がしゃ髑髏
ー七月ー
もうすっかり初夏から夏へと変わり暑さが身に染みるようになった。
辭は分家の裏山にある石碑の前に立っている。これは古くからある石碑らしい。
大昔戦場となったこの地で多くの者が命を絶った。
その魂を供養するために建てられたのが今私がいる石碑だ。
この石碑については今話したことしか分からなかったが、どの書籍にも載っていない。
恐らく術師の間だけで知られている石碑なのだろうということはなんとなく予想がついた。
何故、私がこんなどこからどう見ても如何にも曰くつきそうな、この石碑にやってきたのか。
それはお墓参りのためだ。
分家のお手伝いさんから話を聞いて、一度は来ようと思っていた。
お手伝いさんの知る限りでは、石碑には長年誰もお参りに行っていないのだという。
確かに、これは凄い…
長年手入れなどされていないため、かなり汚れてしまっている。
「道具を持ってきて正解でした。」
私だけでは力不足なので、式神を取り出した。三人いれば充分かな…
それから桶に水を汲み、石碑の掃除へと取り掛かる。
今日はお稲荷さんは霊界へ、疾風はどこかに遊びに行っていない。
だから、誰も私がここにいることを知らないのだ。
なるべく早く済ませて帰らないと。
心配するだろうし…
ゴシゴシとタワシで石碑の汚れを落としながら、私はそんなことを考えた。
お稲荷さんはかなり過保護だ。
心配してくれるのは有難いが、ヒステリックにキャンキャン言うのは勘弁してほしい。
最初はかなり邪険に思っていた私だが、最近では彼らといることに安らぎを覚えるようになった。
一年前ー。
私は桜が咲く春の京都でお稲荷さんに出会った。
それからたくさんの妖に出会った。
小鬼達や巫さん、花神の侭さん、疾風に魑魅魍魎の女将さん…
狗神の時は本当に絶体絶命の大ピンチだった。もし、あの時に玄武様が助けに来てくれなかったら…
考えてゾワリと鳥肌が立つ。
本当によく助かったものだ。
そして四神の皆さん。
今だ面識がないのは朱雀様だけだが、他の三神方はちょくちょく顔を出しに来てくれる。
その度にお稲荷さんが叫んだりするので、こちらとしてはいい加減に静かにしてほしいものだ。
一人が当たり前だと思っていたのに、いつの間にか私の周りは賑やかになっていた。
ゴシゴシ…
ゴシゴシ…
「これも必然なのでしょうね…」
私はもっと強くなりたいと思った。
狗神の時、私の術は全て効かなかった。
お稲荷さんは私を庇って傷を負った。
それがとても悔しくて、悔しくて…
誰も守れない自分自身に言いようのない怒りを覚えたのだ。
きっと、あの白には全てお見通しだったことだろう。
パートナーとして一年も共に過ごして来た。
私の考えなんて筒抜けだったに違いない。
ゴシゴシ…
ひたすら擦っていると、不意に肩を叩かれた。