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気が付けば10年以上も経っていたんだなーという恋の話

掲載日:2026/07/18

私には職場で「トレンディ」と勝手にあだ名をつけて呼んでいる人がいる。

もちろん本人に直接は言っていない。

仲のいいメンバー内でだけそう呼んでいる。


最初はスタイリッシュな姿から「シティボーイ」

次はパソコン関係の知識が豊富だから「ITボーイ」

最終的に、

椅子に腰かけ考え事をするときに、

足を組み、ポケットに手をいれ斜め上を見つめる姿や、

「あんた、転んだら顔面強打するよ」と言いたくなるほど、

常にズボンのポケットに両の手を入れ歩く姿が一昔前のドラマを彷彿とさせ「トレンディ」と言う呼び名に落ち着いた。


シティボーイ

  ↓

ITボーイ

  ↓

トレンディ…


我ながら名づけセンスがなかなか古めかしいとは感じるけども、

彼を前にした人ならば「あー、たしかに」と納得できる名づけ方だよなーと思う。


3歳年下で1年後輩のトレンディ。

15年前に入社してきたときはまさか「トレンディ」なんて呼ぶ日が来るとは思えないほどスタイリッシュとはかけ離れていた。


分厚いレンズの眼鏡で目が小さく見えて、

お肌は荒れ放題、

短髪なのにボッサボサの頭、

毎日1mmほど伸びた髭。


ほとんど言葉を発することなく一日を過ごす冴えない彼の姿に、

「なんて純朴で無口で不器用そうな人なんだ!」

と何を考えているのかわからない彼の姿に魅了され、

うっかり心を奪われたのはもう13年ほど前の事。


飲み会の度、酔えば「私はあんたが好きなんだー」とダルがらみをしていた当時20代の私。


挙句、勝手に酔っては告白を続けるも明確な答えを言わない彼に痺れを切らしたある日。

私はエレベーター内で彼に壁ドンをし、

「あたしゃ、あんたが好きだって言ってるだろ。どうしてくれるんだ」

なんて今も昔もダメだろ、

という事をしては彼を恐怖でプルプルと震え上がらせていた。


そんなある日、彼は急にあか抜けた。


眼鏡をコンタクトにし、

髪型はスッキリとした2ブロック、

服装もカーディガンを羽織り細身パンツを履きこなした姿。


ト、

トレンディ…


しかもトレンディは仕事が出来るうえ、

無口なのに振られた話題には全て答えるコミュニケーション能力の持ち主。

みるみるうちに出世し課長代理になったのは30代前半だったと思う。


酒に酔い告白をしては砕け散った20代を経て、

30代になった私はトレンディを完全に信頼し部署は違えど相談相手と言うか、愚痴を聞いてもらえる唯一の人と言うか、恋心とは違う精神的な拠り所になっていたと思う。


トレンディは低音ボイスでそっけない物言いのため、

「AIを人の形にしたらトレンディになるだろうな」というほどクールで論理的な人だ。

何度か「あんたの言う事は正しいけど優しくない!」と言ったことがあるほど…


って私が感情的すぎるだけなのだけども。


そんなトレンディがここ最近、優しく柔らかい雰囲気を纏うようになったことに私は気付いた。


残業続きで不機嫌になるはずなのに…

おや? もしや彼女か?

いや、まさか、そんなはずはない。


私は彼の入社日からあか抜けトレンディへと変貌を遂げ、出世街道まっしぐらな姿を恋心はどこへやら、親心で見守っていた。

そんな私が彼女の存在を見逃していた?

いや、そんなはずはない…


っていう事は、

も、もしや、会社とグッバイする気か!


と、ここ最近思っていた矢先の7月17日。

トレンディが「8月上旬に退職する」ということが急遽開催された本人有休不在の社員ミーティングで発表された。


やっぱり、そうか!

私はなんて観察力が鋭いんだ!

いや、自画自賛している場合じゃない。

気付いてはいたけど、そうなのか。

いや、良い選択だと思う…

でも、

ちょっと、

ほんのちょっとだけ、さみしいな。


いろんな思いがグルグル巡り、

私は休みのトレンディに「ご飯行こ」とメッセージを送った。

「さすがに今日じゃないですよね」と返信が来て、

「土曜でも日曜でもご都合のいい日に」と送ってから返信はない…

別に何がしたい訳じゃないけど、最後にしっかりと話を聞いてみたい。

これまでずーっと話を聞いてもらっていたからな。


ふと、思い出したのは20代の頃のこと。

私の恋心を知った同僚が酔った勢いでトレンディに連絡をして、

「初詣キンモクセイさんと行ってやってよ」と約束をしてくれたのだが、

私は「酔っ払いの戯言、どうせこないだろう」とトレンディが来なくて傷つくのがいやだから家で過ごしていた時、同僚から「今、どこ? 彼きてるよ」と連絡を受け、慌てて神社に行ったことがあった。

「この後、家族で初詣に行くので…」と私に怒るでもなく、神社を一周して「それじゃ」と別れたっけ。


本当に自己中で、なんて奴なんだ私…。

そりゃ、トレンディが私を好きになるわけないよな。

なーんて10年以上経過してやっと気が付いた。


そういえば10年前に一度だけ、

酔った私の手が冷たいとトレンディが私の手を握り、

自分のポケットに手を入れようとしてくれたことがあった。


さ、さすがトレンディ。


トレンディドラマでもなかなか見ないその行動。


頭の中では恋愛ソング(私の中ではLove so sweet)でも流れ出しそうな場面。


ドキッとしたのもつかの間。

私の手が大きすぎて繋いだ手がすんなりポケットに入らず…


二人で「あれ、ここはすんなりいくはずじゃ」

なんてクスっと笑った冬の日の飲み会帰り。


あー、なんか、ずっと上手くいっていない。


でも、なんだかいい思い出だなー。


そんな思い出に浸りながら、

今、PCのキーボードで文字を入力している私の手は、

若かりし頃よりシワもシミを増え、

関節は少し太くなって、血管も何故か浮いて、

ゴツゴツした男性的で強そうな手になっている。


精神的な支えだったトレンディがいなくなる。

気が緩めばうっかり涙が出てきてしまいそうで…

何とも言えぬこの気持ち。


さみしくなるぜ。


でも、仕方がない…


グッバイ! トレンディ!




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