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1. プロローグ プライベートバンカーの帰還

 東京銀座にひっそりとオフィスが開設されます。海外から呼び戻され所長に就任した伊勢信一郎が登場します。

 アメリカ ニューヨーク州 マンハッタンの高級レストランで彼はバーテンダーとして腕をふるっていました。日本の大学を卒業後渡欧し、スイスの伝統的プライベートバンクでパートナーを務めていましたが金融業界から離れてアメリカに逃げてきたのです。


 やがて大学時代の恩師が彼の所在を探し当て、日本に呼び戻します。


 JR東京駅八重洲南口を出て南へ徒歩15分ほど、「銀座四丁目」の交差点角にある和光時計台の近く、細い通り沿いに5階建の雑居ビルがあります。1階には店舗が入っておりますが、銀座にしては昭和レトロ感の漂う外観をしてひっそりとそこにあるという建物です。


 エントランスの奥にあるエレベーターに乗ってみましょう。3階のボタンを押すとしばらくエレベーターが上昇したのち停止しますので開いたドアを降りてみます。廊下を左の方に進むと一番奥の部屋のドアが開いており内部が覗けるようです。


 内部では白いピンストライプの入ったネイビー色の高級そうな生地で仕立てたダブルスーツ姿の中年の紳士が内装業者らしい作業着姿の男性と打合せをしています。どうやら新たにオフィスを開くようです。


 その紳士は見かけたところ年齢50歳前後で身長180センチを超えているでしょうか。がっしりした体格に色白の彫りの深い端正な横顔、艷やかな黒髪をワックスできれいになでつけています。

 

 おや、紳士が外に出てきて額縁の様なものの包みをほどいています。そして玄関ドアの外側の壁で取り付ける位置を決めると内装業者に指示しました。看板だったのです。


 どれどれ、看板には「ファミリーオフィス銀座」と書かれています。ファミリーオフィスとは何でしょうか?それはこれから始まるお話の中でお分かりいただけるでしょう。

 

 あっ、紳士が気づいて振り返り、一歩こちらに近づき両手を広げてバリトンの素晴らしい声で話し出しました。


 「レディースアンドジェントルメン、今宵はよくぞ遠路はるばるお越し下さいました。」


 「ファミリーオフィス銀座にようこそ。私が所長の伊勢信一郎でございます。」


 「ちょうどこれより開幕となるところでございます。」


 「今宵は特別なお話をご用意いたしております。」


 「ある家族の夢のお話です。」


 「心の準備はできておられますでしょうか。」


 「それでは開演させていたただきます。」


 「ごゆるりとご鑑賞下さいませ。」


  彼は右手を前に回して深々とおじぎをしました。


  それでは始まり、始まり。

【解説】

・ファミリーオフィス

 

 家族の財産を守り増やすためかつてはスイス銀行が有名でした。ゴルゴ13やMASTERキートンにも出てきますよね。プライベートバンカーが資産運用の投資助言あるいは投資一任を受けて活動します。家族親族を包括的に対象にするのがファミリーオフィスですが、本作では特別な方々を守るために動きます。

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