第4話「辺境の小さな厨房」
壊れた空き家に、小さな「食堂」が芽吹く――。
材料を集め、道具を整え、村人や騎士団の支援を得て、
リオは辺境の厨房を本格始動させる。
みんなの手と想いが紡ぐ、一歩目の熱気を感じてください。
第4話「辺境の小さな厨房」、どうぞご覧ください。
夜明け前の冷気が、ひび割れた壁の隙間から忍び込む。リオはかまどに火を入れ、静かに薪がはぜる音を聞いた。灰に埋もれた石がほんのり赤みを帯びると、彼は深呼吸をひとつ──「俺の料理は、もう“生き延びるだけ”のものじゃない」 そう決意を固め、初心者用の革袋を肩にかけた。
まずは材料の確保だ。セリアから譲り受けた小さなレシピ帳を胸ポケットに忍ばせ、リオは村の小道を歩く。最初に向かったのは、村はずれの小川。冷たい水を汲み、革袋に満たすと、次は林へ入った。枯れ枝を集めつつ、道中で見つけた野生のキノコ数種と、薮で赤く実ったベリーを摘み取る。「これでスープに風味が加わるはずだ」 独り言を呟きながら、森を抜けて再び村へと足を運んだ。
村に戻ると、ロッタが先に待っていて──「お兄ちゃん、こっち!」 と手招きする。彼に案内され向かった先には、鍛冶屋の大きな木戸があった。「こちらが、村で鍛冶屋を営むご夫妻と、その娘のミラです」 ロッタは笑顔で紹介した。ご夫妻はリオの様子を見てにこりと笑い、ミラも少し恥ずかしそうに会釈する。リオが壊れたフライパンと丈夫そうな鉄製の器具を差し出すと、快く貸し出してくれた。代わりに彼は、自作した簡易看板――「食堂リオ」の文字を紙にしたためて手渡す。「これを村長さんに見せてごらん。許可が下りれば、正式な厨房になるよ」 ご夫妻とミラの言葉に背中を押され、リオは重い扉を押し開け、村長宅へと足を運んだ。
村長は白髭を揺らしながら看板に目を留め、やや驚いた表情を浮かべた。話を聞けば、騎士団も認めた公式炊事場になるという。許可はあっけないほどに早かった。「……よし。ならばここを“食堂リオ”として、週に一度は騎士団にも供給してくれたまえ」 握手を交わし、リオの胸に小さな誇りが灯る。
戻ると、ロッタやミラ、ご夫妻が手伝いに集まっていた。壊れた窓枠を外し、古材で作った作業台を運び込む。石積みをしたかまど周りには、耐火レンガの代わりに厚めの石を並べ直す。皆無言ながら、その手つきには真剣さが宿っている。たまにロッタがはしゃいで木くずを掃き出し、ミラが笑いながら釘を打つ。「ありがとう。ここなら、きっともっと美味い料理が作れる」 リオは心から感謝を噛みしめた。
午後には、簡易テーブルと椅子を並べ、いよいよ試運転だ。セリアも装備を整えて駆けつけ、ミラが焼いたパンと新鮮なベリーを添えた一皿を並べる。リオは深呼吸して、最初の一口を差し出した。「どうぞ……」 セリアが口に含むと、頬がほころび、瞳が一瞬だけ柔らかく輝く。――〈潜在能力開放+10%〉 その数字はリオだけに見えたが、セリアの表情には満足が滲んでいた。ミラもロッタも、ご夫妻も皆笑顔で頷く。辺境の小さな厨房は、ここに息を吹き返した。
日が傾くころ、遠くの山陰から低い太鼓の音が響いてきた。村の収穫祭が近い合図──だが、同時に援軍や物資輸送隊の到着をも示している。セリアはリオに視線を送る。「次は大勢に振る舞う番だな」 リオは鍋の蓋をそっと閉じながら、鋭く頷いた。「ええ、もっと大きな厨房に向けて、今からレシピを考えます」
こうして、辺境の小さな厨房は、やがて村と騎士団をつなぐ“命の食堂”へと成長の一歩を踏み出したのだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
リオの小さな厨房は、村人やセリア、鍛冶屋のご夫妻に支えられてついに形を得ました。
笑顔の花咲く試運転は大成功――しかし遠くから聞こえる太鼓の音は、
新たな依頼と大勢への挑戦を予告しています。