俺と姉
This Story Is Fiction―この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
俺はこの町が好きだ。都会でなく田舎でもない。春には桜、夏にはヒマワリ、秋には紅葉が見られる。そんな町を、俺は19年間見てきた。そんな移り変わっていく景色の中で、俺も変わらないわけにはいかなかった。新しい場所で、新しい自分を探してみたい。そう思う。しかし、それを現実にするには気の遠くなる時間が必要かもしれない。なぜか。理由は二つある。一つ目は、今現在俺は職なし。コンビニのバイトとガソスタのバイトを頑張っているが、部屋を借りて生活するには収入が少なすぎる。高卒で雇ってくれる会社がないのが厄介だ。二つ目の理由は、
「おっっそ~い!プリズムのプリンはちゃんと買ってきたんでしょうね!」
プリンは、って俺が何か買い忘れをした記憶でもあるのだろうか。それはさておき、二つ目の理由、それはこの人がいるからだ。俺の姉、川里春。俺の一つ年上。俺と同じ高卒。俺の紹介した仕事を片っ端からやめた人だ。好物はプリン。好きな場所は家。好きなタイプは家事がすべてこなせる人。それであって尽くしてくれる人。そんな人がいるのかよ。趣味は格闘ゲーム。TVゲーム、ゲーセンのゲーム、その他格闘ゲームだったら半端なく強い。俺はいまだに一度も勝ったことがない。一緒にゲーセンに行った時、まさかの70連勝を成し遂げそのゲーセンでは「格闘ゲームの神」っと崇められてる人だ。
「買ってきたよ。用がないに駅前までいったよ。」
「ありがとう。だってプリズムは駅前にしかないじゃん。」
さっさと職に就くか永久就職してこの家から出てけ。内心結構思う。
今、俺ら二人はアパートで二人暮らし。俺は朝6時から昼の12時までコンビニで働いて、姉の昼を作って飯を食べ、1時からガソスタのバイトを夕方6時までやる。そのあと夕飯の買い物をして帰宅。日曜日以外は毎日これ。リーマンぐらい仕事してるのに月給はリーマンの半分以下。しかも昼には一度帰って姉の飯の支度をしている。いじめっしょ?これ。姉さん?春さん?
「う~ん。幸せ!」
「・・・」
まぁ、いっか。
姉は俺のただ一人の肉親だ。何故なら、俺達には親がいない。俺が中学に上がった途端に母親が離婚届けを残し、出て行った。一方の父親はその紙にハンコを押し、蒸発。俺達は両親に捨てられたのだ。それからは、毎月通帳に金が振り込まれるだけで所在は一切不明。
中三の時、住んでいた家を売り今住んでいるアパートに引っ越した。俺は高校にはいかずに働こうと思ったが、姉がそれを反対し、俺は高校へ進学。大学にはいかず、働き口を探すが高卒をやってくれる会社がなく、高校を卒業。少ない俺のバイト代と、振り込まれる親の金で生活している。
「夏輝」
姉が俺の名前をつぶやく。プリンは食べ終えていて、空の容器が机の上に置いてあった。
「どうしたの?」
俺は姉を見て微笑みながら言った。
「・・・やっぱり寂しい?」
両親の事だ。
「いや。寂しくないよ。いつか、いつか二人が帰ってくるって信じてるから。」
半分ほんとで半分嘘だ。寂しくはない。でも、親が帰ってくるとは信じてない。今さら帰ってきてほしくない。俺らを捨てた奴らの顔なんか見たくない。これが俺の本心だ。
「そう。ありがとう。・・・ごめんね・・・。」
最後の方は声が小さくて聞き取りにくかった。けど、俺には言葉の意味がはっきり分かった。悪いと思ってるならさっさと就職してくれ。
「夕食にしよ。今日は春が好きなカレーだよ。」
「ありがと。夏輝。」
少し笑って姉が言った。
読んでくださいましてありがとうございます。また次回作で会いましょう。