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妖御伽譚 下  作者: 鮎弓千景
楿家本家にてー古家に務める妖達ー
13/22

二人の番人

週末ー

朝早く目を醒ました辭は、疾風と分家のお手伝いさんに留守番を頼んで本家へと出かけた。


一山越えた所に本家は存在するため、早めに出なければ明るいうちに帰ってこれなくなるからだ。


「本家ってどんな所なんだ?」

「どんな、と言われましても。

そうですね…分家の大きさの数倍はあるかと思われます。」

「そんなにデカイのか?!」

「大凡の目安、ですね。」


私の隣をトテトテと歩きながら、お稲荷さんはまだ見ぬ本家を想像しているようだった。

そういえば、本家に誰かを連れて行くなんて初めてだ。


唯一の入洞の入口まで車で送ってもらった私達は、今はもう整備された道を歩いている。


昔はガタガタのデコボコ道で岩を登らなければならず、おまけに暗くて歩きにくくて越えるのが大変だった。

いつも翌日は凄まじい筋肉痛に悩まされたものだ。


けれども今は綺麗に整備されていて、辺りも明るく足に掛かる負担も少なくて済む。

これはかなり助かっていた。


あの時の足の力の入れ具合といったら…。

二度と御免被りたい。


「整備されているな、この道。」

「分家と本家を繋ぐ唯一の入洞ですから。

昔はかなりデコボコだったのです。」


入洞の中を私達の声が反響する。

そのせいかいつもより大きく聞こえた。


「ふーん、大変だっただろう?」

「はい、結構大変でしたよ。その…筋肉痛が酷くて。」

「いや、そっちの大変じゃなくてだな。」

「大変にどちらも何もないと思いますよ?お稲荷さん。」


笑顔でそう返した私に白は溜息をついた。

この入洞は分家の裏山から本家の正門へと直接繋がっている。


距離がどのくらいあるのかは分からないが、一山とも言うので長距離であるのは確かだ。

本家に出向くのは本当に久しぶり。


最後に出向いたのは、いつだっただろう?

正装に身を包み、久しぶりに会う両親に緊張してしまう。


「緊張してるみたいだな。」

「私だって、緊張くらいはしますよ。」

「まだ本家には着いてないんだから気楽に行こうぜ、辭。」


肩に白が飛び乗ってくる。

フワフワな尻尾をゆらゆらと揺らしコーン、と一鳴きしてみせた。


「可愛いのです!」

「ぐへぇ…!」


歩みを止めて思わず白を胸に抱く。

このもふもふが堪らなく可愛い。


「は、早く行かないと日が暮れるぞ…」

「あ、そうでしたね。

早く行かねば夕暮れになってしまいます。」


再び歩き出す。胸には白を抱いたまま。

懐かしい入洞に昔のことを思い出した。


本家には、いつも二人の番人がいた。

二人は私が来る度に遊んでくれていて…

大好きだった。


でもそれも子供の頃まで。

大きくなるにつれて、次第に本家に出向く回数は減ってしまった。


まだ覚えていてくれているだろうか。


「ん?妖の気配がするぞ。」

「大丈夫です。悪い妖ではないですから。」


奥へ奥へと進む度に妖の気配が強くなる。

ああ、この気配は。


やがて入洞の奥から光が漏れてきた。

もうすぐここを抜けるのだ。

何だか短く感じたのは、歩幅が変わったからだと思う。


子供の頃は長く感じたのに、今はそこまで長いとは感じない。

光が近づくにつれ、鼓動が高鳴った。

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