表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚無双の最強暴君(ティラノサウルス)  作者: 月光壁虎
サマー・ハーバーでのデート
25/43

突入


 サマー・ハーバーを一望できる高台。

 その岩陰で、白づくめの少年が魔導回転塔を静かに見下ろしていた。


 そんな彼のもとにヒラヒラと飛んできた、青い羽の蝶々。


「良くやった、モルフォイ」


 モルフォイと呼ばれた青い蝶々を手に留めた少年は、ニヤリとほくそ笑む。


「……これで全て揃ったな。ターゲットの動向を見届けよう」


 風にあおられて揺れるフード。その隙間から、銀髪がちらちらと覗く。


 ーーその少年の正体は、ユリウスだった。


 普段は無口で目立たないクラスメート。だが今、その瞳に浮かぶのは冷たい光。


 彼の本当の顔とは一体――?




 まずはイリヤが魔力探知を開始する。


「土よ、共鳴せよ——大地の図面(アース・マッピング)!」


 イリヤが唱えると、その足元に淡い黄色の魔法陣が展開され、彼女の身体がぼんやりと輝き始めた。

 魔力の波動が地面へと浸透し、地下の構造を探るように広がっていく。


「ほう……地下空間を土魔法で探るのか」


 感心したように呟くレン先輩をよそに、オレは焦燥感に駆られてじっとしていられなかった。


 ——こんなことしてる間に、スカーレットが……!


 拳を握りしめ、衝動的に動き出そうとしたその時、肩にそっと手が置かれる。


「落ち着きなさいまし、スタンくん」


 シルヴィアだった。彼女は穏やかに微笑みながら続ける。


「イリヤさんなら、必ずスカーレットの居場所を突き止めてくださいますわ」

「けど……!」

「今は彼女を信じましょう」


 静かな説得力を持つシルヴィアの言葉に、オレは深く息を吸い込む。

 ——そうだ、焦っても何も変わらない。今は確実な方法を取るべきなんだ。


 しばらくすると、イリヤの光が徐々に収束し、彼女がゆっくりと目を開く。


「——できました。こちらをどうぞ」


 イリヤが差し出したのは、淡い光を放つ半透明の地図のようなものだった。


「これは?」

「魔力の濃淡を視覚化した地図です。スカーレットさんは恐らくここにいるでしょう」


 イリヤが指し示したのは、一際強い魔力の波動を放つ地点。そのすぐそばに、二番目に濃い魔力の反応がある。


「……ここは魔導回転塔のほぼ真下だな」

「しかもこの地図、貴族たちが知る地下空間の構造図と完全に一致していますわ!」


 図面を確認しながら、シルヴィアが驚いたように声を上げる。

 イリヤのマッピング精度の高さに、レン先輩も思わず舌を巻いた。


「……すごいな、お前」

「当然です。私は誰だと思っているのですか?」


 得意げに平らな胸を張るイリヤ。


 オレにはどれほどすごいことなのか分からなかったが、それだけ正確な情報が得られたということだろう。


「居場所は分かったけど、そこまでどうやって行くんだ?」

「それなら私に考えがある。魔導管を伝っていくんだ」


 そう言ってレン先輩が指差したのは、光る地図に記された網目状に広がる魔力の筋だった。


「魔導回転塔の地下には、魔導エネルギーを巡らせる管が張り巡らされている。この魔導管を伝えば、監視の目をかいくぐれるだろう」

「なら、どこから潜入する?」

「この地点が適切でしょうわ」


 シルヴィアが持参していた貴族専用の地下通路図を開き、指差したのは人通りの少ない区画だった。


「なるほど、ここなら警備が薄い。……いい判断だ」


 レン先輩もシルヴィアの意見に同意する。


「みんな、ありがとう……! これでスカーレットを助けられる!」


 感謝を口にしながら、オレは拳を握りしめた。


 そして——


「おい、待て! まだ作戦の詳細を——」


 レン先輩の呼び止めも聞かず、オレは駆け出す。


「待ってろよ、スカーレット! ぜってぇ助け出してやるからな!!」


 オレがたどり着いたのは、サマー・ハーバーの外れにある薄暗い路地裏だった。


「確かに……人通りはほとんどねぇな」


 壁には苔がこびりつき、魔導灯の光も届かない。湿った空気に微かな鉄臭さが混じっている。


 オレは地面に埋め込まれた魔導管の整備口の蓋に手をかけるが、ガッチリと固定されていてびくともしない。


「くそっ、固ってぇなぁ……!」

『それなら我が破壊しようか?』

「お、おい、やめとけ! そんなことしたら警備員が飛んでくるだろ!」


 ジータに蓋を破壊される前に、背後から息を切らした声が響く。


「はぁ、はぁ……っ。やっと追い付きましたわ……!」

「シルヴィア!」


 オレが驚いて振り返ると、彼女は白い長髪をさらりとかきあげ、誇らしげに小さな鍵を掲げた。


「魔導管の入り口はロックがかかってますの。この鍵を使えば開けられますわよ」

「え、そんなもんどこで?」

「こういう事態に備えて、貴族権限で手に入れておきましたの」


 さすがシルヴィア……。

 オレはありがたく鍵を受け取り、蓋の錠前に差し込む。


 ——カチャンッ!


