氷の翼
高らかに声を上げた白いフクロウの召喚獣を、シルヴィアは腕に留める。
「こちらはわたくしの召喚獣、雪梟のワイズですわ」
「ポッホーウ!」
シルヴィアに紹介され、誇らしげに羽を膨らませるワイズ。
オレは鼻で笑う。
「なんだ、ただの鳥じゃねーか」
『あのような小癪なもの、恐れるに足らん』
ジータも余裕綽々な態度だった。
だが、シルヴィアは自信満々に微笑む。
「あら、見た目で侮っていただいては困りますわよ。ワイズ、雪崩の降下!」
「ポッホーウ!」
次の瞬間、ワイズが急降下。目にも止まらぬ速さでジータに突進した。
「――ガァッ!!」
衝撃が地面を揺らし、砂埃が巻き上がる。
「ジータ!」
オレが声を張るも、砂埃の向こうでジータはよろめきながら立ち上がる。
『……くっ、この速度……!』
ジータの鱗には細かい氷の結晶が張り付き、吐く息は白い。
「二人ともバカね!」
スカーレットが腕を組んで呆れたように言う。
「シルヴィアの召喚獣は、アタシのドレイクに匹敵する強さよ!?」
「マジかよ!?」
オレは思わず叫ぶ。
「ワイズの力は、これだけではございませんわよ!」
シルヴィアは優雅に指を振る。
「ワイズ、極寒の吹雪!」
「ポッホーウ!」
ワイズが翼を大きく広げ、強烈な吹雪を巻き起こす。
「クグゥッ!」
「ううっ!」
視界が真っ白になり、冷気が肌を切り裂くように襲いかかる。
ジータは吹雪の中で目を細めながら、無理やり足を踏み出した。
『チッ……! このままでは――』
ジータが低く唸る。
その表情は明らかに焦りを含んでいた。
「ジータ! 空の相手にはブレス攻撃が有効だろ!?」
『ブレス……? 何だそれは』
――まさかの知らない!?
「昨日レッドドラゴンが火を吹いてただろ! あれだよ!」
『それは無理だ!』
「即答かよ!」
オレが頭を抱えている間に、シルヴィアは勝利を確信したように指を差す。
「期待していましたのに、がっかりですわ。……終わりにしましょう、ワイズ。氷結の矢!」
「ポッホーウ!」
ワイズの背後に魔力の弓が浮かび、その身が鋭い矢となって突っ込んできた。
「ジータ――!」
オレの叫びと同時に、ジータが獰猛に口角を吊り上げた。
『……ふん、近接戦ならこちらのものよ!』
ジータは吹雪の中で身を沈め、一気に跳躍した。
「ギャォォ――ッ!」
次の瞬間、矢となったワイズとジータが激突。凍気と風圧が荒れ狂う。
「ううっ……!」
オレは寒さに体を縮こませながら、必死に目を凝らす。
――そして、吹雪が止んだとき。
「ポ……ホ……」
ジータがワイズの胴をがっぷりと噛み締め、地面へ叩きつけていた。
「な、なんということ!?」
シルヴィアが息を呑む。
ジータはそのままワイズを踏みつけると、満足げに鼻を鳴らした。
『ふん、ようやく捕えた』
「勝負アリね」
スカーレットが誇らしげに腕を組む。
「信じられませんわ……!」
シルヴィアは肩を落とし、傷ついたワイズをそっと抱き上げる。
「よく頑張りましたわ、ワイズ……」
優しく囁くと、ワイズは静かに魔法陣に吸い込まれ、姿を消した。
シルヴィアはゆっくりと立ち上がると、オレへと手を差し出す。
「あなたがレッドドラゴンを破ったという話は、本当だったようですわね」
「まあな」
オレがその手を握ろうとした――その瞬間。
視界が揺れ、足元がふらつく。
「おっと――」
バランスを崩したオレは、そのままシルヴィアに倒れ込んだ。
「まあっ!?」
しなやかな肢体がオレを受け止め、甘い香りが鼻をくすぐる。
「まったく……仕方ありませんわね」
柔らかな感触を確かめる間もなく、オレの意識は闇へと沈んだ――。