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再契約と事の顛末

 全てが終わりを告げた直後、ジータがふらつく足取りでこちらに向き直る。


「ドゥルルルルル……」


 穏やかな唸り声。

 頭に直接届く声はまだ戻っていない。

 けれど、ジータのその瞳に浮かんでいるのは、怒りでも狂気でもない、確かに“感謝”だった。


「そうだな、ジータ。もう一度、オレと……契約してくれ」


 顔を近づけ、そっと右手を差し出す。


「我、汝の力を望む。古の暴君よ、我に仕えよ!」


 その瞬間、ジータの巨体が柔らかな光に包まれ、オレの右手に再びあの紋様が刻まれていく。

 それは確かに、かけがえのない“絆”の証だった。


「ジータ……これからも、よろしくな」

『ふん、当然だ。我は貴様の相棒なのだからな。……助けてくれたこと、感謝する』


 ようやく頭の中に戻ってきた、ジータの女性的な声。

 その声が温かくて、オレは胸の奥がじんと熱くなるのを感じていた。


 ジータが顔を寄せてくる。

 それにオレも応えるように、そっとその大きな鼻先に手を添えた。


「これで、ようやく元通りですのね……!」


 シルヴィアの青い瞳には、安心の色と滲む涙。


「ああ、これで本当に……一件落着だ」


 レン先輩も静かにうなずき、オレは彼女たちに振り返って言った。


「ありがとう、みんな。本当に、感謝してる。お前らがいなかったら……オレ、絶対ここまで来れなかった」

「お気になさらず、ですわ。わたくしたちは、仲間ですもの」


 シルヴィアが微笑むその瞳は、まっすぐで優しかった。


「私たちは、これからもスタンの味方だ」


 レン先輩の言葉に、オレの心はようやく安堵に包まれていく。


 そこへ――


「スターーーーーン!!」


 スカーレットが勢いよく飛び込んできて、オレに抱きついた。


「おわっ! ス、スカーレット!?」


 その肩が、小刻みに震えているのが分かる。


「よかった……ほんとによかった……!」


 押し寄せる安堵と涙。

 その感情すべてを、スカーレットは言葉でなく抱擁で伝えてくれた。


 オレはそっと彼女の髪を撫でながら、言う。


「スカーレット。お前がいてくれたから、オレは……最後まであきらめずにいられた。本当に、ありがとう」

「れ、礼には……及ばないわよ!」


 すぐさま顔を背けて、ツンとすましたふうに振る舞うその姿に、オレは思わず笑ってしまう。


「だってアタシ、その……アンタの恋人だもの。これくらい当然だわ」


 ――うっ。


 その一言がストレートすぎて、オレの胸に直接刺さった。


 顔を赤く染めながらもまっすぐ見つめてくるスカーレットが、どうしようもなく愛しく思えた。


「スカーレット……オレなんかで、本当にいいのか?」


 震える声で問いかけたオレに、彼女は真っすぐ答えた。


「当ったり前じゃない! アタシはスタンがいいの、愛してるの!!」


「スカーレット……!」


 その言葉が、オレの心を一瞬で満たしてくれる。


 オレはたまらず、彼女を強く抱きしめた。


 その時だった。


『……いい雰囲気のところ悪いが……我もそろそろ限界だ』


 ジータの声が苦しげに頭に響いたかと思うと、その身体がふわりと揺らぎ、光の粒となって消えていった。


「ジータ……」


 オレには分かる。

 ジータが、オレの中に戻ってきたのだと。


 その安堵と同時に、急激な疲労が身体を襲った。


「う、うお……」


 崩れるように膝をついたオレを、スカーレットが支える。


「スタン!?」


 柔らかく、あたたかな感触に包まれて――


「ジータのやつ……魔力を全部持って行きやがった……」


 力なく呟いたオレの意識は、ゆっくりと夜のような闇に沈んでいった。



 それから数日というもの、オレたちは白き爪痕との戦いの後処理や、学園の復興、功労者としての表彰などで、息つく暇もないほどに忙しかった。


 けれどそれもようやく落ち着き、気づけば校舎もすっかり元どおり。


 ――まるで、何事もなかったかのように。


「この前のことがウソみたいね~」


 朝の陽射しの中、オレの隣でスカーレットがそう呟いた。


「ああ。でも……あれは幻なんかじゃなかった。確かに、俺たちが乗り越えてきた“現実”だったんだ」


 オレは右手に刻まれた紋様を見つめながら答えた。


 白き爪痕は壊滅。

 残党も一人残らず保安官に拘束されたと聞いている。


「そういえば、ユリウスはどうしてるんだろうな……」


 空を見上げながら、オレはふとつぶやいた。


 スパイとしてオレたちを裏切ったユリウス。

 だけど最後にはジータとオレを守ってくれた。

 ――だから、ただの“敵”には思えなかった。


「ユリウスくんなら、退学処分は取り消されたそうですわ」

「わっ、シルヴィア!? いつの間に……」


 唐突に背後から声がして、思わず肩を跳ねさせる。


「風の噂ですが、情状酌量が認められて……謹慎処分までに落ち着いたそうですの。学園側が身元を引き受けたとか」

「……そっか。それなら、良かった」


 完全に許されたわけじゃない。けど、再出発のチャンスが与えられたなら、オレはそれを嬉しく思う。


 そのときだった。


 突如、強い風がビュウッと吹き抜けた。


「「きゃっ!?」」


 思わずスカーレットとシルヴィアがスカートを押さえる暇もなく――ふわり、と。


 二人のスカートがめくれ上がり、白昼の通学路に鮮やかな色彩が現れた。


 淡いピンクのレース、そして涼しげなライトブルー。


「……ピンクと青……」


 つい、口をついて出たオレの言葉に、シルヴィアの頬が真っ赤に染まり、スカーレットは一瞬固まってから爆発した。


「な、何見てんのよバカスタンッ!!」

「今のは事故だ! 風のせいだろ!? 不可抗力だよな!?」

「言い訳無用ッ! 燃やしてやるわあああああっ!!」


 スカーレットの顔は真っ赤どころか湯気が出そうなほどで、怒りと羞恥が全開。

 その火山のごとき勢いに、オレは全力で逃げ出すしかなかった。


「こらっ、待ちなさーいッ!!」

「……お二人とも、本当に相変わらずですわね」


 呆れ顔のシルヴィアがぽつりと呟いたのも束の間、オレはスカーレットに追い回される羽目になったのだった。

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