崩壊
『おい、貴様! 何故我を庇った!?』
頭に直接飛び込んでくるジータの怒号。
だが、オレは息も絶え絶えで——
「相棒がピンチの時に……黙って見てられるわけねーだろ……ぐっ……!」
裂傷から走る激痛に、思わず呻く。
体中から血が滴り落ち、視界も霞む。
——意識が飛びそうだ。
だが、それでも今、倒れるわけにはいかねえ!
「オレのことはいい……! ジータ、お前は目の前の奴をぶっ倒すんだ!!」
『貴様……』
——ジータの目に、一瞬、光が宿る。
ドゴォォォォン!!!
その刹那、ジータが猛然と地を蹴る。
「ギィイオオオオオオウウウ!!」
その突撃は、先ほどまでとは桁違いだった。
真正面から突っ込み——
ドォォォン!!
強烈な頭突きを、バイオンの頭部に叩き込む!
「ズオオオオオオオオオン!?」
異形の怪物が吹き飛び、床に転がる。
ズシャアアアアアアアッ!!
バイオンの巨体が地面を削りながら激しくのたうち、鉄の壁にぶつかるたび、火花が散る。
「まさか……まだあのパワーを残していたとは……!?」
驚愕するエイルをよそに——
ジータは、転がるバイオンの頭を踏み砕く勢いで踏みつけた!
「グオオオオオオオ!!」
その圧倒的な力に、バイオンが身悶える。
オレは、痛みを堪えながらその光景を見て——
「はぁ……はぁ……いいぞ……ジータ……!」
——ズキン!!
傷口に添えた手のひらが、熱い液体に染まる。
血だ。
傷が深い。
「……マズいな……早く……決めねえと……!」
——だが、まだ魔力は残ってる!
「ジータ! オレの魔力を受けとれぇ!!」
オレは、手を伸ばし——ジータへ、ありったけの魔力を注ぎ込んだ!
すると、その瞬間——右ポケットが熱を帯び始めた。
「な、なんだ……?」
ポケットの中が眩く輝く。
慌てて手を突っ込み、取り出したのは——ラホール先生からもらった『牙の化石』。
その牙の化石が、まばゆく光を放っている!
——オレは、直感的に理解した。
「ジータああああああああ!!」
牙の化石の光を全身に浴びながら、オレはさらに魔力を解放する。
その魔力がジータに流れ込むと——
バチバチバチバチ!!
ジータの牙が、ボロボロだったはずの牙が……完全に蘇生しただけでなく、金色に輝き始めた!!
『ほう……これは……!』
ジータの瞳が、一層鋭く輝く。
そして——
「ギィイオオオオオオウウウ!!」
猛然とバイオンの喉元へ、渾身の一撃を放つ!!
ズシャアアアアアアッッ!!!
バイオンの喉元に、ジータの金色の牙が深々と食い込む!
「ズオオオオオオオ……!!」
バイオンの体が激しく痙攣し——
そして、ジータの牙が刺さった部分から、まばゆい閃光が放たれた!
「ぐっ……!」
オレが反射的に目を覆う。
眩い光に、エイルの声が響く。
「う、ううっ……!」
——視界が戻ると、そこには——バイオンの肉体から分離した、巨大なレッドドラゴンの姿があった。
「ゴルルルルル……!」
スカーレットの相棒、ドレイク。
「馬鹿なっ……! 取り込まれた召喚獣が……蘇った、だと……!?」
エイルの目が、信じられないものを見るように見開かれる。
だが、それが現実だった。
ドレイクは、ゆっくりと主のもとへと歩み寄る。
そして——スカーレットの手の紋章に、鼻先をそっと寄せる。
「……!」
その瞬間——眩い光が、再び空間を満たす!
