもない野郎の粗相なんて誰得である。そんな手間を惜しむために脳筋は向かうのである。
脳筋達が見ると優等生もどきが子供の死霊に囲まれて気絶しかかっているのであります。やれやれと思いながら脳筋は死霊の子達を掻き分けて優等生もどき君を助け出すのである。基本まとわりついているだけなのでかきわけかきわけちぎっては投げちぎっては投げ…………
「絵面を見ると小さな子を投げ捨てている悪人だね。」
「まだ、光物を使っていないだけ良識的だと思うんだが………」
「たしか、暗黒竜相手にして剣が壊れたからこぶしで殴りつけて叩きのめしていたんだけど彼……」
「そもそも死霊を素手で相手に出来ているのはどうしてなの?」
「あれは絶技・御霊鎮め!」
「知っているのか?らいで………」
「そのネタはやばい!弔いの技を磨く葬送神の神官達や死霊と戦い続ける戦士達が編み出した技だ。肉体や武具に力をまとわせて死霊や不浄なる不死者、異界よりの来訪者を静めるのだ!まさか、この目で見ることがあろうとは………」
「あの、脳みそにも筋肉しか詰まってなさそうな彼がそんな技を………」
「どっちかというと彼は馬鹿だから死霊は殴れないということを知らないから殴れるものだと思い込んで思い込みだけでちぎっては投げをしているんだと思うぞ。」
「おいっ!」
馬鹿の一念世界を曲げる。
「ひもじいよぉ…………」
「おなかすいたよぉ…………」
「おとーちゃん、おかーちゃん…………」
泣きながらすがり付いていこうとしている死霊の子は哀れなものである。
「何だ、お前ら迷子で腹へらかして泣いているだけか、めしめし………嫁さんが持たしてくれた弁当があったか…………」
脳筋はどこからともなく弁当(10人前)を取り出すと死霊の子達に振舞う。
「俺の嫁さんの飯はうまいぞ。」
「わーい」「いただきまーす。」「おじちゃんいいひと?」「たべていいの?」
「ああ、くえくえ。」
「脳筋さん、俺らのための弁当でしょう?ひどいですよ。」
「馬鹿言っているんじゃねぇ、あれは全部俺のだ!何がお前等のために旨い嫁の飯を分けなければならないんだ?」
がつがつがつがつ…………
飢えた子供たちはよく食べるよく食べる、優しげな目をして眺める脳筋と見回りの一行。
「よくかんで食べろよ。」
「とりあえず、今日の報告書って『死霊の群れに遭遇、慰撫して無力化』とでも記せばよいのかな?」
「報告書はお前らの仕事だ」
「脳筋さん書類仕事してください!」
「俺働かなくても大丈夫なくらいの蓄えあるし、働いたらまけだと……」
「そうして奥さんのはたきではたき倒される……」
「誰が旨いことを言えと……実際自衛団の相談役につくときはそういうやり取りがあったけど………」
「側近さん、その話聞いて腹抱えて笑ってましたよ。」
「優等生(左遷)お前何見たようなことを」
「だって贈り物で悩んでいた側近さんにオムツ勧めたの私ですし。」
「オムツはありがたかったが王家の紋章入れているんじゃねぇよ!不敬罪ものだろうが!」
「王家の紋章なんて知らないですよ!王都の飲み屋のねーちゃん達の紹介文………ぼくわっ!」
「そっちか!おかげで浮気を疑われて嫁さんにしこたま殴られたんだぞ!」
「優等生君が左遷させられたのって……」
「側近さんの身代わり?オムツ発案者って、そりゃ脳筋さん英雄だし、馬鹿で酒飲みで、じっとしていられなくて奥さんの尻に敷かれていても、一応は王が自ら欲しいと言って来たのだし変な扱いすれば、うん。」
「確かに、って言うかここ左遷先か?」
「上から見たらそうでしょう。俺らには結構よい職場だけど。」
「なぁ、すごいひどい事言われた気がするんだが?」
「「事実だし。」」
馬鹿話をしている間に死霊の子達は大量の弁当を平らげる。
「おいしかったね。」「おなかいっぱい。」「おじちゃなりがとう!」
と口々に言いながら冥界に向かっていく。満たされたのか、出来れば生きているうちに幸せになっていればなどと感傷を抱く見回りの面々の前には寂れた墓地があるだけであった。
そして、一夜の不思議な体験を振り返って脳筋はかつての冒険者仲間であった神官さんに
「そういえばこんなことがあってさ、まるではーろうぃんみたいだったな。」
神官さんは
「どっちかというとお盆の施餓鬼じゃないか?」
と突っ込みで返すのであった。
「施餓鬼って何だっけ?」
「お前、西洋の祭りだけじゃなくて自国の祭りを知っとけ!」
結局脳筋は物を知らないだけであった。
お読みいただきましてありがとうございます。
ところでかぼちゃって酒のつまみになりませんねぇ………