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ヤニ吸う彼女とナニをする?  作者: 雅鳳飛恋
第五章 ヤニ吸う彼女と解決する

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第5話 上書き

   ◇ ◇ ◇


 帰宅後、晩飯や風呂などを一通り済ませた俺たちはのんびりと過ごしていた。


 いつもと変わらない日常に心地好さを感じつつも、一つだけ気になっていることがあった。


「――棗さん、タバコ、吸わないんですか?」


 棗さんは帰宅してからまだ一度もタバコを吸っていない。いつもなら吸っているはずなのに。


「んん? あぁ、タバコは控えようかなって思って」


 ローテーブルに頬杖をつきながらテレビを観ていた棗さんは、ソファに座る俺のほうへ顔を向けた。棗さんが左を向いたことで、右側のテレビから視線を切る形になった。


「どうしたんですか? 突然」


 そんないきなり禁煙を決意するなんて、いったいどんな心境の変化が?


「もうタバコを吸う理由がなくなったからさ」

「あぁ~、そういえば、元カレへの意趣返しが発端だったか」

「そそ。だからもうやめようかなって」


 元カレへの反発心からタバコを吸い始めたから、今はもう続ける理由がないのか。


「密君が喫煙者だったらやめなくても良かったんだけど、吸わない人と一緒に暮らしているのに続けるのは気が引けるから」

「いいんですか? やめても」

「うん。別に好きで吸ってたわけじゃないからね。ただ習慣になっていただけだから」

「棗さんがそのつもりなら口は出しませんけど、俺に気を遣ってるなら遠慮しなくてもいいっすよ?」


 吸わない人に対する気遣いは喫煙者としての心理なんだろう。だが、俺は本にさえ匂いが付かなければまったく気にならない。だから無理に禁煙しなくてもいいと思っている。気を遣われるほうが嫌だし。


「どっちにしろ、タバコは懐を圧迫するだけだから……」

「そんなに金かかるもんなんすか?」

「私はそんなに吸うほうじゃないけど、それでも結構痛い出費だね。贅沢な嗜好品だから」


 意趣返しのために吸っていただけだから、必要なくなった今となっては本当にただの無駄な出費になるんだろうな。

 身体には害しかないし、好きでもないのに吸うメリットなんてなに一つないよな。


「一日に二箱以上吸うようなヘビースモーカーだったら、タバコだけで月に四万円以上の出費になるからね」

「それは……確かに痛い出費だな……」

「でしょ? 私はそんなに吸わないから千円から五千円くらいの出費に収まってるけど、好きでもないのにこのまま続けて消費量が多くなったらバカみたいだし」


 それこそ依存症になったら手遅れだしなぁ……。


「きっぱりとやめられるうちにやめるほうが賢いでしょ?」

「賢明な判断ですね」

「まあ、そんな簡単にやめられるかはわからないけどね……」


 溜息交じりの棗さんは肩を竦める。


「それに前も言ったけど、今後、赤ちゃんができるかもしれないし」

「気が早いですって」


 確かに妊婦にタバコは厳禁だけども!


「そう? デキてからじゃ遅いよ?」

「それはその通りなんですけど……」


 ごもっともです。

 いざという時に禁煙できなかったら目も当てられないしな……。

 正論に返す言葉が見つからない……。


「それに私は今日、密君に抱かれるつもりだったんだけど?」

「はい……?」


 予想だにしない言葉に力のない声を漏らすことしかできなかった俺は、小首を傾げて婀娜あだっぽい表情を浮かべる棗さんに見つめられて、目が離せなくなった。


「今回は諦めてくれたけど、()()()のことだから忘れた頃にまた来る気がするんだよね」

「……大須賀ですか?」


 突然の話題転換に戸惑ってしまったが、なんとか言葉の意味を理解することができた。


「うん」


 そうかな……? また来るのか……?

 思ったより簡単に引き下がったのは、まだ機会はあると踏んでのことだったのか……?


「あくまでも可能性の話だけどね。今回ので完全に諦めた可能性もあるから」


 まあ、用心しておくに越したことはないか。俺よりも棗さんのほうが大須賀に詳しいわけだし。


「だからその時のために、もっと密君と仲良くなっといたほうがいいかなって思って」

「な、なるほど……?」

「それこそ子供ができてたら、あの人、大ダメージ食らいそうじゃない?」


 あぁ、なるほど。話がそう繋がるのか。

 脈絡のない話になったから頭の中が疑問符でいっぱいだったけど、ちゃんと関係あったわけだ。


「自分の女だと思ってる人が、別の男との間に子供を作ってたらショックでしょうね……」

「でしょ?」


 確かに諦めさせる方法としては最強の手札かもしれない。


「もちろん、仮に子供がいたとしても、元カレを退治するための道具なんかにするつもりはないけどね。私たちの知らないところで勝手にショックを受けて、勝手に諦めてくれればいいくらいの考えだから」


