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召喚無双の最強暴君(ティラノサウルス)  作者: 月光壁虎
ティラノサウルス召喚!
9/43

古の牙

 食堂を後にしたオレは、その足で実験室に向かった。


「失礼しまーす」


 ギギギ……と軋む音を立てて扉を開けると、薄暗い室内に怪しげな魔道具と毒々しい色の薬品が並ぶ棚が目に入る。


「いつ来ても不気味な部屋だよな……」


「――ここはお化け屋敷などではないのだが」

「うわあっ!?」


 突然かけられた怪しげな声に、慌てて後ろを振り返ると、ケタケタと笑うラホール先生がいた。


「なんだ、ラホール先生じゃないですか……。驚かさないでくださいよ」

「これは失礼した。時にスタン・レクシー君、古の召喚獣を見せてもらえるのだな?」


 やけにワクワクした様子のラホール先生に、オレは少し戸惑いながら頷く。


「そのためにここまで来たんじゃないですか」

「それもそうだな」

「じゃあいきますよ。――我、汝を呼び求む。時空を超えて我が呼び声を聞け。古の暴君よ、顕現せよ」


 オレの詠唱とともに、右手の紋章が怪しく輝き、魔法陣からジータが出現した。


「ギャーオ!」


「こちらが古の召喚獣、ティラノサウルスのジータです。……ラホール先生?」


 オレが紹介するなり、ラホール先生はジータを舐めるように観察し始める。


「ほうほう、これが古の召喚獣とやらか。……しかし妙だな、ずいぶん小さく見えるが……」


「ガウガッ!」

『我とて好きでこの姿に甘んじているわけではない!』


 するとジータが怒って、ラホール先生の手に噛みついた。


「ちょっ、ジータ!? ダメじゃないかそんなことしちゃあ!! ――すいません、ラホール先生!」


『放せ貴様! この女が我を愚弄したのだぞ!?』


 ジタバタと暴れるジータを引き剥がしながらオレが謝ると、ラホール先生は高らかに笑う。


「アッハッハ! よいのだよ、これも貴重な体験だ。……それよりも、だ」


 そう言って、ラホール先生は改まったように話題を切り替えた。


「その召喚獣、ジータをもっと強くしたくないか? 魔道具によれば、そいつの力はこんなものではないはずだ」


「なっ!?」


「コガッ!?」


 ラホール先生に看破され、オレとジータは目を見開く。

 これが縮んだ姿だって、まだ話してないよな……?


「どうしてそれを……?」

「なーに、先ほど測定した魔力量からして、ジータがとてつもない力を秘めていることは分かってる。ただ、スタン・レクシー君、キミはまだそれを引き出せていないんだ」


「……当たりです、ラホール先生」


 まさかそんなことまでお見通しだったなんて。


 唖然とするオレに、ラホール先生は懐から何かを取り出す。


 ……何かの牙みたいな……石?

 どこかで見覚えがあるような……。


「それは?」

「古竜の化石だ。恐らくそちらのティラノサウルスのものだろう」

「ジータと同じ種族の牙、ということですか?」

「そうだ。竜の身体の一部というものは、絶大な魔力を持っているのが定説だ。たとえ石になっていようとな」


 そう言ってラホール先生は、ホイッとそれをオレに投げ渡した。


「おっと!」


 慌ててキャッチすると、確かにそれはティラノサウルスの牙の形そのものだった。


「本当にこんなもの、もらっていいんですか?」

「ああ、もちろんさ。この薄暗い実験室で埃を被るより、キミが持っていた方が牙も喜ぶだろう」

「そうですか……それではありがたくいただきますね。失礼しました」


 実験室を出たオレは、手の中の化石を見つめながら歩く。


「なんか、とんでもないものをもらっちゃった気がする……」


 石になってなお、その鋭さと頑強さを保つ牙の美しさに、オレはすっかり目を奪われていた。


『ふんっ、そんなものに何の価値があるというのだ』


 後ろからついてくるジータが口を尖らせるも、オレは気にならない。


「コガッ!」

『聞いているのか、貴様っ』


 次の瞬間、ジータに尻を噛まれた。


「痛っ! 何するんだ!?」

『ふんっ、古びた牙などに目を奪われるからだ』

「……まさか、妬いてるのか?」

『うるさいっ、たわけが!』


 ムキになったジータがオレを追い越し、窓の外に目を向ける。


『あやつは先の氷結娘か』

「氷結娘って……シルヴィアのことか?」


 オレも窓を覗くと、校庭でシルヴィアがワイズと何かしているのが見えた。


「何だ?」


 気になって校庭へ向かうと、シルヴィアがワイズに吹雪の指示をしている。


「ワイズ、もっとですわ!」


「ポッホーウ!!」


 ワイズは羽ばたきを強め、猛烈な吹雪を一帯に巻き起こした。


「それでは足りませんわ! もっと、もっと強く!!」


「ポッホーウ!」


 ワイズがさらに吹雪を強めた瞬間、突風がシルヴィアのスカートを煽る。


「きゃあっ!?」


「うわっ!?」


 慌ててオレが目をそらそうとした拍子に、めくれたスカートの奥、白いタイツに包まれた引き締まった太ももがチラリと――


「スタンくん!? ……見ましたわね?」

「いやいや、見てねえって!?」


 スカートを押さえて真っ赤になるシルヴィアに、オレは必死で弁明しつつ話題を変える。


「それでさシルヴィア、今こんなこと聞くのは変かもしれねえけど、何してたんだ?」


 オレが控えめに問いかけると、シルヴィアは少しうつむいて答えた。


「特訓ですわ。……もっと強くなりたいんですの」

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