サマー・ハーバー
強引にもスカーレットに連れてこられたのは、学園に隣接する魔法都市「サマー・ハーバー」だった。
「は~っ、ここがサマー・ハーバー……!」
オレは目の前に広がる景色に目を奪われた。
エメラルド色の海と白い砂浜に沿って立ち並ぶ摩天楼が、魔法の光を反射しながら煌めいている。
その中心には、サマー・ハーバーのシンボルともいえる巨大な魔導回転塔がそびえ立っていた。
塔の表面には魔力の光が走り、ゆっくりと回転しながら空へ向かってエネルギーを放っている。その光は、まるで星の軌跡を描くかのようだった。
そんな景色に圧倒されていたオレに、スカーレットがいたずらっぽい笑みを浮かべて問いかける。
「もしかして、サマー・ハーバーは初めてかしら?」
「ああ、そうだよ!」
バカにされてると思ってちょっとムキになって答えたら、スカーレットはニッと笑う。
「それじゃあアタシとおんなじね!」
「お、おう……」
なんだよ、紛らわしいなあ。
でもスカーレットと同じ……か。
そう言われると、なんか嬉しいような、照れくさいような、よく分からない気分になる。
「それじゃあ行きましょ! まずはサマー・ハーバーに来たら、キラキラタトゥーを入れるっていうわ!」
「キラキラタトゥーって、あの人たちの服についてる、光る模様のことか?」
「ええ! サマー・ハーバーに来たんだもの、キラキラタトゥーは外せないわ!」
「ちょっ! だから手ぇ引っ張んなって!!」
スカーレットに手を引かれ、連れてこられたのは屋根に魔法の光が刻まれた屋台だった。
「いらっしゃいませ! ようこそ、サマー・ハーバーへ!」
陽気に出迎えたのは、色黒でがっしりした体格のお兄さん。
スカーレットは浮き足立ってオーダーする。
「お兄さん、アタシと彼にキラキラタトゥーを入れてほしいの!」
「おっ、君たち学生カップルかい? 熱いね~!」
「ち、違うわよ! こいつは友達、そう、ただの友達なんだから!!」
バッと顔を真っ赤にして、バシバシと手を振るスカーレット。
そんな様子に、お兄さんはニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「はいはい、分かってるって。そんな二人には――お揃いのキラキラタトゥーを入れてあげるよ!」
「なっ――!?」
「えっ!? いや、お揃いとか別に――」
「さあ、ちょっと胸を差し出してごらん」
言われるがままに、オレとスカーレットはおそるおそる胸を差し出す。
お兄さんは手早く光るペンを走らせ、オレの服には青く輝く宝石の絵を、スカーレットの服には揺らめく炎の絵を描いた。
「これが君たちのキラキラタトゥーさ!」
「やったわ! これでアタシたちもサマー・ハーバーゲストの仲間入りね!」
スカーレットは大はしゃぎで胸元を確認する。
そんな様子に苦笑しつつ、オレも光るタトゥーを見下ろした。
――こうして並んでみると、本当にお揃いみたいじゃねぇか。
そんなことを思った瞬間、妙に恥ずかしくなって、慌てて視線を逸らした。
「それじゃあ行ってらっしゃ~い」
手を振るキラキラタトゥーのお兄さんに見送られてオレたちがサマー・ハーバーの中心部に進むと、今入れてもらったキラキラタトゥーが七色に光り輝きだす。
「おわっ、光ってる!?」
「そりゃあキラキラタトゥーだもの、光って当然じゃない!」
「初めて来たって言うわりには詳しいな、お前」
「調べたのよ。……初めてのデートなんだから当然じゃないっ」
モジモジとしながら頬を染めるスカーレットの健気さに、オレはドキッと胸を打たれてしまった。
「オレのためにそこまで……」
「――ほら、次行くわよ次!」
「だからそんな引っ張んなって!?」
照れ隠しも兼ねてかスカーレットにずんずんと引っ張られると、観光客で賑わう魔法市場が見えてきた。
「サマー・ハーバーっていったら、やっぱ魔法市場は欠かせないわ! 一度行ってみたかったの~!」
「はあ」
ミーハーにも黄色い声を出すスカーレットに、オレはポカーンとしてしまう。
「まずはあそこがいいわ!」
まず足を運んだのは、カラフルな外装のアクセサリーショップ。
中に入ると、四方を囲むように陳列されたアクセサリーがキラキラと輝いていた。
「これが魔法都市のアクセサリーショップ……!」
壮観な光景に目を奪われていると、ふわふわと飛ぶ小動物みたいな召喚獣が近づいてきた。
「おわっ、何だこれ!?」
「お店の召喚獣、カーバンクルね。確か、欲しいもののイメージを思い浮かべると、それに合ったものを持ってきてくれるって話だったわ」
スカーレットが言った通り、カーバンクルはすぐに棚を飛び回り、赤い宝石のブローチを持ってくる。
「ホントに持ってきてくれたのね、ステキ!」
カーバンクルの持ってきたブローチを受け取り、スカーレットはうっとりとした表情になった。
……スカーレットのこんな顔、初めて見たぜ。
「でも、ちょっと高すぎるわね~! もうちょっとお手頃なのはないかしら?」
すると、カーバンクルはブローチを戻し、今度はエメラルドグリーンのヘアピンを持ってきた。
「これなら手が届きそうだわ!」
「じゃあオレが払うよ」
「え、いいの!?」
「もちろんだよ」
「……ふーん、アンタもたまには気が利くじゃないの」
そう言いつつ、スカーレットの耳はうっすら赤く染まっていた。
ヘアピンをつけた彼女は、くるっと身を翻し、オレを見つめる。
「どう? 似合ってるかしら?」
――ああ、似合いすぎて言葉に詰まるくらいだ。
オレは心の中でそう思いつつ、シンプルに答えた。
「……ああ、似合ってるよ」
「そ、そう!? やっぱりカーバンクルってすごいのね!」
「褒めるのそこかよ……」
素直じゃねぇな、とは思ったが――不思議と悪い気はしなかった。