 なにも知らない子供を巻き込むのは親として失格だもんな。道具扱いなんてもってのほかだし。


「勝手に寝取られたと勘違いするってことか……」


 なかなかエグいなぁ……。


 復讐の形としてはスカッとするのかもしれないけど、大須賀と同じ男として同情を禁じ得な――いや、まったく同情心なんて湧いて来ねえや。


 状況が違えば同情したかもしれない。少なくとも、複雑な心境にはなっただろう。

 ただ、大須賀に関しては完全に因果応報だからまったく感情が揺さぶられない。


「そうそう」


 軽い調子で相槌を打ち棗さんの様子から察するに、別に仕返ししてやろうなんて思ってはいないはずだ。

 ただ単純に、万が一の際に効果的に追い払える手段として思いついただけなんだろうな。


「まあ、でも、密君はまだ学生だから子供は現実的じゃないよね。私もフリーターだし」

「計画性を持つなら時期尚早ですね」

「密君ひとりに経済的な負担を強いる気はないから、今はちゃんと避妊しないとね。デキちゃったら仕方ないけど」


 避妊とか、デキちゃったらとか、明け透けすぎませんかね……? 大事なことではあるけども。


「建前が長くなったけど、正直そんなことはどうでもよくって――」


 棗さんはそう口にすると、女豹のように這い寄って来る。


「単純にもっと密君と仲良くなりたいってだけなんだよ」


 ソファに座っている俺の膝に手を添えながら艶笑を浮かべる棗さんが扇情的で直視できない。


 棗さんが前屈みになっているから、Tシャツが弛んで胸元が見えてしまう。高低差も相まって、ほとんど見えてしまいそうだ。


 ――ノーブラ、か……。眼福です……。


「あとわがままを言わせてもらうと、密君に上書きしてほしいんだよね」

「上書き、ですか……?」

「うん、そう。あの人との記憶を上書きしてほしいんだ。密君からしたら気分のいい話じゃないかもしれないけど……」


 あぁ、そうか……。

 棗さんは大須賀に抱かれた記憶を上書きしたいんだな。彼女にしてみればなかったことにしたいくらいの過去だろうし。


「あの人を追い払うことができたし、改めて夫婦としての生活をスタートするいい機会ってことで、ダメかな……?」


 上目遣いで甘えるような表情の棗さんがかわいくて、色っぽくて、俺の理性が激しく揺さぶられる。


「……ダメじゃないです」


 思わずそう口にしてしまうくらい平静ではいられない。


「私からお願いしてるんだし、弱みに付け込むことにはならないでしょ?」


 弱みに付け込んだり、強引に行為に及んだりするのは俺の趣味じゃない。以前、棗さんに伝えたことだ。


「……ならないっすね」


 正直、俺もめちゃくちゃ棗さんを抱きたい。

 だって棗さんは好みのタイプだし、かわいいし、美人だし、いい身体しているし、抱きたくなるに決まっているじゃないか。


 性欲まみれの願望を抜きにしても、棗さんには惹かれている。――いや、はっきり言うと、好きだ。棗さんのことが好きだ。惚れている。


 だから精神的にも肉体的にももっと深く繋がりたい。


 それが俺の正直な気持ち――欲望だ。


 なにより、抱くことが棗さんの助けになるのなら、断る理由はないんだよな……。


「なら、シよっか? 私、密君のこと、好きだよ」


 耳元で囁かれたこの言葉がトドメとなった。

 理性が崩壊寸前だった俺には効果抜群だった。


 吐息を多分に含んだ艶のある声に理性が吹っ飛び、気づいた時には棗さんのことをベッドに押し倒していた。ソファにいたはずなのに、いつの間にか棗さんをベッドに連れて行っていた。


 棗さんの服が乱れて、まばゆく感じるほど白く研ぎ澄まされた柔肌があらわになっていた。


「……コンドーム、ある?」


 その言葉で我に返った。

 お陰で一気に冷静になった。


 危ない危ない。

 危うく避妊をせずに致してしまうところだった。


「……あります」


 確か、元カノと付き合っていた頃に使っていたやつがまだ残っていたはず。


 ベッドサイドテーブルの引き出しに手を伸ばして、中からコンドームを箱ごと取り出す。


「この通り」


 コンドームを棗さんに見せた後、ベッドサイドテーブルの天板に置く。


「良かった。それじゃ、続きシよっか」


 艶然と微笑んだ棗さんに「はい」と頷いた俺は、再び彼女に覆い被さった。


 そうして繋がった俺たちはこの日、正真正銘の夫婦になったのであった――。


 以上で完結となります。

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