 錠が外れると同時に、地下から赤い魔力の霧が吹き出し、辺りを妖しく照らす。


「こ、これは……!」

「さすがはサマー・ハーバー全域に魔力を巡らせる魔導管……! 中の魔力が濃すぎますわ……! 生身で入るのは危険すぎましてよ!」

「そんな……!」


 くそっ、ここまで来てまた足止めかよ……!


 歯噛みしていたその時、ジータが蓋の縁に腕をかけ、深く息を吸い込んだ。


『……これは美味い魔力だ』


 その瞬間、漂っていた魔力の霧がすぅっと薄まっていく。


「ジータ、魔力を食ってるのか!?」

『この先も進むのだろう? ならば我が吸ってやる』

「助かるぜ!」


「お気をつけてくださいまし~!」


 シルヴィアの見送りを背に、オレとジータは魔導管へと突入した。


 足を踏み入れた瞬間、オレは強烈な熱気に包まれた。


 魔導管の内部は、赤い魔力の波動がゆらめく脈動する洞窟のような空間だった。

 壁面には無数の魔力管が張り巡らされ、青白く光る魔法文字が流れ続けている。


「こいつは……とんでもねぇな」


 まるで生き物の体内に入り込んだみてぇだ……。


『この場に長居するのは得策ではないぞ』

「だな……! 行くぞ、ジータ!」


 オレはレン先輩とイリヤから借りた二つの地図を頼りに、魔導管の中を駆け抜ける。


 ——その時だった。


『……魔力が乱れている』

「え?」


 ジータの声にハッとする。


 次の瞬間、管の奥から魔力の奔流が荒れ狂いながら襲いかかってきた!


「うおおっ!?」


 立っているのがやっとだ……!


「ギャーオ!!」

『これも我が食らってやる……!!』


 ジータが大口を開けて魔力を吸収するが、今回は様子が違う。


「ジータ、大丈夫か!?」


『問題……ない……!』


 苦しげに唸るジータの体が、突然ピカッ!とまばゆい閃光を放つ。


「うわっ!?」


 光の中でシルエットが大きく膨らみ、影が変化していく——


 そして、光が収まったとき、そこに立っていたのは——


「ジータ、お前……!」


 かつてオレが召喚したばかりの頃に見せた、巨大なティラノサウルスの姿だった。


『どうやら、この魔力で本来の姿に戻れたようだな……。行くぞ』

「お、おう!」


 ジータの進化した姿に驚きながらも、オレはそれに続いて走り出す。


 魔導管を抜けると、そこには無機質な鉄の壁が広がっていた。


「……地下施設か」


 空気は乾燥し、薄暗いランプがぼんやりと照らしている。


『ここに炎上小娘がいるのか』

「そうみてぇだ……!」


 警戒しながら進むと、突然柵の並ぶエリアに出た。


「これって……牢屋か?」


 鉄の柵の向こうには、無気力に座り込む少年少女たちがいた。


 サマー・ハーバーの行方不明者の顔ぶれ……!


「なぁ、お前ら! 赤い髪を二つに結んだ女の子、スカーレットを知らないか!?」


「……知らない」


「……見てない」


 どいつもこいつも、まるで心を抜かれたみてぇな顔をしている。


 ——だが、オレは見つけた。


「あの子……サラじゃねぇか」


 スカーレットの友達だって言ってたあの子。


「おい、サラ!」


「……あなたは?」


 虚ろな目を上げるサラの前で、オレは鉄柵を握りしめる。


「オレはスタン、スカーレットの友達だ!」


「スカーレットちゃんの……?」


 その名前を聞いた瞬間、サラの瞳にかすかに光が戻る。


「スカーレットがどこにいるか、知らないか!?」


 しばらく沈黙した後、サラはおもむろに指を差す。


「あの向こうにいるのか……!」


 オレの確認に、サラは静かにうなづいた。


「ありがとな、サラ!」


「……待って」


 駆け出そうとしたオレを、サラがか細い声で引き止めた。


「気をつけて……ここはとても危険……」


「ああ!」


 サラの警告を受け、オレはスカーレットの待つ方へと全力で駆け出す。


 待ってろよ、スカーレット……! 今助けに行くからな!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