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第18話「深氷の海に揺れる蒼い希望」

深氷の海――白銀の世界に包まれた漁村に、リオはそりを駆って降り立つ。

凍りつく湾の砕氷船の轟音と、頬を刺す凍風に包まれながら、

彼は深氷魚や極寒鹿肉、氷結貝、幻獣油といった食材を手に取る。


酒精のない蒼白い世界でこそ、ひと鍋の温もりが人々をつなぎ、

厳冬の希望となる――。


古い倉庫で響く「ポタポタ」という氷滴と、

「キシャン」「パチパチ」という音の交錯が、

「幻氷海の魚と氷結貝の薬油鍋」を一層神秘的に彩る。


命をつなぐ一皿は、吹雪の向こうに「星海の果て」を示す――。


第18話「深氷の海に揺れる蒼い希望」、どうぞご覧ください。

 白銀の氷床を切り裂く“ガリガリ”というそりの軋む音が響く。リオはそりから降り立ち、「キュッ」と凍りついた砂利を踏みしめた。視界には一面の蒼白い海氷が広がり、遠くでは砕氷船が「ゴゴゴゴ」と氷を割って進む。頬を刺す「ヒューッ」という凍風に、吐息はすぐ「パチパチ」と凍りつき、凍てつく世界が全身を包み込んでいた。


 到着した漁村の入口には、海氷で作られた波のレリーフが浮かび上がり、「深氷の海へようこそ」と冷たい文字が刻まれている。薄暮の光でレリーフがわずかに輝く中、「カサッ」という裂けるような書状の音がリオの耳に残った。震える手で包丁を握り締め、「ここでも料理で人々を支える」と心を定める。


 漁港の倉庫に足を運ぶと、棚には深氷魚の干物、極寒鹿の干し肉、青緑に光る海氷藻、氷結貝の干貝が並んでいる。氷上漁師は筏の上で氷を「カツカツ」と割りながら、「深氷魚は氷下で旨味が凝縮する」と誇らしげに言った。リオは頷きつつ、棚の海氷藻を薬師に促されて「ペタッ」と指先で触れる。ひんやりとしたガサガサ感が伝わり、「ビタミンとミネラルが豊富」と薬師が説明。この海氷藻は少量でも体に力を与える。


 漁村長が凍てつく息を白く吐きながら近づき、「冬の嵐は命取りだ。深氷魚は旨味が鮮烈、極寒鹿肉は赤身の甘みが強い。氷結貝は潮の香りをそのまま閉じ込める」と簡潔に告げた。老漁師は朽ちかけたオオカミの骨を手に取り、「幻獣油はシューッと甘みを立たせ、凍える体を温めるが、見つけるのは至難だ」と低く語る。近くの若い氷下漁師は「昨夜の嵐で網が壊れ、食料はあとわずか」と肩をすくめた。海氷貝採取師の女性が潮風に髪をなびかせながら、「潮の流れが変わり、氷結貝の数が減っている」とつぶやく。氷下漁師の仲間が「魚の群れも減少傾向」と口を挟み、漁村の切迫感が一層高まる。


 リオは深氷魚、極寒鹿肉、氷結貝、海氷藻、幻獣油の価値を胸に刻み、「ここでも命をつなぐ一皿を」と構想を固めた。


 漁港そばの倉庫奥にある簡易な石窯を借り、リオは試作に取りかかる。まず、深氷魚の切り身を〈素材魔素再構成+80%〉でゆっくり下茹でし、氷下で育まれた魚の澄んだ旨味を引き出す。続いて氷結貝を軽く蒸し、“ジュワッ”という潮の香りが立ち上れば、鍋底に海氷藻を「サラサラ」と敷き込む。凛とした清涼感が加わり、幻獣油を「シューッ」と垂らすと、銀色の艶が鍋肌を滑っていく。


 仕上げに氷下魚スープを注ぐと、“ジュワッ”と強い蒸気が立ち、深い海の記憶が呼び覚まされた。寒風を背に、鍋から立ち上る湯気を見るたび、リオの心は鼓動とともに高まっていく。


 初回の味見では、医師の薬師が静かに匙を置いて首を振った。

「油が重すぎる。体が冷える」


 リオの胸に、幼い頃に暖炉のそばで母が差し出した鍋の温かい記憶がかすかに蘇り、「また利用されるのでは」という恐怖が胸を締めつける。しかしすぐに視線を鍋に戻し、深く息を吸い込んだ。油の量を大幅に減らし、氷下魚スープを増量する。氷結貝の身を取り出して具材ごとに煮込み時間を調整し、再度火にかける。石窯の余熱が“ジュワッ”と湯気を立たせ、肉の甘みと魚の旨味、海氷藻のほのかな清涼感が溶け合った。


