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恋愛恐怖症候群  作者: アルタ
恋愛恐怖症候群
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4 屋上で×××

「痛いっすよ~。照れなくてもいいじゃないっすか」

「バーカ、照れてなんてねえよ!」


◇◇◇


 彼女と居ると居心地が良かった。

 話せば話すほど、迷っている自分の道がそれほど多くはないような、実はそんなに悩むほどのことでもなかったかのような気がしてくる。ついついやる気がでてくると言うか、どんなにダレていても、しゃんとしてしまう。


「三輪と居ると元気が出るなぁ」

 心の中からそう思うのだが、

「当たり前」

 笑って答える三輪にはちゃんと届いているのだろうか。


 女って感じじゃなくて、

 男って感じでもなくて、

 あえて言うなら「変わった人間」って感じで、

 こうして俺が会いに来てしまうのは……この変わった『人間』ともう一度会いたいとか、話をしたいとか思ってしまうからだろう。


 ――こういうのをなんと言うのだろう。


 そういえば、三輪はいつまで謹慎しているのかな。聞いてみようとするのだけれど、そういう時に限ってけが人が入ってきたり、保健の先生が戻ってきてしまってなかなか言い出せない。俺も2軍とはいえ部活があるから入り浸っていることも出来ず、そのまま日数だけが過ぎていった。


 部活の方は新入生を迎えて練習がスタートした。倉庫の位置から更衣室のロッカーの割り当て、ポジション決めやメニューの調整などなど、なかなか大変である。

 そういえば、この前の1軍対2軍の練習試合の時に、嵐山から感心された。

「魅上先輩の指示って見かけによらず理論的で的確っすね!」

「あったり前だろ」

 サッカーの練習は人一倍積んでいるし、ちゃんと司令塔としてみんなの動きも把握してんだよ。


 少し前の俺だったら、皮肉を言われたと邪推してひどい言葉を吐いていたかもしれない。嵐山は頭で考えるよりも先に体が動く天才タイプで、しかもその身体能力がずば抜けて高く、俺が妬むには十分な理由を持っていた。

 けれども三輪と話すことで毒を抜いている俺は、前より少し余裕が出来た。

 ほんのわずかの余裕だけれど、やな奴にはニヤリと笑って切り返すことができるようになったし(以前なら先に手が出ていた)、少しだけ優しくなったかもしれない。


 少しずつ……ではあるけれど、クラスの女子に話し掛けられても返事するくらいできるようになった。

 まだ単語だけどな。


 少しずつ、

 少しずつ、

 進歩して、進化して、それが前に進んでいるのか、後ろに進んでいるのか分からないけれど

「みかみん、最近良い顔になったじゃないの」

 三輪が誉めてくれるたびに

「俺様は昔っからこうだっての」

 つい、三輪には俺様態度で照れ隠してしまうのだけれど

「そうでした」

 本当はすごく嬉しくて、自分が変わっていくというのは妙な感じだけれど、こんな俺は嫌いじゃない。




 屋上で寝転ぶ。綺麗な青空を見上げると、すごい速さで雲が流れていった。

 いろいろ形を変える雲に、思いを重ねてしまう。


 ただ、三輪が隣にいるだけなのに、

 やる気がでたり、

 疲れがとれたり、

 人に優しくしてやるなんて気持ちが出たり、

 たまには外食でもしてみようかなんて外へ出たり、

 逆に殺風景な部屋にサボテンでも置いてみたり、

 パソコンにカバーでもかぶせてみたり、

 ……それこそほんのわずかなことだけれど、生活を楽しむようになってきた。


 三輪が隣にいるだけなのに。


「みかみん、サボテン買ったんだって?」

 フェンスに寄りかかって彼女がこちらを向いていた。

「小さい奴だけどな。パソコンの横に置いてる」

 ゆっくりと起き上がると、さりげなく彼女は俺の肩に手を置いた。

「私も前々から欲しかったレトルトゴーヤカレー買っちゃおうかな」


 レトルトゴーヤカレー? なんだそりゃ、すっげー不味そう。

「三輪、趣味悪りぃな~」

 クックックと笑うと、三輪は「そお?」とにっこり笑って、

「いってええええええええええ」

 グリグリグリグリと拳でほぐしにかかってきた。練習のチーム分け表作成などのパソコン作業のし過ぎで凝り固まっていた首にはきつい。ギブ! ギブアップ!


「今度作ってあげるから食べなさい」

「作るって……レトルトなんだから温めるだけだろ? ってか、俺は毒見か! 苦いのか? なあ、ゴーヤって苦いんだろ?」

「知らないよ、まだ食べたこと無いんだし」


「なあ」

 三輪。

「なに?」

 俺、今、一瞬、三輪の毒味役でも良いかって思った。……そんな思いは声には出せないけれど。


「これからも友達でいて欲しい」

 そばにいて欲しい。

 首もとにある手をぎゅっと握ると、三輪は複雑な顔をして、

「仕方ないなぁ」

 と、笑った。


 その笑い方がよく理解できなくて、とりあえずそのまま手を包むと、彼女はゆっくりと手を離す。そして、改めて俺達は握手したのだった。

「ゴーヤカレー、何袋買っちゃおうかな」

「有難う」


 自分でも何にお礼を言っているのか分からないし、お互いの話もかみ合っていないけれど、拒否されなかったことに、心からホッとした。

 恋愛事を持ち込むと、男と女の関係になってしまうと、必ず破局があるような気がした。

 どんなに仲が良いと言ったって、近づけば近づくほど互いの欠点や至らなさが目立つもんだ。

 段々馴れ馴れしくなって、くっつかれると俺はきっと天邪鬼だから振りほどいてしまう。

 だから三輪とは、「友達」でいたい。そうすれば、ずーーっと一緒にられるような気がするから。


◇◇◇


「あれは告白なんかじゃない。勘違いだっての!」

「ええええ! まじっすか! 嘘吐かないで下さい。屋上で2人きりで、魅上先輩が自分から手を出したと聞けば告白以外のはず」

「ねーんだよ」

 即座に否定しておかないと、コイツなら面白おかしく広めかねない。


「つまんないっす~。せっかく最強カップルが出来たって特大スクープ流しちゃったのに」

「……おい」

「あ」

「こら、嵐山。逃げるな。どういうことだ……勿論誰に何を言ったかまで詳細に説明してくれるんだろうな?」

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