揺さぶられる感情
「えっ、……ふえええええええ!?」
オレの告白を受けた瞬間、スカーレットの顔が ボッ! と音がしそうなほど赤く染まる。
「ちょっ、ちょっとスタン! それって……!?」
目をまんまるにして、口をパクパクと開閉させるスカーレット。
「ああ、お前のことが好きなんだ。女の子として」
迷いのない言葉でダメ押しすると、スカーレットの体が一瞬ビクリと震えた。
頬はますます紅潮し、視線が泳ぐ。
「ちょっと待って、待って、待って!!」
オレの目の前で スカーレットが完全にフリーズする。
指先が小刻みに震え、焦点の合わない瞳であたふたと後ずさる。
「……ご、ごめん! ちょっと待って!!」
叫ぶや否や、彼女は踵を返して走り去ってしまった。
「ちょっ、待てよ! ……行っちまった」
あまりにも 一瞬の出来事すぎて、オレはただ茫然とすることしかできなかった。
これは……フラれたのか?
膝に力が入らない。
心臓がぎゅっと締めつけられるように痛い。
胸の奥が、焼けるように熱いのに、指先はやけに冷たい。
気づけば、視界が滲んでいた。
そのまま、オレは足取りも重く男子寮へと帰るしかなかった。
✳
逃げるように女子寮の自室へ飛び込んだスカーレットは、背中で勢いよくドアを閉めると、そのままそこに張り付いた。
「スタンに……告白されちゃった……!」
息が乱れている。
心臓はまだドキドキとうるさく脈打ち、胸元をぎゅっと握りしめる。
彼の言葉が、頭の中で何度もリフレインして離れない。
——スカーレット、お前が好きになっちまったんだーー
その瞬間、彼女の脳裏には これまでの二人の記憶が鮮明に蘇ってきた。
出会いは最悪だった。
よりによって胸を揉まれた挙げ句、下着まで見られてしまった。
——最低なやつ! ……だったはずなのに。
けれど、そんな最悪な始まりでも、彼はアタシを助けてくれた。
ジータの暴走の中、身を挺して——。
あの時、確かにスタンへの何かが芽生えたのを感じた。
それからも、彼は何度もアタシの前に現れた。
どんなに口喧嘩をしても、どんなに生意気な態度をとっても、彼は決してアタシを見捨てたりしなかった。
勇敢で、優しくて。
——ああ、そうか。アタシはずっと、スタンに惹かれていたんだ。
それはいつの間にか、恋に変わっていた。
——なのに、アタシは。
「……アタシ、逃げちゃった……!」
情けなさが、胸を締め付ける。
足元がふらつきながら、スカーレットは脱衣所へ向かった。
ワンピースのファスナーを下ろし、するりと床に落とす。
二つに結んでいた緋色の髪も、指先でそっとほどいた。
まるで、今日の自分をすべて脱ぎ捨てるかのように。
シャワールームに入ると、温かな湯が頭上から降り注いだ。
けれど、心の奥は冷たいままだった。
「……バカだわ、アタシ……」
額を壁につけ、震える息を吐く。
目を閉じると、スタンの姿がすぐそこに浮かぶ。
——彼は、真正面から想いを伝えてくれたのに。
それなのに、アタシは——。
「どうして……逃げたのよ……!」
悔しさが込み上げる。
温水に混じって、知らぬ間に涙が頬を伝い落ちていた。
自分の情けなさが、どうしようもなく悔しくて。
「……明日から、どんな顔してあいつに会えばいいのよ……?」
震える声が、シャワーの音にかき消されていく。
そして、スカーレットの涙は止まらなかった——。
✳
ここは、白き爪痕のアジト——薄暗い地下空間。
荒い息を吐きながら、研究主任のエイルと白づくめの部下たちが 命からがら逃げ帰ってきた。
「はあ、はあ……何だったのだ、あの化け物は……!?」
エイルの顔は青ざめ、手の震えが止まらない。
二頭の召喚獣相手に、彼らが誇るはずだった"完全なる召喚獣"バイオンが敗北した。
それは単なる敗北ではない——彼らの研究の根底が覆された瞬間だった。
「これは……ボスへ報告せねばな……!」
震える声で呟きながら、エイルは今にも崩れそうな足取りで、ボスの元へと向かう。
そして彼が辿り着いたのは、だだっ広い空間の中心にたたずむ、一つの王座。
重厚な闇に沈むその部屋の奥から、くぐもった低い声が響いた。
「エイルか。……その様子では、失敗のようだな」
わずかに 眉をひそめるだけで、エイルは冷や汗をかく。
「も、申し訳ございません、キラ様!」
慌ててひざまずき、額が床につくほど頭を下げる。
「完全なる召喚獣バイオンが……倒されてしまいました……!」
「ほう、詳しく話してみよ」
キラの 静かだが威圧的な声に、エイルは肩を震わせながら報告を始めた。
「その召喚獣……とてもただの存在とは思えませんでした」
エイルは、蘇る記憶に戦慄する。
「そのうち一頭は未確認のものでして、恐らくは——古の最強種かと……!」
「古の最強種、か」
キラの口元が、わずかに歪む。
「……面白い」
暗闇に沈んだ王座の上で、キラの瞳が不吉に輝いた。