第19話「星海に輝く氷珠の森への誘い」
星が瞬く漆黒の海――その名も「星海」。
リオはそりを駆り、凍てつく氷面を進みながら、
星海魚と氷珠茸、星藻、幻獣油という奇跡の食材を手にする。
星の欠片のように輝く氷の森には、祖霊が宿ると伝わる。
静謐な洞窟で響く「ツンツン」「パチパチ」「ゴーン」という音とともに、
一皿の蒸し料理が星の光を呼び覚ます――。
第19話「星海に輝く氷珠の森への誘い」、どうぞご覧ください。
夜空に無数の星が「キラキラ」と瞬く中、リオはそりを駆って星海へと歩を進めた。そりの軋む音「ギュリギュリ」が凍てつく氷海に反響し、頬を撫でる風は「ヒューッ」と鋭く、吐息はすぐ「チリチリ」と凍りつく。足下の氷面は「キリリ」と冷たく硬く、漆黒の海面は星の輝きを映し出し、まるで宇宙を漂うようだった。
やがて目の前に「星海の入り口」と刻まれた氷の門が現れた。月明かりに照らされた門は薄く「パキッ」と氷割れの小さな音を立て、リオを迎えた。震える手で包丁を握り締め、彼は心を定めた。「星海でも、人々をつなぐ料理を届ける――」。
小さな漁村の倉庫前に立つと、棚には星海魚の干物、青白く光る氷珠茸、夜の暗闇でひそかに輝く星藻が所狭しと並んでいる。星海の漁師は筏に立ちながら網を引き上げ、「ギュイーン」と滑らかな音を響かせる。彼は誇らしげに言った。
「星海魚は氷下で旨味が凝縮される」
隣で氷珠採取師が手にした氷珠茸を「コロコロ」と転がし、「一晩凍らせると甘みが宝石のように際立つ」と説明する。さらに、氷珠茸を研磨する老人が「このままでは氷珠も減ってしまう」と呟き、厳しく激減する環境を暗示した。薬師は星藻をそっと「ペタッ」と触り、「星の光を宿すこの海藻は、体を温める」と語り、ガサガサと冷たい感触を伝えた。
漁村長が凍てつく息を白く吐きながら近づき、一言告げた。
「この地では、星海魚が命を支え、氷珠茸は宝石の甘みを、星藻は祈りと癒しをもたらす。氷珠の森には祖霊が宿ると伝えられている」
長老の氷珠守りは静かに頷き、「夜空の星が氷の森に宿るとき、奇跡が起きる」と重ねた。若い漁師は唇を震わせ、「嵐が続けば海は凍り、食料が閉ざされる。星海魚の群れも減少している」と憂い、小柄な船大工が「潮流が変わると船も動けなくなる」と付け加えた。漁村の厳しさと信仰の深さが、リオの胸に深く刻まれた。
リオは深く息を吸い込み、星海魚、氷珠茸、星藻、幻獣油の価値と祈りの意味を胸に刻んだ。「ここでも祈りと命をつなぐ一皿を――」と心で誓い、調理のイメージを静かに膨らませた。
氷珠の森近くの洞窟かまどを借り、リオは手早く試作に取りかかった。まず、星海魚の切り身を〈素材魔素再構成+85%〉で下茹でし、“ジュワッ”と湯気を立たせ、氷下で育まれた澄んだ旨味を引き出す。淡い蒼の湯気がゆらめき、細かな光を映した。
次に、氷珠茸を「コロコロ」と鍋底に並べ、一度凍らせたことで甘みが宝石のように際立つ。鍋肌には星藻を「サラサラ」と散らし、凛とした清涼感を加えた。最後に幻獣油を「シューッ」と垂らすと、銀色の艶が鍋に広がる。
仕上げに氷下魚スープを注ぎ込むと、「ジュワッ」と強い蒸気が立ち、深い海の記憶が呼び覚まされた。洞窟の暗闇に、淡い蒼い湯気が漂い、リオの胸の鼓動を高鳴らせた。
初めての味見では、薬師が「ジュッ」という音を聴きつつ匙を静かに置き、首を振った。
「氷珠茸の甘みが強すぎる。星海魚の繊細な旨味が埋もれる」
リオの胸に、幼い頃、母と星空を見ながら鍋を囲んだ温かな記憶がかすかに蘇り、「また試される恐怖」が胸を締めつけた。しかしすぐに鍋へ視線を返し、彼は深く息を吸って気持ちを切り替える。氷珠茸を控えめに減らし、星海魚の旨味をより際立たせる。星藻をわずかに増やし、蒸し時間を短縮して再度火にかけた。
