表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

第7話「戦場に香る料理人」

辺境の村を出発し、馬車は戦火の喧騒へ突入する――。

リオは「野戦隊専属料理人」として、初めて戦場の炊事場に足を踏み入れる。

限られた食材と熾き火、傷兵の呻き声。


スキル【料理】の力を問われる、第7話「戦場に香る料理人」、どうぞご覧ください。

 薄曇りの朝。村の大通りには見送りの人々が立ち並び、蹄の音が静かに響いた。リオは馬車に積まれた大鍋一式と食材箱を見渡し、深呼吸する。ロッタが涙目で手を振り、ミラがにこりと笑って最後の干し果実を差し出した。セリアは無言で背中を押し、旅商人のアランがにやりと頷いて同行を約束した。

「行ってこい、リオ。お前の一皿が戦場を変える」

 一言に、村の絆と期待の重みを感じながら、リオは馬車に身を委ねた。


 大地を駆ける馬車はやがて野戦陣営に到着した。木の柵と簡易テントが並ぶキャンプは、傷兵の呻き声と行き交う兵士たちで喧騒に満ちている。フレデリク大佐――背に十字の紋章を掲げた指揮官が、厳しい視線でリオを迎えた。

「これほど料理で人が変わるとは聞いたが、本当か?」

 大佐は煙が立ちのぼる炊事場を指し示す。そこには食材も水も限られ、兵士たちは疲労困憊の表情を見せていた。

「はい、大佐殿。全力を尽くします」

 リオは頭を下げ、すぐに鍋の準備に取りかかった。


 だが、野戦の炊事は村とは勝手が違った。乾ききった野菜は芯が硬く、保存の効いた干し肉は塩気が強すぎる。風と戦火の灰混じりの空気に、熾き火は何度も消えかけた。リオは苦心して薪を寄せ、〈素材魔素再構成+10%〉の魔力で野菜の内部に水分を補い、干し肉の塩分を和らげる工夫を施す。すると、鍋底に穏やかな煮え音が戻り、湯気は淡い甘みを帯び始めた。

「なるほど……!」

 周囲の炊事兵たちも驚きの声を上げる。リオは額に浮かんだ汗を拭い、再び火加減を調整した。


 正午、傷兵や兵士たちが列を作った。リオは木杓子で一杯ずつスープを注ぎ、兵士たちに手渡す。口に含んだ瞬間、硬い表情がほどけ、痛みが緩むように肩の力が抜けていく。野戦医のカトリーナが目を丸くし、近づいて声をかけた。

「これは……ただの滋養食ではない。疲労と痛みが和らいでいく!」

 〈潜在能力開放+30%〉の数値を胸に刻みながら、リオは静かに頷いた。兵士たちの笑顔が、戦場の緊張をひととき忘れさせる。


 夕暮れ、フレデリク大佐がリオを呼び出した。荷台から取り出されたのは羊皮の書類と筆記用具。

「リオ・ガルド――正式に貴様を『野戦隊専属料理人』と認めよう。次は移動炊事も含め、前線全体を支える頼みだ」

 軍の命令書にサインをするリオ。震える指先で文字を結ぶたび、心に新たな責任が刻まれていく。

「承知しました、大佐殿」


 視線を上げると、遠くの灰色の塹壕が夕陽に照らされて黒い影を伸ばしていた。大きな戦火の中で、リオの鍋から立ちのぼる湯気は、一筋の希望の灯りのように、静かに夜空へ溶けていった。

お読みいただき、ありがとうございます!

リオは戦火の中で、鍋一つが生む“癒し”を証明しました。


次回、第8話では――

大佐の期待を背に、前線を渡り歩くリオの奮闘をお届けします。


感想やご意見をお待ちしております。

第8話でまたお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