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召喚無双の最強暴君(ティラノサウルス)  作者: 月光壁虎
サマー・ハーバーでのデート
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召喚獣狩り


「ったく、なんでアタシがこんなところで待たされなきゃいけないのよ……っ」


 スカーレットは公衆トイレの前で腕を組み、苛立ち混じりに足をトントンと鳴らしていた。


 ――スタンが急にトイレに行きたいと言い出したせいだ。


 しばらく待たされているうちに、彼女はふと視線の先に青く光る蝶を見つけた。


「……きれい」


 昼の陽光を浴びて煌めくその羽は、まるで宝石のようだった。


 スカーレットはつい、その美しさに惹かれて蝶を目で追う。

 蝶はふわり、ふわりと舞いながら、細い路地の奥へと誘うように飛んでいく。


 ――ほんの少しだけ、近くで見てみようかな。


 そう思ったのが、間違いだった。


 蝶を追いかけるうちに、スカーレットは人通りの少ない路地裏へと足を踏み入れていた。


「あれ……? いない?」


 周囲を見渡してみるが、蝶の姿はどこにもない。

 それどころか、薄暗い路地裏には異様な光景が広がっていた。


 ――ゴミが散乱し、壁には古びた落書き。

 ――ホームレスや孤児たちがうずくまり、虚ろな目で座り込んでいる。


 先ほどまでいた煌びやかなサマー・ハーバーの華やかさとはまるで別世界だった。


「ううっ、臭っさ~……」


 鼻をつまみながら、スカーレットはそそくさと引き返そうとする。


「――いけないっ、早く戻らなきゃ!」


 だが、その瞬間だった。


 ひらり――。


 先ほどの青い蝶が、目の前に再び舞い降りる。


「……きれ~い」


 スカーレットは一瞬、その美しさに目を奪われた。


 だが、蝶が不自然に羽を震わせた次の瞬間――


「……っ!?」


 視界がぐにゃりと歪んだ。


 ――頭がぼんやりする。身体に力が入らない。


「な、なにこれ……?」


 力が抜け、膝が崩れ落ちる――その刹那。


 ガシッ!


 何者かの腕が後ろからスカーレットの身体を羽交い締めにした。


「ちょっ……!?」


 声を出そうとしても、喉が詰まったように出せない。


 ――マズい、逃げないと……!


 だが、手も足も言うことを聞かない。


 視界が暗転し、意識が遠のいていく中――


 地面に、エメラルドグリーンのヘアピンが音もなく転がった。



「ふーっ、スッキリした~」


 公衆トイレを出たオレは、待たせていたスカーレットの元へ急ぐ。

 甘いものを飲み食いし続けたせいで、さすがに我慢の限界だった。


 だが――


「あれ? ……スカーレット?」


 彼女の姿が、ない。


 少し離れて立っているかと思い、周囲を見渡してもどこにもいない。


「おーい、スカーレット~!」


 呼びかけても返事はなく、周囲の人々も見知らぬ顔ばかりだ。


「ったく、どこ行ったんだよ……」


 オレは軽い苛立ちと不安を抱えながら、彼女を探し始める。

 だが、どれだけ探しても見つからない。


 ――そして気がつけば、オレは細い路地裏に足を踏み入れていた。


「まさか、こんなところに……?」


 壁にもたれかかるように力なく座るホームレスや孤児たち。

 サマー・ハーバーの煌びやかな景色とは対照的な、陰鬱な空間が広がっていた。


 オレは引き返そうとした、その時――


 足元で、緑色の光がきらりと煌めく。


 しゃがんで拾い上げたそれは――


「スカーレットのヘアピン……?」


 エメラルドグリーンのヘアピン。

 オレが今日、買ってやったもの。

 だが、それはひび割れ、無残に地面に転がっていた。


「スカーレット……まさか……!」


 胸騒ぎが、一気に強まる。


「スタン!」


 鋭い声が響いた。


 振り向くと、肩を上下させ息を切らせたレン先輩が立っていた。


「スタン、スカーレットと一緒だったのでは?」

「……はい。でもトイレから戻ったら、いなくなってて……」


 オレは落ちていたヘアピンを差し出す。


 レン先輩の表情が険しくなる。


「……遅かったか」

「どういうことですか!?」

「スカーレットはおそらく――召喚獣狩りに巻き込まれた」

「え……?」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


「レン先輩! 召喚獣狩りって、何なんですか!? それにスカーレットは無事なんですか!?」

「落ち着け、スタン!」


 オレの肩を掴み、レン先輩が真剣な目で見つめる。


「……もう隠している場合ではないな。召喚獣狩りは、最近頻発している誘拐事件の黒幕『白き爪痕』という組織が関与している可能性が高い」

「白き爪痕……?」

「謎の組織だ。学園の召喚学科の生徒ばかりが狙われている……」

「そんな……」


 オレは拳を握りしめた。


「そいつらを追えないんですか!?」

「手掛かりがあれば、だが……。スカーレットほどの強い魔力なら、魔力の残滓を辿ることができるかもしれない。 召喚獣なら、それが可能なはずだ」

「――ありがとうございます、レン先輩! ――我、汝を呼び求む。時空を超えて我が呼び声を聞け。古の暴君よ、顕現せよ!」


 オレが詠唱を唱えると、紫の魔法陣からジータが現れる。


「ギャーオ!」

『何用だ?』

「ジータ、スカーレットの魔力の残滓を感じ取ることはできるか!?」


 藁にもすがる思いで問いかけると、ジータは鼻を鳴らしながら答えた。


『造作もない。我ほどの存在なら、その程度は容易い』

「それなら――!」

『……だが、何故我がそのようなことをせねばならん?』

「は?」


 思いもしなかったジータの反応に、オレは一瞬固まる。


「おいジータ! スカーレットが拐われたんだぞ!?」

『それがどうした。貴様のしもべに成り下がった覚えなどない』

「……お前、それでもオレの召喚獣かよ!?」

『フン、貴様の都合で戦わされるなど、虫唾が走る』


 ジータの非情な言葉に、オレは愕然とした。


「くっそ……」


 このままじゃ、スカーレットを助けられない――!


『……貴様、なぜ泣いている?』

「は?」


 言われて、頬を伝うものに気づいた。

 オレは、泣いていた。


 ……いつもツンツンしてて、素直じゃないスカーレット。

 でも、その強がりの奥には、誰よりも優しさがあった。

 気づけば、彼女はオレにとって――かけがえのない存在になっていた。


 オレは、地面に手をつき、額を擦り付ける。


「頼む……ジータ、力を貸してくれ!!」

『な、何だ貴様!?』

「オレ、やっと分かったんだ! スカーレットがどれだけ大切な存在だったのか! だから……オレは何でもする! お前の力が必要だ!!」


 誇り高いジータに、ひたすら懇願するオレ。


 しばし沈黙が続いた後――


『……後で美味い魔力を寄越せ』

「……ありがとう、ジータ!!」

『行くぞ、あちらから魔力の残滓を感じる!』

「おう!」


 オレはジータの後に続き、全速力で駆け出した。


 待ってろよ、スカーレット……! 絶対に助け出してやるからな!!

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