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恋愛恐怖症候群  作者: アルタ
恋愛恐怖症候群
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1 女難の相

「魅上先輩に彼女が出来たそうっすよ! しかも先輩がメロメロに!」

 その衝撃のニュースは学校中を駆け巡った。


◇◇◇


 人には一つ、神から授かった恩恵ギフトがあるといわれている。だから、自分は望まれて生まれたのだと、そしてやるべきことがあるのだと、道徳の授業で習った。

 俺のギフトは『異性に対する魅了』だと、十数年間生きてきてなんとなく分かった。もう少し正確に言うのであれば、『異性を魅了する顔や姿』か。正直あまりにも……ろくでなさ過ぎて誰にも言えない。


 このギフトのせいで俺はずいぶん誤解されることが多い。

 タラシ、手が早い、二股どころか五股はやらかしている。ひどいものにいたっては、近寄ったら妊娠するなんて噂されたこともあった。

 しかし待って欲しい。一体、俺が手を出しているところなんていつ見たんだ? 5人の女? 誰。

 噂ばかりが一人歩きしていく。第一、俺はまだ誰とも付き合ったことなんてない。ましてや、そんなところまでいっているはずもねぇ!

 昔っからそうなのだ。



 あれは……確か幼稚園の頃だった。

 俺は積み木を片付けようとして女の子達の会話を聞いてしまった。

「あたし、“かお”はさとるくんがすきなの」

「へー。でもさとるくんって、おれさまだからきっとくろうするよ。だっておかあさんも、おとうさんのかおがすきだってけっこんしたけど、あっちこっちで、うわきしてたいへんだって」

「うん。だからかおは、さとるくん。せいかくは……のほうがいい」


 ――幼心にショックだった。


 お前は顔だけ男だといわれて傷つかない奴がいるか? しかもろくに喋ってもいねー奴からだぞ。

 思えばあれが女の子に不審を抱くきっかけであった。



 それから小学校でのことだった。

 ある日の放課後、体育館の裏に呼び出されたのだが、サッカーの練習と重なってしまい呼び出しに応じなかった。当日いきなり言われても困る。しかも、名前も何も書いてないんじゃ用件が分からず、誰かに代わりを頼むこともできない。

 どうやらそれは、俺への告白だったらしい。しばらく俺はひたすら女子から無視されつづけるという罰にあった。別に話し掛けられないことに関しては清々するくらいなのだが、連絡事項はまわってこねぇ上に、歩くたびに横からヒソヒソ囁かれる言葉。


「魅上君って薄情なのよ。告白から逃げたんだって」

「えーっ。やっだあ、いくらもてるからってねぇ」


 ――待て! 俺の予定はいいのか? 弁解の余地すらねーのかよ!


 日頃の無愛想とデビルスマイル(笑顔が腹黒く見えるのだそうだ……)が災いして、俺には悲しいことに友達が少なかった。

 誰からもフォローされることなく、すっかり「袖で振る男」のレッテルを貼られた俺。裏できゃあきゃあ言われども、誰も近寄ってこない現実。


「魅上君って格好良いなぁ!」

 情けないことに何故か野郎どもから尊敬の眼差しだけは集めたんだけどな。

 これに懲りて俺は極力女の子や恋愛沙汰にはかかわらないようになった。遠ざかれば遠ざかるほど、興味ないといえば言うほど、「もう普通の恋愛程度じゃ満足できないくらい経験してるのね」などと誤解は深まるばかりであるのだが。



 中学でとどめは刺された。

 その頃の俺は、女とデートなんかする時間もないくらいサッカーに打ち込んでいて、浮いた噂一つたってやしなかった。

 余裕をかましているように見えても、結構努力家の俺。サッカー部に所属した中学1年生の俺は、まだ2軍ということもあって、頑張って練習していた。技術的にはそろそろ1軍の補欠くらいにはなれそうだと、先輩が太鼓判を押してくれたから余計に頑張った。外見でなく、技術を褒めてもらえたのが嬉しい。特にうちの中学は全国でも有数の強豪校だ。


 上機嫌のまま練習していたからか、辺りはすっかり暗くなっていた。全寮制の学校だし、部屋にキッチンも付いていないので、夕食に遅れると飯抜きになってしまう。

 慌てて着替え、食堂へ向かう途中……

「てめぇ! 人の彼女横取りすんじゃねーよ!」

 と、カッターナイフを振り回す男に追いかけられた。


「身に覚えすらねーっての!」

 真っ青になって避けるが、ヤバイくらい目が据わってやがる!

 カバンでガードしつつ、隙を見て1発蹴りを入れ、とにもかくにも必死で逃げて(サッカーで鍛えた脚力に感謝した)、なんとか生きのびた。

 後に聞くところによると、俺と目があっただけで『魅上君が私のこと見つめてる!』と勘違いした女が、彼氏に別れ話を持ち出したのだそうだ。


 死にかけた。

 ざっくり切り裂かれたカバンに目をやりながら、ため息をつく。

 次の日、「痴情のもつれ! サッカー部魅上、またも女関係のトラブル」という根も葉もない噂が飛び交った。


 ……もう俺は、すっかり俺は否定する気力を無くしていた。女の集団からはなるべく離れて歩き、部活の連中とつるむようになった。

 もともとあまり喋らず、社交性にも優れているとは言いがたかった俺は、ぶっちょ面に磨きがかかってしまい、そのおかげでますます誤解は広がった。訂正するのも面倒なので放って置いたら、やれ、どこぞの人妻と交際中だの、ホストが似合うクラスメイト ナンバーワンに輝いてしまったり、誠に悪循環だったのだ。


 ――女には二度とかかわりたくない。

 心からそう願った俺は、この時完全に女性恐怖症となっていたのである。




 中学2年にあがった。寮の部屋も北側から南側へ変わって、日当たりが良くなった。

 教科書も新しくなって、クラスも変わって……けれどもまだ俺は2軍だった。たびたび1軍の先輩達は「魅上を1軍に」と言ってくれてたらしい。

 しかし、監督の答えは「私のチームにはいらない」というそっけないものだった。女関係のトラブルのせいかと思ったが、それは違うらしいと聞いて少し落ち込んだ。

 俺の一体どこがいけないのか分からなかった。

 努力している。技術は間違いなく1軍レベルのはずだ。勉強もした。効率の良いパスや、味方の配置を考えるのは好きだった。チームメイトは男だから、そこそこ打ち解けられた。昔から尊敬だけは集めるんだよな。何故か。


 結局2軍のまま、俺はテストを受ける新入生を見守っていた。一年前自分も受けたなぁなんて苦笑する。有望そうな新入生には、意地の悪いパスを出す奴が多いところまでそっくりだ。

 まあ俺は普通にボールを出してやる。すると、俺からのパスを受けた新入生は嬉しそうに笑って、綺麗にゴールの右隅へシュートを決めた。


 ――上手い。

 そいつ(嵐山というらしい)は俺の予想通り1軍だった。ポジションは俺と違うけれど、いきなり年下の奴に抜かれるのは悔しかった。

 そして、俺が願ってやまない1軍に合格したくせに辞退した奴もいる。


 その日の放課後、俺は無茶苦茶な練習をした。

 何で俺はダメなんだよ!

 こんなに、こんなに、努力して練習して、

 本も読んで勉強して、

 ……こんなに認めてもらいたくて、一生懸命なのに。


 叫びたくて仕方なかった。

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