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ヤニ吸う彼女とナニをする?  作者: 雅鳳飛恋
第三章 ヤニ吸う彼女と抵抗する

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第5話 続々・営業妨害

「……お客様、落ち着いてください。これ以上はさすがに看過できませんよ」

 

 本当なら殴り返してやりたいところだが、そういうわけにはいかない。

 残念だが、悔しいが、悲しいが、歯痒いが、そういうわけにはいかないのだ。


 俺が店員で、男が一応は客である以上、仕方がない。

 もし手を挙げたら俺と男だけの問題では済まなくなる。

 店の責任になってしまうんだよ……!


 ひじょーーーーーーに不本意だが、ここは我慢するしかないんだよなぁ……!!


 まあ、別に殴られそうになったことに関しては怒ってないんだけどさ。こうなる可能性は予め考慮していたし。


 それになにより、灰咲さんに対する態度のほうが遥かにムカつくからな。

 注意することしかできないのが非常にもどかしい。


「――いや、これは……」


 さすがに男も暴力はマズイと思ったのだろう。慌てて手を引っ込めると、数歩後退った。


 きっと故意ではなく、焦りと怒りからカッとなって無意識に手が出てしまっただけなんだろうなぁ~。


 こういうところにDVの片鱗が垣間見える。

 いくら外面が良いとは言っても、本性は隠し切れるものじゃないってことかな。

 

「――大須賀おおすがさん、本当にもう関わらないでください。個人的にも店としても迷惑です。お引き取りください」


 立ち去ろうとしていた灰咲さんが足早に俺の隣にやって来ると、冷めて目でそう告げた。

 感情が一切籠っていない機械のような声音に、言われた本人じゃないのになぜか背筋が凍ってしまった。


 多分、話を一方的に打ち切って立ち去ろうとしたら、俺が殴られそうになったから怒ってくれているんだろう。

 それで慌てて引き返してくれたのはありがたいんだけど、なぜか俺がビビってしまった。


「……なんでそんな他人行儀なんだ? 前は俺のこと、陽典ようすけさんって呼んでただろ……」


 へぇ~、今更だけど、この人、大須賀おおすが陽典ようすけっていうのか……。

 この人の名前なんてどうでもいいけど、知らないと不便だから一応覚えておこう。この件が片付くまでは――。


「他人だからですけど?」

「なに言ってんだ? 他人じゃないだろ?」


 まだそんなこと言ってんのか、この人……。

 さすがにドン引きなんですけど……。


 心底不思議って顔をしているが、いったいどういう思考回路をしていたらそんな疑問が湧いてくるんだ? お花畑というか、ご都合主義というか、頭の中どうなってんだろう……。


 灰咲さんはさっきまでタメ口だったのに、急に敬語になったから戸惑ってしまうのは、まあ、百歩譲って仕方ないと納得はできる。

 だけど、それが過去と決別し、他人としての線を引いたって合図なのを察することができないのは鈍すぎる。


 本当にもう灰咲さんがなにを言っても無駄なんだな、と思ってしまう。

 聞く耳を持たないっていうか、理解しようとしないというか、これ、どうやって片を付けたらいいんだろうか……?


 まるでゴールのない迷路を彷徨っているかのようだ。


「営業妨害です。お引き取りください」


 きっと灰咲さんも俺と同じ気持ちだったのだろう。

 大須賀の疑問に答えても堂々巡りになるだけだと思ったに違いない。

 無視して退店を促している。


「――だから! 話はまだ終わってないって! お前も一緒に帰るんだよ!!」


 またこれである。

 人の話を聞かない上に情緒不安定とか、癇癪かんしゃくを起こす子供かよ。


 灰咲さんも表には出さないようにしているけど、ダメだこいつ、と呆れ果てている心情が滲み出てきている。


 本当にこれ、どうしたらいいんだ……?


 途方に暮れるっていうのは、まさに今の状況を指すのだろうか?


 諦めさせる決定打でもあればいいんだけど、そんな手札持っていないしなぁ……。  

 そもそも、そんな物があるならとっくに手札を切っているし……。


「――お客様、お引き取りいただけないのでしたら、こちらも然るべき処置を取らせていただきますが、よろしいでしょうか?」


 ほとほと困り果てていると、背後から助け舟が出された。


 振り返ると、俺たちにとっては聞き慣れた声の持ち主である――店長の姿があった。

 まあ、これだけ騒いでいたら事務室にいた店長もさすがに気づくよな……。


「然るべき処置……?」


 反問する大須賀が怪訝な顔つきになる。


「警察を呼びます、と言っているのですよ」


 歩み寄って俺と灰咲さんを庇うように大須賀の前に悠然と躍り出た店長は、端的にそう告げた。


「なんで警察を呼ばれないといけないんだ……?」

「営業妨害ですから当然です」


 まだ自分の立場を理解していない大須賀に、店長は妙に耳に残る落ち着いた声色で事実を突きつける。


「あと、獅子原君を殴ったので暴行罪も付きます」


 すかさず灰咲さんが補足すると、店長が目を細めながら「ほぉ……」と呟いた。


 ぶっちゃけ、灰咲さんにとっては捕まってくれたほうが厄介事を片付けられて助かるんだろうなぁ。

 実際に彼女がそんなことを考えているかは俺の想像の域を出ないけど……。


「俺は別に気にしてないんで大丈夫ですよ。あまり大事にすると店のイメージにも関りますし……」

「いえ、ダメですよ。店員を守るが私の役目ですから」


 きっぱりと言い切る店長、かっこいいっす!


「とはいえ、大事にしたくないという彼の気持ちを尊重したいので、大人しくお引き取りいただけるのでしたら、今回は特別に見逃すことにしましょうかね」


 警察沙汰になると被害を受けた側も悪目立ちしてしまう。

 客商売である以上、イメージが悪くなってしまうのは避けたほうがいい。


 少なくとも、俺が灰咲さんの元カレに殴られそうになったくらいで警察を呼ぶのは気が引ける。

 灰咲さんに自分のせいで厄介事に巻き込んでしまったと思わせてしまうかもしれないから、余計に気が進まなかった。


 さすがにもっと酷い目にあったら警察を呼ぶけど、これくらいなら必要ない。

 営業妨害に関しては、俺じゃなくて店長が判断することだと思うから口を出すつもりはない。


「灰咲さんも、それで構わないかな?」


 店長がそう尋ねると、灰咲さんは「はい」と頷いた。


「そういうことなので、お引き取りいただけますか?」

「…………」


 さすがの大須賀も最終勧告だと察したのか、悔しげに押し黙った。

 懸命に返す言葉を探しているようにも見えるが、一向に口を開く気配がない。


「……くそっ、日を改める」


 渋々といった態度を隠しもせずにそう呟いた大須賀が踵を返した。

 スタスタと逃げるように去っていく。


 エスカレーターに乗って下の階へと消えていくのを眺めていた俺と灰咲さんは、完全に姿が見えなくなると深々と溜息を吐いた。


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