改めて湯気が「ジュワッ」「シューッ」「コロコロ」「キラキラ」と調和の音を立てると、星藻の清涼感と星海魚の深い旨味が溶け合い、氷珠茸の甘みが耳元で「キラキラ」と輝くかのように響いた。一口味わったリオは、静かに頷き、目を閉じて呟いた。
「これこそ、星海の奇跡だ」
日が傾き、氷珠の森の洞窟では「祈りの宴」が静かに幕を開けていた。巨大な氷柱が「ツンツン」と天井から垂れ下がり、足元の凍りついた星珠が「パチパチ」と踏むたびに音を立てる。洞窟内は星海が反射するかすかな光で「キラキラ」と揺らめき、星藻の青白い蒼が氷壁に映える。祈りの鐘の「ゴーン」という音が静謐を支配し、すべてを凜とさせた。
リオは大鍋をふたりがかりで運び込み、「星海魚と氷珠茸の星藻蒸し」を中央の石台に据えた。蓋を外すと、湯気が「ジュワッ」と立ち上り、星藻の清涼感と幻獣油の甘みが混ざり合った香りが洞窟内を満たした。村長が鈴を「チン」と鳴らし、漁村民たちは静かに箸を手にした。
村長がしずしずと一口含み、目を閉じてつぶやいた。
「まるで星々が口の中で煌めくようだ」
隣の星海の漁師は声を震わせながら言った。
「この蒸し物があれば、どんな絶望も越えられる」
薬師は目尻を下げ、「星藻の清涼感が体を芯から温める」と頷き、氷珠採取師は「氷珠茸の甘みが奇跡を感じさせる」と静かに微笑んだ。老漁師は鍋の蓋をそっと閉じ、「次は星海魚の干し身と星藻の出汁で夜明けの宴を」と祈りを込め、星海船大工は「船を修理し、宴を準備せよ」と一言添えた。場内には感動の息遣いが広がり、洞窟内を包む「キラキラ」「パチパチ」「ツンツン」という氷の音が祈りと喜びを一皿に宿し、凍える世界に温かな灯火をともした。
饗応が静かに終わりを迎えるころ、リオは洞窟を出て夜空を仰いだ。星海を覆う闇は深く、漁村の外では「ビュオオオオ」という猛吹雪の轟音が迫り、視界は「チラチラ」と宙を舞う星珠に覆われた。一瞬「パッ」と白い帯が暗闇を裂き、その白い帯がまるで氷の刃のように夜空を切り裂くと、世界は一瞬静寂に包まれた。頬に当たる雪片の痛み「チリチリ」が、リオの感覚を研ぎ澄ませた。
漁村長が杖をつきながら近づき、凍った息を吐きつつ低く告げた。
「この吹雪が過ぎれば、星海はさらに凍結し、洞窟の出口も塞がれるかもしれぬ。備えを怠るな」
その背後で、氷珠守りの長老が銀縁の羊皮紙の書状を差し出した。「カサッ」「クシャッ」という音が洞窟の残響に混ざり、洞窟内の空気は一瞬止まったかのように静まり返った。リオは凹凸の紋章をひんやりと手に感じ、銀箔の淡い煌めきを目で追った。書状にはこう記されている。
「星海を北へ進み、極夜の果てに息づく“黎明の灯”を探せ」
正式指令として精緻な署名が施され、リオは包丁を握り直した。猛吹雪の痛みを頬で確かめながら顎をわずかに上げ、鼓動は早鐘のように鳴り響く。胸の奥で覚悟が新たに燃え立った。
「極北の星海の果てでも、料理で人々をつなぎ、命を紡ぐ旅は続く」
その言葉を胸に刻み、リオはそりへと歩み出した。背中には、砂漠・高嶺・氷原・深氷の海・星海で培った知恵と覚悟が漆黒の闇で燦然と揺らめいていた。
お読みいただき、ありがとうございました!
リオは星海で、星海魚と氷珠茸、星藻、幻獣油を融合させた
「星海魚と氷珠茸の星藻蒸し」を届けることで、
漆黒の凍える星海に希望の灯をともしました。
「星々が口の中で煌めくようだ」――漁村民たちの言葉が示すのは、
一皿に宿る祈りと絆の力です。
しかし洞窟を包む猛吹雪と、書状に記された「黎明の灯」への指令は、
リオをさらに北へ導く――。
次回、第20話では――
星海の遥か先、極夜の果てに眠る“黎明の灯”を探し、
リオは再び氷の大海原を越える。
命を紡ぐ料理が、新たな奇跡を刻むでしょう。
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第20話でまたお会いしましょう。