表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤニ吸う彼女とナニをする?  作者: 雅鳳飛恋
幕間 ヤニ吸う彼女の日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/34

第2話 続・日常

   ◇ ◇ ◇


「――こんなもんでいいかな」


 帰宅した私は、スーパーで買った食材を使って夕食の支度に取り掛かった。

 それがちょうど今、完成したところだ。


 現在の時刻は、午後七時前。

 密君から十九時頃に家に着くと連絡があったから、そろそろ帰ってくるはず。


 いつも私から訊かなくても、彼のほうから連絡してくれるんだよね。だから夕食の支度をする時間の目安がわかるから助かっている。こういう細かな気遣いができるところも彼の魅力。


 密君も料理をする人だから、作り手の気持ちがわかっているんだろうね。


 そんなことを思っていると、家の鍵をガチャと解錠する音が鳴った。

 どうやら密君が帰ってきたみたい。


「――ただいま」

「おかえりなさい」


 帰宅した密君を出迎えると、彼は「いい匂いがする」と呟いた。


「夕飯、できてるよ」

「ありがとうございます」


 靴を脱いで部屋に上がる密君。


「すぐ食べる?」

「出来立てですか?」

「うん」

「なら食べます」

「わかった。今、テーブルに並べるから、ちょっと待っててね」

「なら、その間に風呂沸かしときます」


 本当に密君は気遣いが抜かりないなぁ。


 密君は、帰宅したらすぐにシャワーを浴びることが多い。

 だけど、出来立ての料理があったら、先に食事を優先してくれる。せっかく作ってくれたのだから温かいうちに、と。


 温め直す手間を考慮してくれるところに優しさを感じる。

 これも料理をする人だからこその配慮なんだろうね。


 元カレだったら絶対にあり得ないことだった。


「今日はお風呂沸かすんだね」

「そういう気分なんですよ」


 密君はシャワー派だ。

 だから普段はシャワーで済ませることが多い。


 斯く言う私もシャワー派なんだよね。

 静岡にいた頃はお風呂に入るのが当たり前だったんだけど、東京に来てからはお湯を張るのがもったいなくて、シャワーで済ませることが多くなった。節約してたからね……。


 今ではそれが習慣になり、すっかりシャワー派になってしまったのだ。


「美味そうだな……」


 ローテーブルに料理を運んでいると、密君が浴室から戻ってきた。


「座って待ってて」

「ありがとうございます」


 前までの密君なら、気を遣って「俺も手伝います」と言っていたと思う。

 彼が気を遣ってばかりじゃなくなったのは、距離感が縮まったみたいで嬉しい。お客様じゃなくなったんだな、と実感できるから――。


「――お待たせ」


 料理を全てローテーブル運んだ私は、密君の対面に腰を下ろす。


「簡単な物で悪いけど」

「いやいや、十分、豪華ですよ」


 今日の夕食は、鮭のムニエル、なすの煮びたし、だし巻き卵、冷奴、なめこのお味噌汁、きゅうりと白菜とにんじんの浅漬け、五目炊き込みご飯だ。


「棗さんって、和食が得意なんですか?」

「母が和食中心の人だったから、その影響かな」


 いつも和食ばかり作っているから、得意だと思われたんだろうなぁ~。――まあ、ムニエルはフランス発祥の料理だけど。


「こんなこと言ったら失礼かもしれないですけど、なんか意外ですよね」

「そう?」

「なんかこう、ギャップがある」


 そ、そうかなぁ~?


「バンドマンみたいな、ロックな見た目からは想像がつかないというか……。まあ、完全に偏見なんですけど」

「いや、まあ、言いたいことはわかるかも」


 自分を客観視したら、なんとなく腑に落ちてしまった。


「洋食とかのほうがイメージがつきやすいから、ちょっと意外に思ってしまった」

「ギャップ萌えってやつかな?」

「このギャップ萌えは好物です」

「ふふ、なに言ってんの」


 真面目な顔で冗談を言う密君がおかしくて、自然と鼻を鳴らしてしまう。


「和食好きだから棗さんと結婚して良かった」

「密君も和食作るでしょ?」


 美味しい手料理を振舞ってくれるもんね。


「作りますけど、和食は棗さんのほうが上手いから」


 密君が作った和食も美味しいけどなぁ~。


「まあ、単純に俺が棗さんの作った料理が好きって話ですよ」

「ふふ、ありがと」


 そう思ってもらえるのは、作った甲斐があるってもんだよね。

 そんなに手の込んだ料理じゃないけど、喜んでもらえるのは素直に嬉しい。また頑張って作ろうかなって気になる。今度はもっと手の込んだ料理を――ってね。


「さ、冷める前に食べちゃお」


 私がそう促すと、密君は「ですね」と頷いた。


「それじゃ――」


 密君がそう呟いたのを合図に、私たちは「「いただきます」」と同時に口にした。


   ◇ ◇ ◇


 夕食を終えた後、私たちは順番にお風呂に入った。

 今は二番風呂を頂いた私がちょうど上がったところだ。


 脱衣所から出て、少し湿った髪を掻き上げたら、読書に興じている密君の姿が目に映った。

 読書に集中しているからか、私がお風呂から出たことに気づいていない。ドライヤーを使ったのに。


 これはいつもの光景だ。

 密君は家にいる時、だいたい本を読んでいる。


 本を読んでいない時は、パソコンで動画か配信を観ているか、大学のレポートをやっているかだ。後はアニメを観たり、バスケの試合を観たりかな――特にNBA。


 そんな彼の姿を横目に、私は冷蔵庫から缶ビールを取り出す。


 プシュッ! と音を鳴らせて缶ビールを開けると、ゴクゴクと喉を潤すように呷る。

 キンキンに冷えたビールは、お風呂で上がった体温を内側から下げていく。


 缶ビールを片手に本棚の前へ移動すると、前から気になっていたライトノベルを手に取る。


「――これ、読んでもいい?」


 本を見せながら尋ねると、この時になってやっと密君は私に目線を向けた。


 多分、私がお風呂から上がったのは気づいていたはず。いろいろ音がなっていたし、本棚の前に移動するのに密君の隣を通ったから。


「いいですよ」


 チラッと私の手にある本を確認した密君はそう一言口にすると、すぐに読書を再開した。


 持ち主の了承を得た私はローテーブルに缶ビールを置くと、ソファに座っている密君の隣に腰を下ろす。


 最近は密君の影響でライトノベルを読むようになった。彼の好きな物を知りたいと思ったから――。

 今までは縁がなかったジャンルだけど、これが読んでみると新鮮でおもしろい。


 彼の本棚にはライトノベル以外にもいろんな小説がある。もちろん、マンガもある。


 彼のことをもっと知りたいと思って始めたことだけれど、私はこの時間が好きだ。


 しんと静まり返った部屋で、二人並んで本を読む。

 元カレといた時ではあり得なかった落ち着いた時間が、安心感と幸福感を与えてくれる。


 安心して彼に身を任せられるからか、自然と身体の力が抜けていって、実家にいる時のような感覚で過ごすことができる。


 だから、このなんの変哲もない日常が、私には尊い時間になっていた――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