1)誕生
10年前の初作品、続きを投稿します。番号で管理されていた人類に、名づけが始まります。
穏やかな日差しにまどろみそうな、ある日の午後。
森の木々が気持ちの良い風に葉を鳴らすなかに建つ白色の建物に大きな声が響き渡る。
大きな部屋には、生まれたばかりの赤子をかかえ嬉しそうにあやすもの、顔を覗きこんでじっと観察するもの、携帯板に何か書き込むもの。
「賢そうな顔をしている。この子はきっと大きな事を成し遂げるだろう。」
「そうなると良いですね。」
「そうなる。きっと。」
部屋の壁際には、縦に立てた筒が大量に並べてあり、そのうち10万1番と書かれた1本が横に倒され蓋が開かれていた。
「この子は、従来の人類が持つ欠点を一通り改良しただけでなく、我々の複写遺伝・・・」
「まて。ここでこの話はまずい。」
「白き神、失礼しました。」
技官は冷汗を流し釈明する。
人の出入りが多い人工子宮室は敵対勢力の盗聴を防ぐのが難しい為、
機密事項については遺伝子調整室で話す事になっている。
ここは神々が人類製造と育成を行う”蒼き星”上の人類保育施設。
神々の手足となる僕、奴隷であり消耗品を製造するのが目的であり、本来は最上級の神である白き神が訪れる場所ではない。
しかし、ある極秘の試みを施した人類の生誕に立ち会う為、訪れた。
赤子がえもいわれぬ笑顔で周りにいる神々に微笑む。
「・・・この子達を道具とする時代は、終わらせるぞ。」
「はい。」
それは、赤子の周りにいた神々の願いであり覚悟だった。
愛情をそそがれ、子供は一段と微笑む。
この時代、人類は番号で管理されていたが、”蒼き星”では
10万人の世代から幼年期に名前をつける事にしていた。
その名付けが始まろうとしていた第1保育管理棟では、同時期に生誕した男女100名を育成していた。
1年が10ヶ月とされ、毎月100名がまとめて生誕する。遺伝情報はあえて異なる設計をしたが、見方をかえれば兄弟ともいえた。
「この世代は、元気だな。」
遊戯室に視察に来ていた「白き神」が保育士に言う。
「はい。運動系に優れた子が多いのが、10万番台の特徴と言えます。
しかし、この10万1番はなかでも大変変わっていて、好奇心が人一倍強く、新しい者、新しい物を好みます。きっと辺境の開拓に長けるでしょう。」
「いや、この特性をあえて知的な方面に伸ばしてはどうだろうか?」
「この運動系の世代にですか?」
「そうだ。遺伝子設計的には知的作業も鑑みた調合にしてある。」
「わかりました。10万1番を始め、幾人かいる素養のありそうな子に、そのような教育を行いましょう。」
「ありがとう。ふむ。この子は・・新しいものを好む特質から、アムと名づけて良いか?」
「もちろんです。人類への命名第1号ですね。」
「そうだな。では、他の子供達の特徴も教えて欲しい。」
「わかりました。この10万1番の隣にいつもいる女の子は、とても愛情深く、困っている子がいると手助けを厭いません。10万番系の特徴も強く出て運動は万能、頑固で気が強い面も。補佐役のような業務に敵しています。」
「ふむ」
「いつも10万1号・・いえ、アムの後ろをついて回り、何かと世話を焼いたり、手伝ったりしています。気が合うのでしょうか。」
「そうか。今の人類は自己増殖できない仕様になっているが、性差は残して有るし、性的機能もある。
世が世なら、他の現住生物のように、生涯添い遂げる二人なのかもしれないな。」
「はい。我々の現法では、人類に自分の意志で業務や居住地を選ぶ事は許されていません。この二人がそのような立場になる可能性はほぼ無いでしょう。人類育成施設にいる間だけでも、一緒にいさせてあげたいものです。」
「育成士長よ、よろしく頼む。そのような考え方ができる君達なら安心して人類の幼児達を預ける事ができる。」
「そうおっしゃっていただけるのは嬉しい事です。しかし、”緑の星”では”強制言語”が常用されるなど、この”蒼き星”と人類の扱いが違います。開拓地”赤き星”ではさらに過酷な運命が待ち受けているでしょう。少年期を経て各地に送り出される事を考えれば、この”蒼き星”で愛情を注ぎ育てるのが良い事なのか・・・悩みます。」
顎に手を添えてしばし考えてから、白き神は答える。
「そうだな。無感情に育成するのも方法だろう。その後のギャップも感じなくなる。しかし私の経験では、幼少期に十分な愛情を注ぎ育てた子は、あらゆる苦難に立ち向かう心を持つ。強制言語で使役される人類も平均寿命が伸びる。愛情を注ぐ事、甘やかす事、その違いを区別できる者なら、可能な限りの愛情を注いでやって欲しい。」
真剣に話をする白き神の服を先程の女の子が引っ張り、微笑みかける。
「ところでこの子の名前だが。愛情深いところから、イフと名づけたい。どうかな。」
「良い名前です。人類の個体に公式についた史上2番目の名前として相応しいでしょう。」
「そうか。本当にそう思ってくれるか。」
白き神が嬉しそうに微笑む。人類の老人に相当する外見の白き神も、この頃はまだ若々しい印象だった。
「白き神、そろそろお時間です。移動しませんと。」
「わかった、イリス。・・・すまない、全員の名付け親になる時間はなさそうだ。後の命名は頼む。人類保育施設の皆よ、今日は立派に働く君達と、輝く子供達に会えて良かった。では、失礼する。」
その場にいる大勢の技官、保育士を見渡しながら白き神は言った。
返礼する者達を残し、数名の随伴者と共に施設を出ていく白き神。
外に出ると暖かな日差しのなか気持ちの良い春の風が吹き、様々な草花の香りを運んできた。
「かれら人類が銀河に咲き誇る日が、来るとよいな。」
ふと、強い風が吹き抜ける。
白き神の願いに、大地が反応したかのように。




