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召喚無双の最強暴君(ティラノサウルス)  作者: 月光壁虎
サマー・ハーバーでのデート
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囚われたスカーレット


「ん、んん……っ」


 意識がぼんやりと戻り、スカーレットは薄暗い空間の中にいることに気づいた。


 冷たい石の床の感触が肌に伝わり、空気は湿っていて生ぬるい。


「んむっ、んんんっ!」


  動こうとするも、身体が痺れていて思うように動かせない。


 それどころか、唇すらまともに開かず、呪文を唱えることもできなかった。

(何よ、これ……!?)


 全身の感覚がまだ麻痺していることに混乱しながらも、必死で状況を把握しようとしたそのときーー。


「ようやく目を覚ましたか」


 突然、耳元で低く響く声に、スカーレットの体が強張った。

 顔を上げると、モジャモジャの白髪をした白衣の男が、不気味な笑みを浮かべてこちらを覗き込んでいた。


「あ、あ……!」

「おや、僕が何者か気になるかい?」


 男はまるで玩具を品定めするように、スカーレットの顎をくいっと持ち上げる。

 不快感と嫌悪感に、全身の毛が逆立つのを感じた。


「特別に教えてあげよう。僕はエイル、白き爪痕の研究主任さ」


(白き爪痕……?)


 聞いたことのない名に、スカーレットの眉がピクリと動く。

 しかし、エイルは彼女の反応を楽しむように、芝居がかった仕草で両手を広げた。


「光栄に思うといい。君の力は、完全なる召喚獣創造の礎となるのだからね」


「……は?」


 あまりにも突拍子のない言葉に、スカーレットは思考が追いつかない。


「……おっと、少々喋りすぎたようだ」


 エイルは白衣の袖を払うと、指を軽く鳴らした。

 すると、どこからともなく白づくめの人物たちが音もなく現れ、スカーレットを囲む。


「ドクター、指示を」

「この娘を奥へ連れていけ」

「はっ、仰せのままに」


「ちょ……っ!」


 スカーレットは反射的に抵抗しようとするが、痺れた身体ではどうにもならない。


 腕を拘束され、そのまま引きずられるようにして地下通路を進まされた。


(ここは……?)


 ぼんやりとした意識の中で、スカーレットは周囲を見渡す。

 通路の両側には無数の檻が並んでいた。


 中には、無表情で座り込む少年少女たちの姿ーー


(この顔……サマー・ハーバーの張り紙にあった子たち……!)


 スカーレットの胸に、冷たい戦慄が走る。

 彼らはすでに何らかの実験の被験体にされているのかーー


 そして、その中の一つの檻に、見覚えのある少女がいた。


(サラ……!)


 サラ・エヴァンスーースカーレットのクラスメート。

 数日前から姿を消していた彼女が、ここにいたのだ。


「スカーレットちゃん……」


 虚ろな瞳のサラが、か細い声で名前を呼ぶ。

 スカーレットは必死に応えようとするが、口の痺れはまだ抜けきらず、声にならない。


 もどかしさを感じる間もなく、白づくめの男たちはスカーレットをさらに奥へと運んだ。

  通路の先ーーそこにあったのは、一際頑丈そうな鉄格子の檻。


「ここで大人しくしているんだな」


 檻の中へ乱暴に放り込まれ、鉄扉がガチャンと音を立てて閉じられる。


 外の男たちは、スカーレットの冷たい視線を一瞥すると、そのまま背を向けて去っていった。


(ここは一体何なの……?)


 スカーレットは歯を食いしばり、拳を握る。

 白き爪痕ーー彼らは何を企んでいるのか。


 そしてーーこの檻から抜け出し、サラたちを救い出す方法はあるのか。



 魔力の残滓を辿るジータを追いかけ、オレが行き着いたのは、サマー・ハーバーのシンボルともいえる魔導回転塔のふもとだった。


「まさか……ここにスカーレットがいるのか?」


 見上げる先には、魔力の光を帯びながらゆっくりと回転する巨大な塔。

 圧倒されるような威圧感を放つその建造物の前で、オレは立ち尽くす。


 ーーだけど、ジータは迷いなく答えた。


『この下にいる、間違いない』

「本当か!?」

『ああ、確かに小娘の魔力の残滓が地下へと続いている』


 ジータの言葉に、オレの胸は高鳴った。

 スカーレットは、この地下に囚われているーー!


 だが問題は……どうやって地下へ潜入するかだ。


 魔導回転塔のふもとは、厳重なバリケードで封鎖され、警備員が巡回している。

 正面突破なんて到底無理だ。


「クソッ、ここまで来て、何もできないのかよ……!」


 苛立ちに任せて強く足を踏み鳴らしたその時ーー


「はぁ、はぁ……っ。全く、君というやつは先走りすぎだ」


 レン先輩が、息を切らせながら駆けつけてきた。


「レン先輩……!」

「まったく、私が追いつく前に突っ走るとは、相変わらずだな」


 呆れたように肩をすくめるレン先輩に、オレはすぐさま頭を下げる。


「レン先輩! オレに力を貸してください! スカーレットを助けたいんです!」


 するとレン先輩は、ふっと笑って言った。


「最初からそのつもりだよ、スタン。そのために、頼りになる仲間も呼んでおいた」

「仲間……?」


 その直後ーー


 淡い光が地面に魔法陣を描き、そこから現れたのは……。


「イリヤ……!?」


 現れたのは、魔術学科の天才少女ーーイリヤだった。


「どうして、お前がここに……?」


 オレが驚いて問いかけると、イリヤはとんがり帽子のつばを指でつまみ、顔を少し隠すようにして答えた。


「生徒会長の頼みですからね。断るわけにはいきませんでした……」


 そこまで言うと、彼女はちらりとこちらを見て、ほんの少し視線を逸らした。


「……それに、あなたは友達ですからね。困っていたら助けるのは当然ですっ」

「イリヤ……お前……!」


 オレが思わず感謝の言葉を口にしかけたその時ーー


「スタンくーーん! お待たせしましたわ~!」


 可憐な声が空から降ってきた。

 見上げると、白銀の翼を持つ雪梟ワイズの足に掴まりながら、優雅に飛んでくるシルヴィアの姿があった。


「シルヴィア! お前も来てくれたのか!」


 ーーちなみに、彼女はスカートの下には黒いレギンスを履いていたため、不本意な事故などは起こらなかった。


「スカーレットがピンチと聞いて、じっとしていられませんでしたの!」


 ワイズがゆっくりと降下し、シルヴィアは軽やかに地面へと降り立つ。


「レン先輩、二人を呼んでくださってありがとうございます!」

「礼には及ばないさ。私も白き爪痕を追っていたところだからね」


 レン先輩が真剣な眼差しでそう告げると、場の空気が引き締まる。


「では、作戦を伝えるぞーースカーレット奪還のための潜入作戦を」

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