 やがて湯気は淡い蒼色を帯び、リオが深呼吸して一口味わうと、まるで蒼いオーロラが口の中で舞うかのような深い余韻が喉の奥まで広がった。リオはそれを確かめるように唇を震わせて呟いた。

「これこそ北方の希望だ」


 日が傾き、漁港の古い倉庫では「蒼の調べ祭り」が静かに幕を開けた。扉が開かれると、「キシャン」という氷を踏む音とともに青白い光が漏れ、内部は幽玄な蒼に包まれる。天井から垂れる氷滴が「ポタポタ」と静かに響き、やがて「ポタ…ポタ…」と鼓動のように高まり、古い木箱の上のかがり火が「パチパチ」と揺れて凛とした寒気を和らげた。


 リオは大鍋を二人がかりで運び出し、「幻氷海の魚と氷結貝の薬油鍋」を床に据えた。蓋を外すと、湯気が“ジュワッ”と立ち上り、海氷藻の清涼感と幻獣油の甘みが混ざり合った香りが倉庫内に満ちる。村人たちはその香りに息を飲み、しばし静寂が支配した。


 漁村長が杖をついてゆっくり近づき、一口含むと目を閉じてつぶやいた。

「まるで蒼い夜空に浮かぶ光の粒が口の中で踊るようだ」


 隣の氷下漁師の若者は震える声で言った。

「これで厳しい冬も乗り越えられる」


 医師の薬師は目尻を下げ、「心臓まで温まる」と頷き、海氷貝採取師の女性は、かすかに笑みを浮かべながら「潮の旨味が深く染みる」とつぶやいた。老猟師は鍋の蓋をそっと閉じ、「次は氷結貝の塩焼きも頼むぞ」と穏やかに言い、場内に和やかな笑顔が広がる。遠くで、子供たちは「おかわり、おかわり」と歓声を上げ、橙色のかがり火が蒼い氷壁に温かな光を投げかけていた。凍りつく漁港の倉庫に、一皿の温もりがゆっくりと広がっていく。


 饗応が静かに終わるころ、リオは倉庫を出て夜空を見上げた。漁港の外では「ビュオオオオ」という猛吹雪の轟音が迫り、視界は「チラチラ」と雪片に覆われ、一瞬「パッ」と白い帯が夜の闇を裂いた。その白い帯が暗闇に飲まれる一瞬、世界は静寂に包まれた。


 漁師の長老が杖をつきながら近づき、息を切らしつつ低く語る。

「この吹雪が過ぎれば、船は凍結し、交易路は閉ざされる。備えを怠るな」


 背後で漁村長が銀縁で縁取られた羊皮紙の書状を差し出すと、「カサッ」という乾いた音が響き渡った。触れると、凹凸ある紋章がひんやりと手に伝わり、銀箔が淡く光を反射した。書状を広げると「クシャッ」と羊皮紙が折れる音がし、その文字には「極北の星海を越えた先、氷原の果てに氷珠の森がある。その珠から滴る雫は奇跡を招く」と記され、北極海近くへの正式指令として精緻な署名が添えられていた。


 リオは包丁を握り直し、猛吹雪の痛みを頬で感じながら顎をわずかに上げた。鼓動は早鐘のように鳴り響き、胸の奥で覚悟が新たに燃え立った。

「極北の星海の果てでも、料理で人々をつなぎ、命を紡ぐ旅は続く」


 その言葉を胸に刻み、リオはそりへと歩み出した。背中には、砂漠・高嶺・氷原・深氷の海で培った知恵と覚悟が蒼い闇の中で燦然と揺らめいていた。

お読みいただき、ありがとうございました!


リオは深氷の海で、極寒の漁村を支えるべく、

深氷魚や氷結貝、幻獣油を組み合わせた「薬油鍋」で、

凍える心と体に温もりを届けました。


氷下漁師の「これで冬を越えられる」という言葉と、

かすかな光を放つ蒼い湯気が示すのは、

「ひと皿に宿る希望」の力です。


しかし、猛吹雪が迫ると同時に届いた書状は、

新たな旅路――「極北の星海の果て」への道を告げています。


次回、第19話では――

凍てつく夜空に浮かぶ星々を追って、

リオは星海を越え、“氷珠の森”へ挑みます。

命をつなぐ料理は、やがてどんな奇跡を運ぶのか……。


ご感想やご意見をお寄せください。

第19話でまたお会いしましょう。

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