「なっ……なんだ……!?」
オレが目を細める中——光の中心にいるスカーレットの瞳に、はっきりと光が蘇っていた。
「……っ、は……!」
彼女の深紅の瞳が、ゆっくりと瞬く。
完全に、目覚めたのだ。
「あれ……アタシ……?」
スカーレットの深紅の瞳が、ゆっくりと瞬いた。
「気がついた、のか……!」
オレが息を詰まらせて見つめる中——
ガギィン!!
ドレイクの金色の爪が、スカーレットの拘束具を一瞬で引き裂いた!
ガシャァァン!!
鋼鉄の枷が崩れ落ち、スカーレットは自由を取り戻す。
「ドレイク!! 無事だったのね!」
スカーレットが勢いよく抱きつくと、ドレイクは鼻を鳴らして目を細めた。
——まるで「よく戻ったな」と言っているようだった。
「それに……スタンとジータも! ……って、スタン! その傷、何よ!?」
オレの腹に滲む血を見た瞬間、スカーレットの表情が一変する。
「話は後だ……!」
オレは荒い息を吐きながら、崩れかけた異形の怪物を指し示す。
「……まずは、アイツを倒さねえと!」
バイオン。
取り込んだはずのドレイクを失い、その肉体は煙を上げながら萎縮していく。
それでも、なお……不気味に蠢いていた。
「ふんっ、あれくらいならアタシたちで十分よ! ドレイク、行くわよ!!」
「ゴオオオオオオン!!」
スカーレットの号令と同時に、ドレイクが咆哮を轟かせる!
「こんな奴、消し炭にしてやるわ! 業火の息吹!!」
ゴウウウウウウウウッッ!!
ドレイクの口から、業火が奔流のように放たれた!
熱波が空間を焼き尽くし、周囲の壁すら赤熱化する——
「ズオオオオオオオオオ……!!」
バイオンの悲鳴のような声が響き渡る。
だが、それも——
一瞬のことだった。
バチバチバチバチバチ!!!
燃え尽きるバイオンの肉体が、業火の中で炭化し、消し飛ぶ!
そして……
「……す、すげぇ……!」
オレは、言葉を失っていた。
さすがは一年生最強クラスの召喚獣……桁違いの火力だった。
「ばばば……馬鹿な……!!」
バイオンの消滅に、ドクター・エイルの顔が青ざめる。
「我らの"完全なる召喚獣"が……こんな形で……!」
だが、すぐに白づくめの部下たちを振り返り——
「……ええい! こうなればこんなところに要はない! この地下空間を爆破して撤退するぞ!!」
「はっ!」
——カチッ!
白づくめの連中が手元のスイッチを押した瞬間——
ゴゴゴゴゴゴ……ッッ!!
あちらこちらで爆発が連鎖する!
ズドォォォォォン!!!
バリバリバリバリバリ!!!
壁がひび割れ、天井が崩れ始める!
「ははははは!!」
エイルの狂気じみた高笑いが響く。
「最後に笑うのは我ら、白き爪痕よ!!」
スモーク弾が弾け、視界が覆われる。
そして、エイルと白づくめの連中は煙の中へと消えていった。
「グオエエエエエエエ!!」
『逃げるのか!!』
ジータが怒りの咆哮を上げるが……奴らはすでに影も形もなかった。
その直後——
ゴゴゴゴゴ……!!
激しい揺れが、空間を襲う!
「この空間が……崩れ始めてる……!」
オレが呟くと、スカーレットが血相を変えた。
「いけないっ! ここにはサラたちもいるんだわ!!」
「……!」
オレはようやく思い出した。
この地下空間には、囚われた少年少女たちがいたんだ!
「くそっ……どうすれば……!」
思考が巡らない。
痛みで視界が霞む。
その場に膝をついた瞬間——
「スタン!? しっかりしなさいよ!!」
スカーレットの声が、オレを必死に呼ぶ。
——だが、オレの意識はどんどん遠のいていく。
「スターーーーーン!!!」
空間が崩れゆくなかで、スカーレットの悲痛な叫びが響いた……。