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ヤニ吸う彼女とナニをする?  作者: 雅鳳飛恋
幕間 ヤニ吸う彼女の独白

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第1話 独白

 元カレのもとから逃げて、約一年が経とうとしている。

 すっかり東京での生活にも慣れて、悠々自適な毎日を送っていた。


 心穏やかに過ごせるようになってから気づいたことだけれど、元カレと付き合っていた当時は感覚が麻痺していて自分がDVを受けている自覚がなかった。


 ある時、友達に「それ、DVじゃない?」と指摘されて初めて自覚したくらいだ。

 自分でおかしいと思わなかったくらいだから、大袈裟に言うと洗脳状態に近かったのかもしれない。


 DVを自覚してからは毎日が苦痛になった。

 自由を奪われ、人格を否定され、尊厳を踏み躙られているような環境だったから。


 今思えば、そんな環境に身を置いていたのに、なぜDVを受けていることに気がつかなかったのか不思議でならない。


 ――当時の私は本当にバカだったな……と呆れてしまう。


 今となっては失敗談として笑い話にできるくらいには精神的に余裕がある。――まあ、こんな重い話を気軽に口にすることはできないけれど……。


 東京に来てからもしばらくは元カレの呪縛に囚われて身が竦んでいた。

 でも、半年くらい経った頃に始めた書店のバイトが私を変えてくれた。


 シフトが被ることが多い年下の男の子と話すようになって、少しずつ呪縛が解かれていった。


 全てを地元に置いて東京に逃げて来たから、当然友達と言えるような存在はいない。

 優しかった元カレが豹変したのを目の当たりにしたことで、人には二面性があると知った。


 怖くて人間不信気味になっていた私は、話し相手が欲しくても自分から歩み寄ることができなかった。元カレへのトラウマから特に男性が苦手になってしまった。


 そんな中、シフトが被った時に年下の男の子が優しく話しかけてくれたのだ。


 最初は男の子ということもあり、身が竦んでしまった。

 同性でも苦手意識を持ってしまうのだから、異性だと必要以上に警戒してしまう。


 失礼な態度を取っているのに、私が他人と距離を置いているのを察してくれたのか、嫌な顔一つせずに適切な距離感を保ちながら接してくれた。


 深く踏み込むことはないけれど、突き放すこともない。

 その絶妙な距離感が当時の私には助かったし、嬉しかった。心が救われる思いだった。

 だから彼には本当に感謝している。


 お陰で彼には私から話しかけることができるようになった。

 ただ、他人と距離を置いて素っ気ない態度ばかり取っていた私のことをクールな人だと彼が思っているのには、おかしくて笑ってしまうけれど。


 元カレへの意趣返しが目的でクールなキャラを演じている部分はある。

 今となっては演じているというより、性に合っているから素になっている。


 なので、私のことをクールな人だと思っているのは間違ってはいない。

 間違ってはいないけれど、当時の私に対する印象としては勘違いということになる。


 でも結果的に勘違いが事実になったわけだから、彼の抱いた印象を笑うことはできない。

 もしかしたら、彼は私の本質を見抜いていたのかもしれない。

 むしろ、本質を見抜いていたからこそ、彼は適切な距離感を保つことができていたのかもしれない。


 そう思うとしっくりくる。

 自然と腑に落ちるほど、絶妙な距離感だった。


 彼なりに凄く気を遣ってくれていたんだと思う。

 実際はまったくの見当違いの可能性もあるけれど……。


 見当違いだとしたら、彼が私と接する時の立ち居振る舞いは天然でやっていたということになる。

 もしそうなら、人と接する際のバランス感覚に優れている証拠だ。天然物の人誑しとも言うかもしれない。


 そんな彼のお陰でメンタルが安定し、心穏やかに過ごせるようになった。

 しかし、やっと悠々自適に過ごせるようになり、東京での暮らしにも慣れてきたところで、また私の生活を脅かす事態が起こってしまう。


 最悪なことに、一方的に振った元カレが私のことを探しているらしい――と地元の友達が教えてくれたのだ。 


 見つからないように気をつけながら生活していたけれど、遂には家まで突き止められてしまった。自分の家なのに気軽に帰ることができなくなってしまった。


 穏やかな日常の崩壊だ。


 訪れた災厄に一瞬だけ途方に暮れてしまった。

 でも、せっかく手にした平穏を奪われたくなかったので、元カレなんかに負けてやるものか! と気を強く持って前を向いた。


 以前の私なら怯えて身が竦んでしまったかもしれない。

 立ち向かう気概を持てたのは、バイト仲間の彼が私の心を縛る呪縛を解き放ってくれたからなんだよね。


 本人はまったくそんなつもりはなかったと思う。私が勝手に救われたと思っているだけだから。


 ――前置きが長くなってしまった。


 私は今、恩人だと思っているバイト仲間の彼の家にいる。


 元カレに立ち向かってやる! とかっこいいことを言っておいて情けないけれど、結局、彼に頼ってしまった。


 先週の私は、自宅に帰れなくなって困っていた。

 そこでシフトが被っていた彼に、家に泊めてもらえないかと頼んだ。


 本当はネカフェかホテルにでも泊まる予定だった。

 でも一人にはなりたくなかったし、できれば節約もしたかった。


 なので、私が唯一頼れる彼に縋ってしまったのだ。

 それにこれは言い訳になってしまうけれど、過去の私は人に頼ることをしなかった。


 そのせいで元カレがDV男だったことに気づくのが遅れてしまったんだよね……。

 ただ、教訓にはなった。


 過去の失敗から学んだ私は、人に頼ることの大切さを知った。


 だから駄目で元々の精神で頼んでみたんだ。


 結果は今、私が彼の家にいる時点で察せられると思う。


 ――いやいや、頼んだのは先週の話だろ? ってツッコミが聞こえてきた気がする……。


 幻聴だよね?

 だって私は今、誰かと話しているわけじゃないし……。

 自分の気持ちを整理するために心の中で独白しているだけし……。


 幻聴のご指摘通り、ありがたいことに先週は泊めてもらった。

 そして図々しくも、また泊めてもらっている。


 自分でもなぜかはわからないけれど、彼にはつい甘えてしまう。


 彼の家にいると妙に落ち着くんだよね。――ううん、彼といると落ち着くって言ったほうが正しいかな?


 元カレに怯えていたのが嘘みたいに心穏やかに過ごせる。

 居心地のさが気に入ってしまい、つい泊めてとお願いしてしまった。


 泊めてもらうのは、元カレのせいで家に帰れないからだよ?


 いくら居心地がいいからって、恋人でもない男性の家に泊めてもらおうなんて思わない。やむを得ない事情があるからだ。


 そもそも一番居心地がいいのは自分の家だからね。

 自分の家に帰れないから、仕方なく自宅以外で一番居心地がいい場所を選んでいるにすぎない。


 いくら恋愛に懲り懲りしているとはいえ、私も一応女なので、男の人の家では完全に気を抜くことはできない。

 あまりだらしない姿を晒すのは女としてのプライドが許さないし、なによりも恥ずかしい。


 自宅にいる時のように脱力感満載で寛げないのは気疲れする。

 彼といると落ち着くとは言っても、熟年夫婦のようになんでも晒せるわけじゃない。


 あくまでも、友達として気を許しているだけ。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 ただ、私にとって貴重で大切な友達であることに変わりはない。


 友達だけど、どこか〝特別〟な人。

 それが私にとっての彼だ。


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