第10話「王都の門をくぐる一皿」
城壁の冷気が、熱砂の記憶をかき消す――。
馬車は石造りの大門をくぐり、王都の威容を前にリオは息を呑む。
許可証の差し戻しトラブルを乗り越え、
水路技師や錬金術師と協力して仮設厨房を設営。
中央の役人たちを魅了した一杯が、
宮廷への招待状を導く。
第10話「王都の門をくぐる一皿」、どうぞご覧ください。
灼熱の砂丘を越えた馬車が、ひび割れた石畳の城門前に着地した。鈍い鋼鉄の扉をくぐると、コバルトブルーの空を背に巨大な城壁がそびえ立つ。熱に燻った皮膚に、石の冷気がふわりと届いた。
「これが……王都か」
リオはひそりと呟き、大鍋を荷台から降ろした。
手続きを司る官吏が並ぶ長い列に加わる。書類を受け取った役人が、眉をひそめて目を細めた。
「氏名と任命書の押印が一致しませんな……」
リオの申請書の日付が一文字消えかかっていた。列を後ろに戻され、顔が熱く灼けるようだった。
ノアが身を乗り出し、役人に訂正を依頼すると、カトリーナも小声で励ます。数分後、朱色の紋章が押された書類が返却された。
「王都炊事許可証、承認」
胸に許可証を当てると、肩の重さがすっと軽くなり、胸の奥の鈍い痛みが消えたようだった。
許可証を胸に握りしめ、郊外の広場へ足を運ぶ。そこでは仮設炊事場の組み立てが進んでいた。
「リオ殿、ここをお使いください」
水路工夫係の技術者が、一時的に引かれた導水管を指さす。
隣では錬金術師助手が大鍋の縁に耐熱強化材を塗り込み、ひと言つぶやいた。
「これで亀裂にも耐えられるはずです」
リオは深く頭を下げ、持参の水を〈素材魔素再構成+25%〉で精製した。水は艶やかな光を帯び、鍋に注がれると煌めいた。
準備が整うと、中堅の役人五名が試食会のために到着した。リオは木杓子でスープを掬い、器に注いでいく。
保健官:「疲労が一気に抜け、頭が冴える……まるで目覚めたようだ」〈潜在能力開放+45%〉
財務官:「このコストで得られる価値は計り知れぬ。国家資産として活用すべきだ」
文化官:「味の調和が見事。五つの元素がひとつになっている」
防衛官:「兵士の士気が上がる。戦略的にも重要な一杯だ」
医務官:「栄養素のバランスが理想的。身体にすっと染み渡る」
場は拍手に包まれ、最後に筆頭役人が重々しく告げた。
「宮廷にお招きしたい。正式に宮廷厨房をご覧いただければ幸いです」
夕暮れの光が王都の塔を朱く染める。リオは役人から「王宮厨房見学招待状」を手渡され、ノアとカトリーナの祝福を受けた。
城壁の向こうにそびえる王宮の尖塔が、緋色の空を背景に神々しく浮かび上がる。リオは紙を胸に当て、静かに息を飲んだ。
「この一皿が、王の舌にも届くだろうか――」
鼓動が高鳴る中、リオは王都の大通りへと一歩を踏み出した。
お読みいただき、ありがとうございます!
リオの一皿は、王都の繁栄を象徴する高官たちの舌をも捉え、
正式に宮廷厨房への扉を開きました。
次回、第11話では――
王宮の厨房へ招かれたリオが、初めての宮廷空間で腕を振るう様子をお届けします。
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第11話でまたお会いしましょう。