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召喚無双の最強暴君(ティラノサウルス)  作者: 月光壁虎
サマー・ハーバーでのデート
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ビターorスイート

 スカーレットに引っ張られるように次の場所へ向かっていると、ふとジータが亜空間から警告を送ってきた。


『……何やら怪しい気配がするぞ』

「え、そうなのか?」


 急に気になって周囲を見渡す。


 一瞬、何か白い影のようなものが視界の端を横切った気がした。


「どうしたの、スタン?」

「いや……なんか変な白い影が見えた気がしてさ」


 オレの言葉に、スカーレットは不思議そうに首をかしげる。


「白い影? ――何もいないじゃない」


 彼女の言う通り、辺りを見渡してもそれらしいものは見当たらない。

 気のせいだったのか?


 もやもやしたまま歩き続けていると、ふと町の掲示板が目に入る。

 そこには何枚もの張り紙が貼られていた。


「……なんだこれ?」


 近づいてみると、それは行方不明者の捜索願いだった。


「行方不明者を探しています……?」


 思わず読み上げると、スカーレットが驚きの声を上げる。


「あーっ! サラの顔もあるじゃない!」

「サラって……召喚学科のクラスメートか?」

「ええ。アタシの知り合いなんだけど、最近学校に来てなかったのよね。まさか行方不明だったなんて……!」


 スカーレットの言葉に、オレも張り紙を改めて見返す。

 そこに並ぶ顔ぶれは――どこかで見覚えがある。


 ――ほとんどが召喚学科の生徒じゃねぇか。


 その瞬間、オレの脳裏に昨日レン先輩が言っていた言葉が蘇る。


「召喚獣狩り……」


 まさか、これが関係してるのか……?


「何か言った?」


 スカーレットが怪訝そうにオレを見る。


「あ、いや。なんでもない」


 ――今は考えすぎても仕方ない。それよりも、せっかくのデートを楽しむべきだろう。


「それよりも今日はデートを楽しもうぜ。次はどこ連れてってくれるんだ?」


 オレが話を逸らすと、スカーレットは得意げに胸を張った。


「ふふーん、いいからついてきなさい!」


 スカーレットに強引に連れてこられたのは、甘い香りが漂う飲食エリアだった。


「やっぱデートっていったらスイーツよね!」

「それはスカーレットが甘党なだけだろ」

「……何か言ったかしら?」

「イエ、ナニモ」


 ギロリと鬼の形相で睨まれ、オレは反射的に背筋を伸ばした。


 まず立ち寄ったのは、パステルピンクのファンシーな屋台。

 メルヘンな装飾がやたらと目立つが、サマー・ハーバーではこういうのが普通らしい。


「いらっしゃいませー。ご注文は?」


 明るい声で店員のお姉さんが出迎えると、スカーレットは即座に注文した。


「ストロベリー&ダブルホイップを二つ!」

「おい! オレのは聞かねえのかよ!?」


 オレの意見をガン無視して、スカーレットは注文を決定。

 手際よく焼かれた生地に、ホイップクリームがたっぷりと詰め込まれる。


「お待たせしました! こちら、ストロベリー&ダブルホイップです!」


「お、おお……」


 オレが受け取ったのは――見るからに暴力的な甘さを誇るクレープだった。


 ホイップクリームがぎっしり詰まってミチミチの状態になっており、大粒のイチゴが何個も乗っている。


 甘そうだ……いや、絶対甘すぎる。


「ん~! 甘くてすっごく美味しいわ!」


 スカーレットは頬をほころばせながら幸せそうにクレープを頬張っていた。


「どうしたの、スタン? いらないならアタシがもらうわよ?」

「なんでそうなるんだよっ」


 厚かましいスカーレットの態度にムッとしながら、オレもクレープにかじりつく。


 ――口いっぱいに広がる、圧倒的な甘味!


「うっ……あ、甘~っ。でも、うまいや!」


 ホイップクリームの濃厚な甘さを、イチゴの酸味がちょうどいい塩梅で中和している。


 気がつくと、オレはあっという間にクレープを平らげていた。


「さあ、次はあっちよ!」


 スカーレットが勢いよく指を差す。


「まだ食うのか!?」


 驚くオレに、彼女は当然のように胸を張った。


「当たり前じゃない! せっかくサマー・ハーバーに来たんだもの、いろいろ食べなきゃ損でしょ!」


 ――結局、オレはまたスカーレットに引っ張られることになった。


 向かった先は、これまでのファンシーな屋台とは打って変わり、落ち着いた雰囲気の赤レンガ造りのカフェだった。


「ここはスターフロント本店よ!」

「スターフロントって……あのカフェチェーンか?」


 オレの地元にもポツポツとある、そこそこ有名なチェーン店だ。

 そんなことを考えていたら、スカーレットが控えめな胸を自慢げに張る。


「ふふーん、他のチェーン店と一緒にしたら困るわ! なんてったって本店よ!?」


 またしても強引に手を引かれ、オレは店内へと足を踏み入れた。

 カフェの中に入ると――思わず息を呑んだ。


「……おおっ」


 天井は魔法のような仕掛けで、満天の星が瞬く夜空そのものになっていた。

 空気もほんのり冷たく、まるで本当に夜空の下にいるみたいだ。


「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」


 ウエイトレスに案内され、オレとスカーレットは向かい合って席に着く。


「やっば、本店は雰囲気が段違いね~!」

「……ああ、オレの地元の店とはまるで別物だな」


 ふと天井を見上げると、時折、流れ星のような光がゆっくりと流れていく。


 つい、オレは願い事を呟いてしまった。


「――背が伸びますように」

「……あら、こんなところで願い事? まあ確かに、アンタ男子の割には背が低いものね」

「うっせーな! 願い事くらい言わせろよ!」


 オレがムキになって反論した瞬間、タイミングよくウエイトレスがやってくる。


「――仲良くしているところ失礼します。ご注文はお決まりでしょうか?」

「あっ、ミルクコーヒーを一つ」

「アタシはイチゴフラッペ!」

「……おいおい、さっき激甘クレープ食ったばっかじゃねぇか」


 思わずツッコミを入れそうになったが、スカーレットは至って真剣な顔でメニューを指さしている。


「かしこまりました。少々お待ちを~」


 ウエイトレスが去った後も、オレは再び天井の星空に目を奪われていた。


「それにしても、きれいだな……」

「……へえ、スタンも意外とロマンチストなのね?」

「悪いかよ。でもさ、スカーレットと一緒に来れて良かったと思う」

「――へっ!?」


 スカーレットの顔が、一瞬で真っ赤に染まる。


「な、何よ、いきなり……!?」

「あ? 何って、オレだけじゃこんなステキな場所、知ることもなかっただろうからさ。ありがとな、スカーレット」


 スカーレットはポッと頬を染め、少しだけ伏し目がちに口を尖らせる。


「ふんっ! 別にアンタのためなんかじゃないからね!?」


 そっぽを向いてツンとした態度を取る彼女に、オレは苦笑する。


 ――こういうところ、本当に変わらねぇな。


 ロマンチックなカフェで、オレたちはしばしの間、穏やかな時間を過ごしたのだった。

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